2013年8月28日水曜日

100冊読書 19/100 『アホの壁』 筒井康隆

 読破っ!!
『アホの壁』筒井康隆(作家)
発行:2010年2月
難易度:★☆☆☆☆
ページ数:184ページ
 
【本のテーマ】
人はなぜ「アホ」なことをしてしまうのか?個人的な範囲から、組織的な範囲、そして、国レベルでの「アホ」な行為について分析し、論じていた。


【キーワード】
ナルシズム、罪悪感と自己破壊衝動、焦点的自殺、エロスとタナトス、
同種既存、文化的立場、精神の卓越、平和主義者
 
 
【目次】
序章:なぜこんなアホな本を書いたか
第一章:人はなぜアホなことを言うのか
第二章:人はなぜアホなことをするのか
第三章:人はなぜアホな喧嘩をするのか
第四章:人はなぜアホな計画をするのか
第五章:人はなぜアホな戦争をするのか
終章:アホの存在理由について

【概要】
序章では、本書を書くきっかけを述べていた。
新書の執筆を依頼されたときに、今の自分に何が書けるかを考えた末に、良識とアホとの間に立ちはだかる壁をなぜ人が乗り越えてしまうのか、について考えてみようと思ったから。と述べていた。

第一章では、ある個人がなぜ「アホ」なことを言ってしまうのかについて述べていた。
この本の中の「アホ」とは、ユーモアとは違う、価値のないつまらないものと定義づけていた。アホなことを言ってしまう理由として、①潜在的欲求②強迫観念③局面暴言④甘え、ナルシズム⑤社会的・歴史的背景⑥本物のアホ⑦バラエティ番組から学ぶ、という7つの要素を具体的事例と共に述べていた。

第二章では、ある個人がなぜ「アホ」な行動をとるのかについて述べていた。
おもに第一章で述べた①潜在的無意識(フロイト的なもの)によるものと、②罪悪感と自己破壊衝動による「焦点的自殺」(意識的に方向づけられる自己破壊)のもの、によると述べていた。
②の根本にある要素の例として、哀れな自分に酔うマゾヒズム的なナルシストがあると指摘していた。

第三章では、「アホな」喧嘩というものについて、その特徴と向き合い方について述べていた。
「アホな」喧嘩というものは、両者に何の利益も生み出さずに、不利益を生む。と述べ、それでもアホな喧嘩が起こってしまう原因として、喧嘩をしかけるものの生育環境を述べていた。最終的に「アホな喧嘩はアホが勝つ」と述べ、理論や理性で勝つことが不可能であるとし、矛先をそらすなどの方法をとらない限り、自分も「アホの壁」を超えてしまうことになる。と述べていた。

第四章では、組織の中でなぜ人は「アホな計画」を立て実行してしまうのかについていくつかの事例をあげて説明していた。
①専門家でない親戚友人で事業を立ち上げる②相反する意見を中途半端に混ぜ合わせる③成功の夢によって計画を進める④計画の良いところだけを数える⑤批判を悪意と受け取る⑥自分の価値観だけに頼る⑦成功した事業を名前からまねる⑧専門外のことに簡単に手を出す⑨低い予算で恰好だけつけるなど実際にあったことも含めた「アホな計画」について述べていた。

第五章では、「アホな戦争」がなぜ起こるのかについて述べていた。
「アホな戦争」とは、政治的・宗教的対立による戦争を含まない。として、①スポーツに見らる同種既存(ナショナリズム)の過激化による戦争②歴史の中で「女」が関係しておきた戦争、について述べていた。また、「戦争をなくす方法」について、アインシュタインとフロイトが手紙でやり取りしていたその内容をとりあげ、「文化」が知性を強化し、攻撃本能を昇華させ、内面化させる性質をもつため、戦争と対立する立場にある。と述べ、文化を高める教育を広めることが戦争をなくすことにつながると結論付けていた。

終章には、アホの存在意義について述べていた。
アホがいることで、反面教師になったり、問題が浮き彫りになったりする。と述べ、またアホがいることで、歴史がより豊かなものになった。としていた。また、アホな行為により、無意識の願望を発散することができるため、心のバランスをとる役割を「アホ」が担っているとも述べていた。

【感想】
題名を見たとき、「これ、パクリやん」って思いました。そして、著者をみると、「時をかける少女」とか、「ビーハップハイヒール」でお馴染の筒井康隆さんだったので、気になって読んでみました。
本の構成が、個人的な内面からどんどん組織になり、国になり、と話のスケールが広がっていくところが、さすが作家だ!と思いました。歴史的な話や、フロイトの専門知識の部分は少し難しかったですが、全体的に気軽に読める本でした。
ナショナリズムによる戦争を「アホな戦争」と言い切っているところや、「文化」が戦争と対立し、平和主義者を増やす。という話は共感できました。僕のある中国人の友達が「ヲタクは世界を救う」って言っていたのを思い出し、それをもう少し広く言うとこうなるのか!と思いました。
「アホ」という取っつきやすいテーマで、読みやすい文章で、読んだ時の第一印象は軽かったのに、こうやってまとめてみると、深い話だと再認識しました。「アホ」の深さについて考えるきっかけとなった本です。
また、「アホ」の原因の中にナルシズムという言葉が出てきており、「自己愛」と関連しているということが興味深かったです。人間が自己愛とどう向き合うのかというのは、根源的なテーマのように思います。

