『体制維新――大阪都』 橋下徹(大阪府知事) 堺屋太一(元・通商産業省)
発行:2011年10月 文芸春秋
難易度:★★★★☆
資料収集度:★★★☆☆
理解度:★★★☆☆
個人的評価:★★★☆☆
ページ数:257ページ
【本のテーマ】(表紙裏より抜粋)
「よいことも悪いことも大阪から始まる」といわれる。経済の低迷、莫大な負債など大阪を取り巻く情勢は日本の縮図といえる。橋下徹知事が掲げる「大阪都構想」は、大阪、そして日本改革の切り札となるか――。その全貌を論じつくす。
「よいことも悪いことも大阪から始まる」といわれる。経済の低迷、莫大な負債など大阪を取り巻く情勢は日本の縮図といえる。橋下徹知事が掲げる「大阪都構想」は、大阪、そして日本改革の切り札となるか――。その全貌を論じつくす。
【目次】
はじめに
第一章 大阪の衰退、日本の衰退
第二章 なぜ「大阪都」が必要か
第三章 改革と権力闘争
第四章 「独裁」マネジメントの実相
第五章 「鉄のトライアングル」を打ち破れ
第六章 大阪から日本を変えよう
おわりに
【概要】
第一章 大阪の衰退、日本の衰退
日本の現状を述べていた。成長の停滞・自殺率の増加、そして税収より支出が多い状況は、黒船出現後の幕末(1860年代)と戦後(1940年代)にしか見られていない状況としてリーマンショックは「第三の敗戦」であると説明していた。
そして、民主党への政権交代をしても変わらなかったのは、政治家よりも、政策よりも、そのシステム自体に問題があるのではないかと述べていた。
第二章 なぜ「大阪都」が必要か
高度経済成長を果たし、先進国の仲間入りをした時点では、東京一極集中型、大量生産型の時考えが主流であったが、都市が成熟したこれからの時代は、「ニア・イズ・ベター」の考えに基づいて、より地域密着型の政策・政治が必要である。しかし、大阪市は人口が260万人であり、市としては大きすぎて、「ニア・イズ・ベター」を果たしきれなくなっている。市民の声が政治に直結しにくくなっている。「行政」と「政治」は違っていて、「行政」はより地域に密着した事務作業を中心とした具体的な作業であり、「政治」は広地域を大まかにとらえて、方向性を定める概念的な方針を定める作業である。地方行政においても、国においても、この二つを混同しがちであり、総理大臣は「政治」を行うためにもっと海外に行くべきであり、国内の「行政」に時間をとられるべきではない。「行政」を行う自治体と「政治」を行う自治体を明確に分けて権利を分配することで、都市がさらに成長し、国際的な都市間競争で太刀打ちできる。
第三章 改革と権力闘争
知事になってから、財政を立て直し、私立の学費援助、ワッハ上方・大阪センチュリー交響楽団・国際児童文学館、などの文化施設の廃止、大阪市が建設したが破たんしてしまった大阪WTC(ワールド・トレード・センター)への府庁舎移転、伊丹空港の廃港提言、「大阪維新の会」の設立まで、それぞれの経緯について述べていました。
政治には権力闘争が付きまとい、政策を提言するだけでは反対勢力の勢いが強い。しかし、堺市長選の時に橋下氏が後援についた候補者が当選してから、風当たりが少しおさまった、と述べ、このことからやはり選挙が権力の説得性に直結していると感じた。
第四章 「独裁」マネジメントの実相
大阪では少し前から「二重行政」(市と府で似たような政治を行い、その結果市民の一人当たりの借金が増える)「二元行政」(市と府がお互いに別個で大阪全体に影響する政治を行っていること)が問題視されていた。
知事になった橋下氏は、まず「政治家」として大きな方針を定めることを意識し、例として槇尾川ダムの際にも、東日本大震災後、危険性を考慮し着工後の中止という大きな判断を下した。他にも知事としての考え方を職員に理解してもらうために、始めのうちはささいなことでも考えたことをメールで連絡し、自分の考え方を徹底的に伝えた。意思決定に関しては橋下氏の中でルールがあり、それは①原則は行政的な論理に勝っている方を選択する。②論理的に五分五分ということになれば、自身が政治的に選択する。③行政的論理に負けていても、これはというものは、政治的決定で選択する。このときは行政マンのプライドを尊重するためにも、論理としては行政の言い分が勝っていること、自信の論理が負けていることをしっかりと認め、自分の政治的な思い、あるべき論から敢えてそれを選択したということをしっかりと説く。と述べていました。
だから、「政治」には直感、勘、府民感覚、が必要不可欠である。と述べ、対する「行政」には継続性、安定性、公平性、論理的整合性、が求められると述べていた。
そして、新型インフルエンザが流行し始め、学校を休校にするタイミングの判断の話、国歌の起立斉唱を議論として取り上げるかどうか、などの「政治的」判断の一連の詳細について書かれていました。
第五章 「鉄のトライアングル」を打ち破れ
