2014年10月20日月曜日

119/200 『バラエティ番組化する人々』榎本博明(精神学博士)

読破っ!!
『バラエティ番組化する人々』榎本博明(精神学博士)
発行:2014年10月 廣済堂新書
難易度:★
資料収集度:★
理解度:★
個人的評価:★★
ページ数:188ページ


【本のテーマ】(裏表紙より抜粋)
自分のキャラを意識し、仲間とキャラが被らないように気をつかう現代人の人間関係。
キャラにのっとったお約束のやり取りは、テレビのバラエティ番組さながらの様相だ。
キャラによって自分の出し方が決まり、無難にその場をやり過ごせる一方で、
キャラという借り物の個性にとらわれ、息苦しさを感じる人も多い。
「キャラ」と「自分らしさ」をめぐる心の問題を心理学者が徹底分析。

【目次】
第一章 武器としての「キャラ」
第二章 キャラが生み出す安心と葛藤
第三章 その場にふさわしいキャラを生きる
第四章 「自分らしさ」がわからない
第五章 キャラをヒントに「自分らしさ」をつくっていく

【要約・感想】
とても「今」の若者の心理を分析した著書でした。
近年「キャラ」という言葉が多用されるようになり、
その良さと危うさ、そして、その特性を理解した上で、
「キャラ」とどのように向き合っていけばよいのか、考えさせられる本でした。

まず、この本が伝えたかったことの一つとして、
「本来、人間とは多面的な性格を持つ存在である」というテーマが伝わってきました。
しかし、その多面的な自己のままで人間関係の中に飛び込むと、
複雑になりすぎてお互いに疲れてしまうから、
人間関係を円滑に、シンプルに、そしてテンポよくするための
一面的な自己しての「キャラ」を規定する。というのが「キャラ」の概念であると感じました。

そして、そんな「キャラ」というのは、確固とした普遍的な物ではなく、
その場その場に応じて、特に所属するグループに応じて形を変えて、
周りとの関係の中で「キャラ」が形成され、それを自分が「演じる」という図が成り立つ。
自分の中に目指す理想の「キャラ」のイメージがあって、
周りとの関係の中で形成された「キャラ」もそのイメージに近い場合は
窮屈さを感じることは少ないが、
演じる「キャラ」が自分の理想の「キャラ」とかけ離れている場合は、
窮屈さを感じてしまうことになる。

「キャラ」がここまで普及した理由の一つに、
社会的な外的要因による自己規定が減り、より自由な社会になったことがあげられる。
年齢・性別・所属等、外的な要因により自己を規定される機会が減ったことにより、
より自分らしく、自由に発言・行動できるようになった。
しかし、その反面、自己を規定するものが無くなったことにより、
曖昧な自己になってしまい、そんな自己イメージを補うために「キャラ」を利用する。

「キャラ」コミュニケーションは、
誇張され、わかりやすく、テンポが良く、表面的には面白い関係ではあるが、
その反面、人間の多面性を否定し、個人的な深いところまで入りにくく、
相手にあまり立ち入らなことを「優しさ」とする傾向がある。

そんな今の時代で「キャラ」をうまく使いこなすには、
まず、自分が理想とする「キャラ」の自己像を明確にする必要がある。
そのためには、自分がどんな人間であるのかを知る必要があり、
周りとの関係の中から形成された自分の「キャラ」を演じた時に
「違和感」を感じた瞬間こそが、「自分らしさ」を見つめ直す機会であり、
異質な人との関わりの中で形成された様々な「キャラ」を通して自分を見つめ直し、
自分が目指す「キャラ」をうまく着こなすことが理想的である。

「キャラ」という概念が良いものか悪いものかという極論では語れませんが、
コミュニケーションの潤滑油という役割では確実にあった方が良いと思います。
ただ、一方では、自分の「キャラ」、他者の「キャラ」を受け入れ、演じ合いながら、
一方で、一面的な「キャラ」を自分にも他者にも押し付けず、
人間の多面性を忘れない姿勢が大事だと思います。

2014年10月7日火曜日

118/200 『感動をつくれますか?』久石譲(作曲家)


読破っ!!
『感動をつくれますか?』久石譲(作曲家)
発行:2006年8月 角川ONEテーマ21新書
難易度:★
資料収集度:★
理解度:★
個人的評価:★★
ページ数:190ページ