【個人的理解】
80% 世界史の歴史の引用、フロイトなどの引用の自分の理解が足りないので。
【個人的評価】
70点 気軽に読めるエッセイ的な本でした。

2013年8月27日火曜日

100冊読書 18/100 『思考停止社会~「遵守」に蝕まれる社会~』 郷原信郎

 読破っ!!
『思考停止社会~「遵守」に蝕まれる社会~』郷原信郎(弁護士)
発行:2009年2月
難易度:★★★★☆
ページ数:210ページ
 
 
【本のテーマ】
経済の自由化が進むとともに、「法律」のあり方が変わってきている。
「社会の周辺にある特別な存在」であったものが、「日常的な世界」に侵入してきている。
しかし、人々はそれに対応できず、かつての「法律に対する遵守」の姿勢を変えれずにいる。
遵守による思考停止から脱却するにはどうすればよいのか?
【キーワード】
隠ぺい、偽装、改ざん、捏造、法令遵守、コンプライアンス、
「カビ型」違法、「ムシ型」違法、経済司法、
市民感覚、民衆裁判、「文化包丁」・「伝家の宝刀」としての法律、
事務弁護士、社会的要請
 
【具体的事例】
不二家賞味期限偽造問題、ローソン「焼鯖寿司」自主回収事件
伊藤ハムシアン化合物地下水混入事件、
姉歯氏偽装建築事件、鉄鋼業界水圧検査捏造事件、
村上ファンド事件、ブルドックソース事件、ライブドア事件、
裁判員制度、厚生年金記録改ざん事件、
TBS「朝ズバ」不二家バッシング事件、
 
 
【目次】
はじめに
第一章:食の「偽装」「隠蔽」に見る思考停止
第二章:「強度偽装」「データ捏造」をめぐる思考停止
第三章:市場経済の混乱を招く経済司法の思考停止
第四章:司法への市民参加をめぐる思考停止
第五章:厚生年金記録の「改ざん」問題をめぐる思考停止
第六章:思考停止するマスメディア
第七章:「遵守」はなぜ思考停止につながるのか
最終章:思考停止から脱却して真の法治社会を
 
 【概要】
第一章では、食をめぐるいくつかの事件を通し、法令順守に過敏になっている社会を論じていた。
不二家賞味期限偽造問題についても、伊藤ハムのシアン化合物地下水混入事件についても、著者は弁護士として深く関係していく中で、どちらも健康被害に直結したものではないと知る。
しかし、「法令順守」をしていない、危険性を「隠蔽」している、という社会的風潮が過激化し、
具体的な内容を見ずに批判する姿勢になってしまっている。ことを指摘していた。
 
第二章では、姉歯建築偽装問題などを取り上げ、事件の背景を論じていた。
建築偽装問題の根源となったのは、1981年の建築基準法の改正で、耐震基準が導入され、その法令を順守するために、価格競争的に無理が生じ偽装が生まれた。そのような構造的要因は取り上げられず、偽装へのバッシングが過激化した。鉄鋼業での水圧試験データのねつ造についても、法令や規則、基準と実態の乖離が原因であると指摘していた。
 
第三章では、村上ファンド、ライブドア事件などを取り上げ経済司法の貧困について論じていた。
取り上げた事件は、司法の判断により、経済的に大きな影響を与えるものであったが、その影響力を考慮しきれていなかったことを指摘し、日本の経済司法の貧困を指摘していた。それは、経済司法が刑事司法などにくらべ変化のスピードが激しく、固定的な司法では対応しきれない。と述べていた。
 
第四章では、裁判員制度導入の過程についての思考停止が述べられていた。
裁判員制度は、導入の目的の議論が不十分なまま導入されてしまった。議論が不十分なまま法律で裁判員制度実施が定められてしまったことや、「やらないよりはやった方が良い」という風潮で進められてしまっている。と指摘し、その問題点を挙げていた。
 
第五章では、厚生年金記録の「改ざん」問題について、その問題の背景を述べていた。
「改ざん」という言葉が非常にあいまいで、定義を明確にすると何種類かのケースに分けられ、その中でも、実質的に被害を被ったケースは実はあまり多くないと述べ、しかし報道や社会には、「改ざん」のイメージが過度に広まっていた。ということを指摘していた。
 
第六章では、マスメディアが過度のバッシングを助長する側面があるということを述べていた。
TBS「朝ズバ」で第二章で取り上げた不二家の事件をバッシングする際に、証言をすり替えた捏造データを使い、権利を侵害したと指摘していた。放送倫理BPO委員会に追及されてもごまかし続けていたということを指摘し、メディアの在り方を述べていた。
 
第七章では、遵守がなぜ思考停止につながるのか、をアメリカの司法と比較して論じていた。
アメリカの方に対する考え方は「文化包丁」的であり、身近で個別的で有効的なもの、であるのに対して、日本は「伝家の宝刀」的であり、特別の時に「絶対有効的」なものとして使われるものであり、普段は慣習などで解決をしていた。と述べていた。しかし、経済の自由化が進み、コンプライアンスが重視されることで、法律が日常生活に少しずつ侵入してくるようになった。しかし、日本人は依然として、「伝家の宝刀」的対応で、法令が絶対的であるという態度が「法令遵守」の思考停止を生む、と指摘していた。
 