現状として、大阪市と大阪府が「二重行政・二元行政」になっており、大阪府外にも影響を及ぼすものごとを、大阪市の権限で決めてしまう。ということが起こっている。そこで、大阪都構想では、大阪都が広い範囲(大阪都全体)を捉えた「政治」を行い、大阪市内の特別自治区が「行政」を行う。特別自治区は大阪市以外の市と同じ程度の権限を有し、予算の決定権もそれぞれが有する。そうすることで市と府の対立はましになり、大阪市が市内を管理できない現状を改善し、さらに大阪市の独裁的現状も改善できる。現状では大阪市内の区は都市に匹敵する人口を抱えていながら自治体としての権限を持っておらず、また予算も市から使用用途まで決められて配分されている。
「鉄のトライアングル」とは、東京の霞が関で、役所と業界団体と政官業の癒着関係があると言われており、大阪では地域団体組織、市役所、市長により「大阪版鉄のトライアングル」ができている現状があると指摘していた。
大阪市も「都構想」提言後には、現状のままではよくないという意識を持ち、区の改革を始めるが、それは真の改革ではなく、パフォーマンスでしかなく、区に予算の使用用途を自由に決める決定権がない限り、改革は成功したとは言えない。また、「特別市構想」という大阪市を特別市に設定する案もあるが、それは「大阪市とそれ以外の市」という構図になってしまい、結果としては「大阪府」というまとまりとしての成長には繋がりにくい。
「大阪都構想」、「特別市構想」どちらも「ニア・イズ・ベター」の考えに基づいた地方分権的政策である、という点では共通している。
第六章 大阪から日本を変えよう
東京だけが日本のエンジンとしてやってきたが、これからは、東京と大阪の二極がエンジンとして国を引っ張っていくことが理想的である。
【感想】
政治について考えさせられた!!!厳密には、「政治と行政」について考えさせられた!
今読んでいる「7つの原則」という、マネジメントの本の中にも、「全てのものは2度つくられる」という言葉があって、その意味で「政治」は「設計図」としての知的創造、そして「行政」はそれを実行に移す物的創造になるんだと思いました。政治家は「政治」をするべきであって、「行政」をするべきではない。という主張は正しいと思いました。
大阪府と大阪市の現状についても少し理解することができました。なにより、橋下さんが、本の中でも同じことを何度も何度も、ことあるごとに主張しているのが、実際の政治で意見を主張する際にも、何度も同じことを説明したんだろうなぁ。ということを考えました。しかし、そのおかげで、難しい政治の話でも、要所は掴みやすかったと思います。
「大阪といえば大阪市」であった現状が都市の発展と共に変わってきていて、大阪市以外の市の存在が大きくなってきている中で、大阪府のことを大阪市の権限で決めてしまうのは、ふさわしくなくなってきている。さらに、大阪市は大阪市だけで市内のそれぞれの区を管理することが難しい。そういう二つの条件が重なって、新しく「ニア・イズ・ベター」の考えに基づいた自治体を再構成すること、そして、大阪府という広い範囲での方向性を示す「政治」と、それぞれの地域に密着し、規模によって臨機応変に行う「行政」のふたつを正しく機能させるための「大阪都構想」であると理解しました。
大阪市に生まれた時点で、「二重行政」により借金が他の都道府県の市に生まれた人より数倍多い、という事実はショックでした。大阪市民やばいやん!!!それでいて、人数が多くて市民の声が政治に反映される実感がないから政治に対して無気力・無関心。。。やばいやばい!!果たして、自分が大阪市に生まれたことはラッキーなのか、それともアンラッキーなのか。。。ということを考えさせられました。
ただ、一つ。懸念点としては、地方分権が実現されると、それぞれの地域の責任者の質の高さが要求されると思います。つまり、選挙で誰を選ぶか、が重要になってきます。(大阪市の場合だと新たに区長を選べるようになる)そうなったとき候補者を選ぶ市民が、どれだけ意識をもって選挙に参加できるでしょうか。もし地方分権で不適切なリーダーが選ばれてしまった場合の危険性をどれだけ意識できるでしょうか。結局は、市民にとって都合のよい政策を掲げる候補者が選ばれてしまうのではないでしょうか。地方分権は究極的な理想ではあると思いますが、市民の政治に対する関心をもっと上げない限り、市民が候補者の「見せかけの政策」に惑わされずにその奥にある「政治」を見抜く力を持てない段階で行うのは、「まだ早い」と言われても仕方がないのかもしれません。
しかし、逆説的なようですが、橋下さんの「大阪都構想」の一連の活動によって、大阪の政治が盛り上がってきているように感じます。「大阪都構想」って結局何なん?って思って、本を読んだり、新聞を読んだりして調べていくうちに、大阪が抱える問題を知ることができる人がたくさん現れると思います。
そういう意味で橋下さんはすごいと思います。極論を提示して、議論を尽くして、双方が納得した上で決定し、実行する。そうすることで、決定後の取り組む姿勢が大きく変わってくると思います。
都構想の考えも知事になり始めた最初の方の段階から考えていた、という話もあり、本当に政治家として大きな枠組みを作る「政治」をしようとしているのが伝わってきました。
働き出したら大阪府にはいないのですが、遠くから大阪都構想の行く末を見守りたいと思います。
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