【本のテーマ】(裏表紙より抜粋)
本書のテーマ:創造力
時代のテーマを読むために必要な「感性の正体」を探る。
▶質より量で自分を広げよ
▶心のベース作りは、生活環境から
▶コップを見て花瓶と言えるか
▶音楽は「記憶」のスイッチ
▶いい音楽は譜面も美しい

【目次】
第一章 「感性」と向き合う
第二章 直観力を磨く
第三章 映像と音楽の共存
第四章 音楽の不思議
第五章 日本人とクリエイティビティ
第六章 時代の風を読む


【感想】
ジブリの音楽を手掛ける久石さんの著書を読みました。

まず第一章の冒頭から、
「ものを作りにはふたつの姿勢がある。一つは自分の思うままに自由につくる芸術的な創作。
そして、もう一つは、自分が社会の一部であるという意識を持ち、需要と供給を意識した商業ベースでの創作である。」という内容の文章があり、創作ということを仕事にする、
ということに対する、大前提であると考えさせられました。

他にも、
誰かを感動させるには、まず、自分が感動できるものを作ることであり、
「誰かを感動させる」ことを目的に作るのではなく、それはあくまで結果である。

創作の根源にあるのは、自分の経験の積み重ねである。
どれだけ創作に関わる理論を学んだとして、
作品の構造を詳しく分析することができても、
その先のゼロから一を生み出すクリエイティブなところに辿り着くことはできない。
ひらめきや着想のイメージとして、
コップを見て花瓶だと言える(コップであるということは承知しながら)
様々な可能性や違う角度から理解する方法を生み出す姿勢が大切だと述べていた。

第一印象は間違っていないことが多い。
久石さん曰く、サンドウィッチ理論
=「第一印象→案外こうなのか!→いや、やっぱりこうだった」ということが多く、
最初に受ける第一印象は間違っていないことが多い。

セレンディピティについて、「偶然の出会い」を大切にすることで、
思いがけない幸せを見つける能力(=セレンディピティ)を磨くことができる。

また、「音楽する」という言葉について、
日本のオーケストラを指導しに来た外国の指揮者が、
最初の演奏でそのクオリティの高さに驚いたが、
帰国する時には、「もう二度と来たくない」と言われてしまい、
その理由が、「もとからクオリティが高く、そこからの上達が見られない。」からだったという。
海外のオーケストラは、最初の時点で「個」の主張が強く、
始めはバラバラだが、練習を重ねるうちに、「その団体の音楽」を紡ぎ出していくこと(=音楽する)
によって、日本オーケストラの最終的なクオリティを超えるほどのレベルに達する。
その点に関して、日本は最初から「阿吽の呼吸」的な感覚を持っており、
集団としてのある一定のレベルにまでは到達出来るが、そこからさらに上達することが難しい。
その理由として、民族の単一性、多様性があり、血族結婚が多いバリ島のウブドのエピソード、
民俗の血縁が濃いため、音楽する際、リズムの息が合いやすい。という話を述べていた。

日本は、伝統を重んじ、伝統文化を大切にし、伝統楽器が昔のままで存在し、
かつて演奏されたであろう音楽がそのまま今でも聞ける。
その「保存能力」は素晴らしいが、しかし、それは世界的に見ると実は特殊なのではないか。
例えば中国は、文化を踏襲するということを嫌い、毎回なんらかの「創意工夫」を行い、
そのため、「もともとの形」がもはや分からなくなるほど、常に変化し続けている。
日本人は伝統にはあまり手を加えたがらない反面、
新しい文化を取り込み、自国の文化風に「アレンジ」する能力が高い。
天ぷら、牛肉、カレー、ラーメンしかり。どれも元は外国から入ってきた文化が、
日本流にアレンジされ、日本文化に定着したものである。
その反面、行き詰まると、それまでの文化を切り離し、蓋をして、「リセット」するという癖がある。
明治維新を皮切りに西洋文化が入ってきた時や、戦争に負け価値観を180度変えたことなどが
例として挙げられていた。低成長期に入り行き詰まり感が出てきた現在、
次はどのような「リセット」を行うのか、という懸念がある。

世界的に活躍する久石さんの作曲活動の裏側、
音楽を通して久石さんが考えた「創作」について、そして、その「創作」に対する、
国や民族による違いについて。
世界的に活躍する音楽家である久石さんだからこそ見える、
これまで考えたことのない視点からの日本文化論は、とても刺激的でした。