終章では、これからの司法の向かうべき道を示していた。
法令遵守が水戸黄門の「印籠」のような絶対的なものである、という考えから脱却し、その「印籠」をしっかりみつめ、それが「何を意味するのか」「どんな論理があるのか」を正面から問い直す態度が必要である。と述べていた。そのためには、「社会的要請に対する鋭敏さ(sensitivity)」と「人や組織がお互いに力を合わせること(collaboration)」が重要であると述べていた。また、法曹資格を持つ人にも変化が求められており、法廷弁護士(特別な事例を中心に扱う)から、事務弁護士(経済など、社会の中心的な事例を扱う)に向け、弁護士の質を変えるための教育や制度が必要であると述べていた。
 
【感想】
とてもハードでディープな内容の本でした。著者が法律家であるということもあり、具体性と説得性がありました。二章から五章くらいまでの具体的な事例は、半分くらいしか理解できなかったです。
しかし、本当はそれくらい奥が深い理解がないと語れない問題を、ニュースでは簡潔にまとめられてしまう、ということが、どれだけ無理解的で、危険であるかということを改めて考えさせられました。
あまり馴染みのなかった「法律」というものについて少し考えることができました。決まっているから、と思考を停止してしまうのではなく、その「決まり事」が、時代の現状と合っているのか、という視点を持って法律と向き合えるようになりたいと思いました。
 
司法との向き合い方が国によって違う、ということについても考えるきっかけとなり、少し興味を持ちました。
 
【個人的理解度】
40% 第七章と終章がそれまでの曖昧な理解をつなげてくれました。
【個人的評価】
90点 すごく深い話だと思うのですが、今の時点では理解しきれません。。。

2013年8月26日月曜日

「世界に一つだけの花」は農家と花屋に感謝しろ!

SMAPがカバーをして一躍有名になり、紅白歌合戦でも歌われた。
「世界に一つだけの花」その歌詞の解釈について考えてみたいと思います。

まずは、世界に一つだけの花の歌詞を、一番だけ見てみます。

No.1にならなくてもいい
もともと特別な Only one


花屋の店先に並んだ
いろんな花をみていた
ひとそれぞれ好みはあるけど
どれもみんなきれいだね
この中で誰が一番だなんて
争う事もしないで
バケツの中誇らしげに
しゃんと胸を張っている

それなのに僕ら人間は
どうしてこうも比べたがる?
一人一人違うのにその中で
一番になりたがる?

そうさ 僕らは
世界に一つだけの花
一人一人違う種を持つ
その花を咲かせることだけに
一生懸命になればいい


<表向きの解釈>
「競争なんてしなくても、もともと自分たちは「only1」であり、
自分らしさを発揮することを頑張ればいい。」
という感じだと思います。

さて、ここからは、他の解釈をいくつか考えてみたいと思います。
twitterなどで検索した、色んな人の解釈や理解を集めてみました。

<「No.1との比較」解釈 twitterより引用>
「短期的にNo.1になることは誰にでもできる。そんな目先の順位より自分にしかできない才能を見つけて活かしてたったひとつのOnly oneになることの方が難しいし、その分、価値があるよね。」

<「完全否定」的解釈 yahoo知恵袋より引用>
「Only oneはNo.1を目指すためのものであり、企業でもNo.1を目指して、結果的にOnly oneになれることが多い。だからこの歌詞によってNo.1を否定すると、努力しない人の共感を得てしまう。」

<「頑張らなくていい、のではない」解釈 twitterより引用>
「あの歌を『頑張んなくていい』と解釈されるのに違和感があります。だって歌詞の中にちゃんと『一生懸命になればいい』ってあるじゃない、」

<「理系」的解釈 twitterより引用>
「花屋の花は色や形を揃えたり、栽培しやすさや病気にかかりにくいように品種改良している。
すなわち『全部同じ花』だ。」

<「前提に選別がある」解釈 twitterより引用>
「まず、前提として『花屋の店先に並ぶ』必要があって、選ばれるために『頑張って咲いた』必要が明示されていることも重要。」
「花だって店先に並ぶ前にいっぱい選別されているんだよ、と思うよね」


肯定的なものや、ひねくれたものや、現実的なもの。いろいろあって面白いですね。

いろんな解釈がある中、僕が提案したい解釈は、
<「世界に一つだけの花」は農家と花屋に感謝しろ!>というものです。

歌詞のサビの最後に、
その花を咲かせることだけに
一生懸命になればいい

という部分があります。
しかし、その部分の解釈の危険性について述べたいと思います。

花が『花屋に並ぶ』までに、研究者が品種改良を重ねたこと、花同士の競争があったこと、は、
twitterでも指摘がありました。そこにさらに、僕は、「他人の手間」について指摘したいです。
つまり、花がきれいに育つために、色んな人が手間をかけてくれたこと。
農家の人、運送業者の人、花屋の人、そして、花を買ってくれる人。
花が『花を一生懸命に咲かせる』条件を満たすためには、周りの人の協力が不可欠なのです。
野生の花は、虫に食われたり、栄養が足りなくて枯れたりします。
「世界に一つだけの花」の中に、そんな「泥臭さ」がないのも、時代の象徴だと思います。
大切に育てられてきた中で、自分らしさを大切にできる。
そんな環境に生まれたことを当たり前だと思わないようにすること。が大切だと思います。
しかし、歌詞の中の「その花を咲かせることだけに一生懸命になればいい」というメッセージを受け取りすぎると、その人たちに対する「感謝」の気持ちに意識が向きにくくなる気がします。

もちろんこの歌のテーマが「個性の多様性」というところにスポットライトがあてられた歌なので、
「その個性を作ってくれた環境に感謝!」までは伝えきれない、のかもしれませんが、
歌詞の意味が独り歩きしてしまうということがちょっと心配です。

ちなみに、作者の槇原敬之さんは12年4月7日付の朝日新聞で歌詞の解釈を述べているそうです。
「自分に植えられている種を真剣に見つめて、きちんと水をやろう。
そうすればその種が相手にもあることに気付くはず。競う相手は他人ではなく自分自身だ」
また、この歌が生まれたモチーフとなったのが、仏教の「天上天下唯我独尊」(この世の中の一人一人はみな尊い存在である)という言葉である。という逸話もあります。

歌詞の解釈は、自由で、深くて、それでいて時代を反映していて、おもしろいです。
皆さんはどんな解釈をしますか?

当時、この曲にはまった1ファンとして、この歌詞の良いメッセージを受とりました。
先ほど指摘した部分も、描かれていない意味を補って、

(自分を大切に育ててくれた人たちに感謝しながらも)
その花を咲かせることだけに
一生懸命になればいい


という理解をしたいですし、自分の胆にも銘じたいです。

行田知広

2013年8月24日土曜日

100冊読書 17/100 『不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか~』

読破っ!!
『不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか~』高橋克徳+河合太介+永田稔+渡辺幹、講談社現代新書
発行:2008年1月
難易度:★★☆☆☆
ページ数:205ページ
 
 
【本のテーマ】
会社に漂う「不穏な空気」の原因の一つに「協力できない」という点があげられる。
その現状を社会学的視点から分析し、実践的な取り組みをしている組織を参考に、解決策を模索する。
【キーワード】
役割構造、評判情報、インセンティブ、仕事の属人化、組織のタコツボ化、
社会交換理論、信頼、協力、援助、「感謝」と「認知」
 
【目次】
はじめに
第一章:いま、職場で何が起きているのか
第二章:何が協力関係を阻害しているのか
第三章:協力の心理を理解する
第四章:協力し合う組織に学ぶ
第五章:協力し合える組織を作る方法
最終章:協力への第一歩の踏み出し方
おわりに 
 
 【概要】
第一章では、職場に広まるギスギスした関係の現状例を述べていた。
成果主義の導入をきっかけに、仕事がより個別化され、自分の仕事を果たすことで手いっぱいになり、他者への協力・援助がしにくくなり、また、各個人の仕事の専門性が深まる(組織のタコツボ化)ことにより代わりが効かなくなり、各人のプレッシャーがより高まってしまっている。
このことに起因して、個人に対する負担の問題だけでなく、組織に対しても、生産性や独創性が低下したり、品質問題や不正が生じたりするような影響を与えてしまう。
 
第二章では、このような問題が起こる原因を分析していた。
検討のフレームワークとして①役割構造②評判情報③インセンティブの3つの観点から考えていた。①の役割構造とは、仕事の責任の範囲であり、かつての日本は責任の範囲が曖昧であったが、成果主義の導入により、より明確化されるようになった。生産性を高め、フリーライド(働かないで給料もらう)という状況を減らせるメリットと、自分と他者の間にあるような仕事に手を出しにくくなるというデメリットが生まれた。②の評判情報とは、人脈形成のことであり、かつての日本では社内サークルや社員旅行があったが、成果主義による効率化推進により削減の対象となり、交流の機会が減少した。③インセンティブ構造とは、仕事に対するモチベーションのことであり、かつての日本は、一つの会社が社員の生活を保障してくれていたので、「会社への貢献」に大きな意味があった。しかし、会社が社員の生活を保証できなくなってきたことにより、「会社の貢献」よりも「自分のキャリアアップにつながるか」がモチベーションの根本へと変わってきている。
 
第三章では、協力の心理を社会学的観点からのべていた。
「社会的交換理論」とは、人や組織間の関係を有形無形の資源のやり取りとみなすこと。
資源の例(金銭・商品・情報・サービス・地位・愛情など)
「協力」とは、社会的交換を行うことである。しかし、その関係が破たんする「裏切り(もらい逃げ)」により、協力関係は失敗し、不信感情の負の連鎖が起こる。
 
第四章では、「社員が楽しく働ける職場づくり」を実践している組織を考察していた。
グーグルでは、協力行動を生み出すための理念の共有、交流の場の創出の仕組みの例をあげていた。サイバーエージェントでは、理念の共有を始め、社員の意見発表の場、交流の場の創出、の仕組みの例をあげていた。ヨリタ歯科では、社員のやりがいを充実させるような仕組みの例をあげていた。
 