2014年10月5日日曜日

117/200 『ヤンキー経済』原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所)


読破っ!!
ヤンキー経済~消費の主役・新保守層の正体~』
原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所)
発行:2014年1月 幻冬舎新書
難易度:★
資料収集度:★
理解度:★
個人的評価:★★
ページ数:220ページ


【本のテーマ】(裏表紙より抜粋)
「若者がモノを買わない」時代、唯一旺盛な消費欲を示しているのがヤンキー層だ。
だが、ヤンキーとは言っても鉄パイプ片手に暴れ回る不良文化は今は昔、
現在の主流は、ファッションも精神もマイルドな新ヤンキーだ。
本書では密着取材とヒアリング調査により、「悪羅悪羅系残存ヤンキー」「ダラダラ系地元族」に分化した現代のマイルドヤンキー像を徹底解明。
「給料が上がっても絶対地元を離れたくない」家を建てて初めて一人前」
「スポーツカーより仲間と乗れるミニバンが最高」など、
今後の経済を担う層の消費動向がわかる一冊。

【目次】
序章 マイルド化するヤンキー
第一章 地元から絶対に離れたくない若者たち~マイルドヤンキー密着調査~
第二章 マイルドヤンキーの成立
   第一部 ヤンキーの変遷
   第二部 マイルドヤンキーの立ち位置
第三章 ヤンキー135人徹底調査
第四章 これからの消費の主役に何を売るのか

【感想】
ZIPのレギューラーメンバーとしても活躍されている原田さん。
ZIPで見る前から著作を読み、僕の尊敬するマーケティングライターの一人でした。

以前読んだ原田さんの著書「さとり世代」には網羅されていない範囲の若者についての、
実態調査をもとにした随筆で、たいへん興味深かったです。

「ヤンキー」と言われる人間像の時代の移り変わりに伴う変化。
「リーゼント・暴力・ガツガツ」等のイメージから、「オシャレ・仲間意識・地元」というイメージを
含んだ人間像に変わりつつある。そんな現状が伝わってきました。
そんな新種のヤンキーを「マイルド・ヤンキー」と命名し、
彼らからすると、一昔前の「ヤンキー」はもはや「ファンタジー」でしかない。というのが、
とても興味深い発言でした。

バブルがはじけるまでは、右肩上がりの成長社会で、
親世代よりもより「良いものを」手にするために必死になったり、見栄を張ったり、
また、そんな金の亡者化とした親世代に反発心を抱いていたかつてのヤンキーと対照的に、
失われた10年を経て、好景気を経験したことのない、
新ヤンキーは、「現状維持」だけでも十分大変なことであると感覚的に理解し、
多くを求めず、新たな世界に積極的に飛び込むこともなく、
自分のしっている世界の中で、その日常を大切にしたいと考えている。
それはかつての日本の「ムラ社会」と通じるものがあるのではないか。

という主張も、別の著書、「新ムラ社会」と共通するところがあり、
論述にブレがないな。と思いました。

原田さんの著書を読むと、自分の価値観を見つめ直させられます。
なぜなら、バブルを経験した大人たちが、自分たちの感覚で
若者たちに物を申し、価値観を押し付けてきた時、
自分の中では、何かが違う、と違和感を感じながら、
でもそれをうまく言葉にして主張できないと感じることがあるからです。
わかりやすい例で言うと、「ガツガツしろ」とか、「今時の男子は草食系だ・・・」とか。

高度成長の時代を経て、成熟社会と呼ばれるようになった今、
必要な人生観は、「現状維持に満足」することなのではないでしょうか。
かつての価値観を引きずったまま、「気合」や「根性」だけで、
緩やかな経済上昇をかつてのように押しあげさせようとするのは、
無理があるのではないでしょうか。

あとがきに書かれた、ベネチアのゴンドラ漕ぎの青年の話がとても印象に残りました。
観光者向けのゴンドラを漕ぐ仕事を三代前からしている青年。
幼い著者がその青年にそんなちっぽけな人生に満足なのかと、
父を通して英語で聞いてもらったところ、
「祖父と父と同じ仕事ができて、すごく幸せだ」という答えが返ってきた。
著者が推測するに、ヨーロッパはもともと階級社会である上に、
その頃にはすでにヨーロッパ全体が低成長期にはいっており、
「現状維持」に満足できる価値観をその青年が持っていたのではないか。