第五章では、協力し合える組織を作る方法を3つのフレームワークの視点から述べていた。
①役割構造については、社員の意見を発表する場やシステムを作ること、そして、組織のタコツボ化を防ぐために、マニュアルを作り、特定の人以外でもある程度対応できる仕組みを作る、という仕組みを一例としてあげていた。
②評判情報については、ただ交流の場を復活させるだけでなく、「今の時代に合った」楽しくて魅力的なイベントや仕組みを作ることが大切だと述べていた。
③インセンティブについては、「感謝」と「認知」をきちんと行えるシステムや仕組みをつくることで、「協力」に対して社員が「効力感」を得ることができ、協力関係を築くことができる。と述べていた。
 
最終章では、五章で述べた理想にむけて、どのような行動がとれるかを述べていた。
まずは現状を第三者から客観的に分析してもらい、その課題や問題点を話し合い、共有する。「協力できている」組織の例を映像で見て、感想を共有し合う、協力行動が難しいなら、まずは援助行動から始める、「感謝と認知」を徹底して、援助行動を促進する。などの例をあげていた。
 
【感想】
「協力」をテーマに書かれている本で、組織について考えるとてもためになる本でした。
協力を「社会的交換」と定義づけ、お互いの何らかのメリットの上に成り立っている。
という考え方はとても共感できました。社会的交換においては、「愛情」すらも「資源」の一つとして交換されている、と言う点も興味深いです。この理論で考えると、「見返りを求めない援助」というのも、「自分が人助けをした満足感」という「資源」を得られる一種の「社会的交換」なのだと思いました。そう捉えることで、相手への「恩着せがましさ」を軽減できると感じました。
 
協力に対する「感謝と認知」の重要性についてはとても説得力がありました。自分も継続的な協力関係を得るためにも、今後はより「感謝と認知」を積極的に行っていこうと思いました。社員の組織に対する考え方は時代によって変わってきている、ということが具体的事例をもとに述べられているのも説得力があり、働く際には、自分もそのことを意識しておきたいと思いました。
 
【個人的理解度】
80% 四人の共著のためか、まとまっていてわかりやすかったです。
【個人的評価】
80点 「社会的交換理論」という新しい概念を得ることができました。

2013年8月21日水曜日

100冊読書 16/100 『前田敦子はキリスト教を超えた~<宗教>としてのAKB48~』濱野智史

読破っ!!
『前田敦子はキリスト教を超えた~<宗教>としてのAKB48~』濱野智史(批評家)ちくま新書
発行:2012年12月
難易度:★★★☆☆
ページ数:205ページ

 【本のテーマ】
AKB48になぜ多くの人が魅力されているのか?なぜ前田敦子がセンターだったのか?
AKB特有のシステムを読み解くことから、その魅力と社会的な意義を、
キリスト教という<宗教>の観点から考察する。

【キーワード】
アーキテクチャ、利他性、超越性、純粋匿名性批判、相対主義の絶対化、資本主義の「搾取と疎外」、リアルの身体とネットの身体、偶然性、キャラ的暴力(認知の暴力)、秩序の経済、否定神学、
(AKB48キーワード)
アンチ、握手会、握手、良対応、劇場公演、レス(目線)、コール(声援)、推しメン
 
【目次】
はじめに
序章:AKBは「いま・ここ」にある宗教である
第一章:前田敦子はキリスト教を超えた
第二章:なぜアンチに耐えられるのか
第三章:なぜ人を「推す」のか
第四章:AKBは世界宗教たりえるか
あとがき
 
 【概要】
序章では、 なぜ著者がAKB48を<宗教>という側面から論じようと考えるのかを述べていた。
また、法(恋愛禁止)・経済(AKB商法)・政治(総選挙)などのシステムが社会の縮図としての特徴をもっていることについても述べていた。

第一章では、AKB48と前田敦子が世間にどのように受け入れられていったかがのべられていた。
震災支援の活動と、「私は嫌いになっても、AKBのことは嫌いにならないで」発言に共通してみられる「他利性」を取り上げ、AKBの肯定的認識が広まっていく過程を述べていた。また前田敦子はセンターとして、多数の「アンチ」と向き合い、特にネット上の批判を「純粋匿名性批判」として、目をそらすのではなく、真摯に受け止めて成長していったことにより魅力が増したと述べていた。

第二章では、前田敦子がアンチをどのように乗り越えたのかについてAKBのシステムから述べていた。握手会や講演会、総選挙、全体を通して、「近接性」によるファンとメンバーの相互補完的関係、つまりAKBメンバーがファンを勇気づけ、ファンがAKBメンバーを支えているというフラットな関係が大きな理由のうちの一つであるとのべていた。マルクスの資本主義の原理に「搾取と疎外」というものがあるが、その2つの原理のうちの「疎外」をなるべく緩やかにしようとする動きが「AKB48」であると述べていた。

第三章では、ファンがなぜAKBに魅力を感じハマていくのかについて述べていた。
自身の経験から、劇場公演の観覧位置がビンゴで決まるという「偶然性」を述べ、「近接性」の高いコミュニケーション(目線が合う、声が届く)を通し、一方的に片思いをしているような疑似恋愛的感情を抱く。と述べていた。その感情は恋愛のようであったり、家族のようであったり、成長を見守る気持ちである。そのため、「センター」に来るのは、もっとも成長しそうな「ぽんこつ」となるようなシステムであると指摘していた。

第四章では、AKB48の宗教性について述べていた。
AKB48の持つ「近接性」と「偶然性」が人々に「生きる意味」を与える宗教的役割を担っている。と述べていた。また、今後の展開として、「世界宗教となりうる要素」として、①「ロングテール型アイドル」(メンバーがたくさんいて、自分の好みを選べる)②「選挙がもたらす正当性」の二点をあげていた。


【感想】
僕はAKB48の流行りについていけていなかったのですが、著者自身の、AKBにはまってしまった1ファンとしての視点と、学術的な視点とを掛け合わせた斬新な本だと思いました。アイドル、というものが「キャラ」を売っているという点は、宗教における「神」と同じように、皆で作り上げた「偉大な存在」として共通する点が確かにあると感じました。著者が「サリンをまかない新興宗教」のニーズにこたえる形としてのAKB48を語っていたのが、衝撃的で、鋭いと感じました。
また、ネット上の匿名批判は「無視するべきもの」というのが従来のネットリテラシーの常識であったのが、AKB48のメンバーはそれらの「無意識的で純粋な」批判に真摯に向き合うことを求められる。というような主張は、自分のこれまでの「匿名批判」の捉え方を見つめ直させられました。そして、若い世代で人気がある、ニコニコ動画におけるパフォーマンスも、リアルタイムな匿名による無意識的な純粋批判に触れる機会が多いと感じ、AKB48と共通する社会の風潮に気付きました。
「成長しうる無能者」をトップに立てるという「ポンコツポピュラリズム」に関しても、最近ブームとなっている、「ゆるキャラ」(悪く言えば無能な存在)が市や県などの責任のある公共機関のイメージを背負っているという現状に少し似ているのではないかと感じました。「無能なキャラ」を立てることが、組織の活性化につながり、組織内外ともに親近感を与えやすいのだと感じました。しかし、本の中にもあったように、「人間」は成長するが「キャラ」は成長しない。と言う点で、AKB48のメンバーはファンが期待する「キャラ」と、自身の「人間性」との間で板挟みになっているのではないか、という想像も働きました。

【個人的理解】
50% ところどころ出て来るキリスト教に関する学術的論説は専門的すぎて難しかったです。
【個人的評価】
70点 タイトルからのインパクトが大きく、AKBをとりまく現状を知ることができ、今の若い世代についてと、とこれからの未来について想像することができました。

2013年8月17日土曜日

100冊読書 15/100 『Twitter社会論~新たなリアルタイム・ウェブの潮流~』 津田大介

読破っ!!
『Twitter社会論~新たなリアルタイム・ウェブの潮流~』津田大介(メディアジャーナリスト)洋泉社
発行:2009年11月
難易度:★★☆☆☆
ページ数:191ページ
 
【本のテーマ】
ツイッターとはいったい何なのか?
オバマ大統領をはじめとして、著名人や公的機関、大企業も使い始めたツイッター。
いったい何が起こっているのか、これからどうなるのか。
いちはやくTwitterを使い始め「tsudaる」という流行語を生みだした著者が読み解く。
  
【キーワード】
Twitter、リアルタイム、オープン、「tsudaる」、0.5次情報、ガイドライン、ポリシー、
情報流通インフラ、P2P、
 
【目次】
はじめに
第一章:ツイッターとは何か?
第二章:筆者のツイッター活用術
第三章:社会に広がるツイッター・インパクト
スペシャル対談:勝間勝代×津田大介
おわりに
 
 【概要】
第一章では、ツイッターの歴史と特徴をのべていた。
ツイッターの特徴として6つ①リアルタイム性②伝播力が強い③オープン性④ゆるい空気感⑤属人性が強い⑥自由度が高い、をあげていた。
 
第二章では、著者のツイッターとの向き合い方が述べられていました。
著者も最初のうちはどのようなことをつぶやくのか、「人間関係の距離」に悩んだが、もっと「自由に使う」ことを意識し、活用法を5つに分類した。①現状報告「今なにしてる」②時事ニュースなどに対する感想③アイディア、提案、教訓、冗談④イベントの中継⑤自分の活動の告知
④はネット上で「tsudaる」=社会的意義の高いカンファレンスをツイッターで中継する行為
という言葉が生まれるほどに流行した。著者が「tsudaる」のメリットとして、①フォロワーが増える②要約のために内容をよりしっかり聞くようになる③議事録の効率化をあげていた。
また、「tsudaる」を著作権的にも考察していた。
 
第三章では、メディアの役割を見つめ直し、ツイッターの影響について考察していた。
メディアやジャーナリズムの持つ役割として①伝達機能②監視機能③構築機能(理論を導く)の3つをあげ、ツイッターがその3つの役割を果たしている具体例を挙げていた。しかし、ツイッターの情報は「0.5次元」的なものであり、「0.5→1」にする作業をメディアやジャーナリズムが行い、そこにいかに付加価値をつけられるかが今後の課題となってくると述べていた。ツイッターはメディアを駆逐するのではなく、補完するものであると認識し、情報に対して謙虚になることの重要性を述べていた。また、企業がツイッターを利用するパターンには①直接型②間接型③内部型④情報収集型の4種類あると述べていた。どのパターンにおいても、ツイッターの利用方法があまりにも自由すぎるため、独自の「ガイドライン」や「ポリシー」を明文化しておくことが重要だとのべていた。しかし、企業がツイッターを使うことで、P2P(peer to peer)的な個人と個人のつながりを作り、顧客の生の声を聞くことができ、また、社員の個人の声を届けることができる。と述べていた。しかし、活用方法に正攻法はなく、各社試行錯誤を繰り返して活用することが大切だ。と述べていた。
 