現代の日本の若者もその青年と同様に、
「日本という成熟社会の中でいかにして幸せに生きていくのか」という問いについて、
しっかりと向き合わなければならないのではないでしょうか。

2014年10月1日水曜日

116/200 『柳井正の希望を持とう』柳井正(ファーストリテイリング社長)


読破っ!!
『柳井正の希望を持とう』
柳井正(ファーストリテイリング社長)
発行:2011年6月 朝日新書
難易度:★
資料収集度:★
理解度:★
個人的評価:★★
ページ数:210ペー

【本のテーマ】(表紙そでより抜粋)
人は希望がなければ生きていけない。
希望を持つには人生は自分が主人公だと信念を持ち、自分に期待することだ。
「どうせ自分なんて」ではなく、「自分はこんなことができるのではないか」と
自分に期待し、人よりも少しでも得意な部分を探す。
そして、そこを一生懸命に磨けば、必ず活路は開ける。
ユニクロの経営者が全てのビジネスマンに贈る仕事論。

【目次】
第一章 自己変革を急げ
第二章 経済敗戦からの出発
     (1)日本の変革
     (2)変革を先取りするユニクロ
第三章 私の修業時代
     (1)UNIQLOの本質を考えた頃
     (2)UNIQLOへの道
     (3)修行時代に学んだこと
第四章 基礎的仕事力の身につけ方
     (1)営業現場で格闘する
     (2)ビジネスマンにとっての人脈
     (3)読書という基礎的勉強
第五章 自己変革の処方箋
     (1)若きビジネスマンへ――自分を信じよ
     (2)中堅ビジネスマンへ――失敗から学べ
     (3)上司、マネージャーへ――鬼にも仏にもなれ
     (4)経営を目指す人と経営者へ――「実行」こそが全て
     (5)すべてのビジネスマンへ――零細商店の店主のつもりで働け
第六章 希望を持とう


【感想】
柳井さんの人生の経歴と、人間性がよくわかる本でした。
経営とは「実行」である、悩み続けず、前へ進め。悩む時は紙に書き出せ。
零細商店の店主のつもりで働け。等、
様々な格言を述べていましたが、全部柳井さんの経験に基づいたものであり、
説得力とエネルギーがありました。

父親から譲り受けた小さい洋服店を原点として世界的企業にまでなった過程には、
妥協せずに、「全ての人にとって、より良いものを売りたい」という信念がありました。
そして、その信念を今でも持ち続けているというのがよく伝わってきました。
しかし、その要求のハードルの高さが、今のユニクロが「ブラック企業」と言われる所以で
あるとも感じました。
特に、各店舗の店長に対して「店長十戒」というものがあったのですが、
その条文が全て「命令形」で書かれていたのが、少し抵抗感を感じました。

柳井さんが小さな洋服店から開始したときには、きっと誰かから命令されることはなく、
自分で模索して試行錯誤して来られたのだと思います。
社員に英語の勉強を週10時間、インターネット上で学習具合を監視しながら強制したり、
店長十戒を(悪く言えば)押し付けたり、
柳井さんは社員のために良かれと思ってやっていることが、
社員にとっては重すぎる、ハードルが高すぎるということもあるのではないかな、と考えました。
しかし、世界企業にまで成長したUNIQLOを維持するためには、
仕方のない事なのかもしれない。とも考え、柳井さんの責任感から来ている方針なのだと思いました。

一番衝撃的だったのが、
柳井さんが、本人曰く大学時代には勉強をせず麻雀ばかりやっていて将来の事を考えておらず、
縁故で一度ジャスコに就職したけれど9か月で辞め、友達の家に居候させてもらいフリーター的
生活をし、その末に親の店を継いで小さな洋服店を経営し始めたというエピソードです。
柳井さんのような人でも、大学時代ってやっぱりそんなもんなのかぁ。少し安心する反面、
でもそれって、今、大学卒業後の新卒にユニクロ社員として要求しているハードルの高さと矛盾するのではないか?と考えてしまいました。

大学時代のエピソードにせよ、ファーストリテイリングが初めて上場した時に、
「これでやっと本屋で高い本を気にせず変える」と思ったというエピソード、
そして、障がい者を積極的に採用し、「人は誰しも何らかの弱いところ、傷ついたところを持っていて、健常者と障がい者との間の差は実はそんなに大きくない」と語るエピソードであったり、
随所に庶民感覚というか、人情味のある柳井さんの人柄がうかがえました。