勝間氏との対談では、二人がTwitterを始めたきっかけや、Twitterから得られたものについて、
また、Twitterをどのように捉えているかについて話していた。
 
【感想】
ある調査によるとtweetの40.55%が「何を食べた」などの「意味のないtweet」であるという結果がでたという。のは興味深かったです。ツイッターの特徴の③のオープン性では、ツイッターに使われているプログラム(APIというらしい)を公開することで、関連するアプリがたくさんでている。ということを知りました。また、リアルタイム検索による情報集めという新たな情報収集方法がある。
というのも興味深かったです。
自分自身ツイッターの使い方がわからず、下手に手を出すとトラブルになりそうだという危機意識でなかなか手を出せずにいたのですが、この本を読んでTwitterの全貌が少し見え、「もっと自由に」使っていいんだと思い。また使ってみようと思いました。
 
【個人的理解度】
70%
 
【個人的評価】
80点

Twitterに対して理解が深い著者の話は大変ためになりました!
使い方の提示を聞けて自分もトライしてみようと思いました。

2013年8月16日金曜日

今日の名言 「ツイッタ―発案者 ジャック・ドーシー」

09年6月3日に行われた「メディアの未来」のパネルディスカッションにおいて。

人々がツイッターについて語ることをやめ、このような会のパネリストに呼ばれることがなくなり、人々が電気のような公共インフラとしてツイッターを使用するようになれば、われわれにとってそれが成功であると思う。単なる通信の一部として裏方へと消えていく。我々はツイッターを電子メール、SMS、電話など、あらゆる通信手段と同じレベルのものとして考えており、ツイッターがそうなることを目指している。
【感想】
東日本大震災をきっかけに、ツイッターが社会情報インフラとしての認識が広まりつつあり、リアルタイムでの情報伝達という大きな役割を果たしている中で、このような発言をしているのは、驕りが見られず、謙虚であるとともに、目指しているものがすごくはっきりしていると思い感銘を受けました。

自衛隊の「誇りを持った服従」

『社畜のススメ』の中に出てきた自衛隊の「誇りを持った服従」について、原文がのっていたのでシェアしたいです。かっこよすぎます!(>_<)「正しい服従」とは何かについて考えさせられる文章です!

1961年制定『自衛官の心構え』

「規律の厳守」
(1)規律を部隊の生命とし、法令の遵守と命令に対する服従は、誠実厳正に行う。
(2)命令を適切にするとともに、自覚に基づく積極的な服従の習性を育成する。

(条項の解説)
 真の規律は理性ある服従の状態といわれる。それはもし服従が盲目的なものか、あるいはみせかけのものであるならば、真の規律とはいえないという意味である。真の規律を確立するためには、命令はつねに適切であることを必要とし、受令者が自覚自律して積極的に服従する気風をつくり上げなければならない。
 よい命令をするものは必ずよい服従をするものであると言われる。よい命令はその内容が正しい核心をつき、服従する者の心の琴線に触れるものである。服従の真価はみずから進んで行うところにある。よい服従は裏表のない誇りを持った服従であり、それは自律にまで高めることができる。自衛隊の使命を思うとき、組織に生命と力を与えるためにする服従は、忠誠であり、協力であり、使命に生きる自覚と誇りをあらわすものである。

【感想】
強力な上下の信頼関係の下でなされる「命令と服従」は組織を強くする。
服従する者も尊敬と誇りをもって命令を受け入れることができる。
そんな組織は理想的だと思います!
民間企業という組織でそこまでできるかというと難しいかもしれませんが、
この文章を読むと、心が引き締まる気がします!
誇りを持った服従者でありたいし、尊敬される命令者になりたいです。

100冊読書 14/100 『社畜のススメ』藤本篤志

読破っ!!
『社畜のススメ』藤本篤志(元USEN取締役、現コンサル会社代表取締役)新潮新書
発行:2011年11月
難易度:★☆☆☆☆
ページ数:191ページ

【本のテーマ】
「社畜」なんて哀れで情けない存在だ。この「常識」は本当なのだろうか?
自分らしさを求め続け半人前になるよりも、あえて意識的に組織の歯車になることが現代サラリーマンンの正しい戦略である。
  
【キーワード】
社畜、七五三の法則、自分らしさ、個性、「孤性」、サラリーマンの4大タブー
服従の誇り、「守破離」、クレバーな社畜
 
【目次】
まえがき
第一章:「自分らしさ」の罪
第二章:個性が「孤性」になる悲劇
第三章:会社の「歯車」となれ
第四章:ビジネス書は「まえがき」だけ読め
第五章:この「ウソ」がサラリーマンをダメにする
第六章:「クレバーな社畜」がベストの選択
終章:運、縁、恩
あとがき
 
 【概要】
第一章では、「自分らしさ」の危険性について述べていた。
中卒で7割、高卒で5割、大卒で3割が3年以内に転職するという傾向がある。その大きな理由として「職場で自分らしさが確立できない」というものがあげられるという。つまり、「やりたいこと」と現実との間にギャップがあり、その環境に適応するよりも、転職という選択をしてしまう。

第二章では、「自分らしさ」の原点である「個性」について述べていた。
サラリーマンの四大タブーとして、「個性を大切にしろ」「自分らしく生きろ」「自分で考えろ」「会社の歯車になるな」つまり、サラリーマンの正しい姿とは、個性を捨て、自分らしさにこだわらず、自分の脳を過信せず、歯車になることを厭わない存在となること。と述べていた。個性は追求しすぎると、それは「孤性」となり社会から浮いてしまう存在となる。

第三章では、社畜=下積み経験の重要性について、述べていた。
自衛隊における「服従の誇り」を例に出し、理想的な服従の形を提示していた。また、世阿弥の「守破離」という言葉をもとに、下積み経験の重要さを述べていた。「守破離」のプロセスの順番を守ることが必要不可欠であると述べていた。

第四章では、自己啓発系の本の内容を鵜呑みにすることの危険性について述べていた。
自己啓発系やビジネス本の著者には、「天才型」の人物が多く、凡人レベルでは通用しないことと、その著者たちも、下積み時代を経験しているからこそ、ノウハウを有効なものとすることができおり、その下積み時代(守破離の「守」の時代)を飛ばしてノウハウだけを鵜呑みにして実践しても、効果があるかは疑わしい。と述べていた。

第五章では、ビジネス本や自己啓発本に書かれたノウハウの「ウソ」について述べていた。
「開放的で自由な職場」・・・永遠の目標でしかない。「派閥は悪」・・・迅速な意思決定のためには派閥は有効的で、無くなることはない。どのように関わるかは自由。「社内の人と飲むな」・・・下積み時代=「守」の段階では、社外の「離」の段階の人から無責任なアドバイス(独立など)をされ、逆効果となってしまう危険性がある。「公平な人事評価」・・・現実には難しい。という覚悟をしておくこと。「一芸に秀でよ」・・・多芸であるほうがリスクが低い。「成果主義」・・・日本式「年功序列」制度の中にも成果主義の要素は存在していた。バブル崩壊後の焦りにより、成果主義に傾きすぎた。「学歴神話崩壊」・・・依然として高学歴の方が総じて多芸であり、任務遂行能力が高い。また受験を乗り越えたということは社会適応能力も高い現れであり、優秀な「歯車」になれる。「終身雇用崩壊」・・・下積み時代の経験が長い人の方が転職の際に有利。勤務条件が上がる確信があるとき以外は転職の必要性はない。「残業ゼロを目指せ」・・・仕事の効率の個人差により、残業は生じる。「残業代狙い」と思われたくない人は自主的にサービス残業をする。「ワークライフバランス」・・・私生活優先と勘違いする危険性。仕事をこなしたうえでの私生活面での充実。という意味である。

第六章では、目指すべき「クレバーな社畜」について述べていた。
「守破離」のそれぞれの段階は約12年である。つまり、「守」の下積み時代も12年を要するとイメージしておくべきである。と述べていた。また、「クレバーな社畜」になるための18個の心構えについて書いていた。クレバーな社畜として「守」の時代を経ることで、初めて、社畜から「立派な上司」そして、「立派な経営者」になれる。

終章では、著者の座右の銘として、「縁、運、恩」の存在と重要性について述べていた。

【感想】
「社畜」を推奨する。という過激なタイトルにひかれて読んでみました。が、体を壊さない範囲で、下積み時代をしっかり経験せよ!というメッセージの本でした。世間では「会社に頼るな!」とか、「若いうちから独立!」というメッセージがあふれているけれど、やっぱり社会人としての経験を積む場所として会社は大切な場所なんだと思いました。個性を重視しすぎると「孤性」になってしまう、という話はとても説得力がありました。「守破離」という言葉も素晴らしいと思い、自分も下積み時代を頑張って乗り越えようと思いました。後半のビジネス本のウソや心構えについても参考になりましたが、著者が言っていたように、結局は会社によって状況が大きく違うため、自分でまず現状を把握し、それぞれに合った心構えを自分で考え出さなければならないんだろうな。と思いました。
ビジネス書は綺麗事や理想論を述べていることが多いとのことで、現実的な一面について考えることができた本でした。

【個人的理解度】
80% エッセイ形式で読みやすく、第6章での新入社員との対談も自分に近い立場の視点が入っていてより理解が深まりました。
【個人的評価】
80点 働く前に読んでおくことで、心の準備とモチベーションを高めることができました。

2013年8月15日木曜日

100冊読書 13/100 『キャラ化する/される子どもたち』土井隆義

読破っ!!
『キャラ化する/される子どもたち』土井隆義(社会学者)岩波ブックレット
発行:2009年6月
難易度:★☆☆☆☆
ページ数:63ページ




【本のテーマ】
価値観が多元化した社会で感じる閉塞感。気遣いに満ちた「優しい人間関係」のなかで圏外化におびえる恐怖感。ケータイやネット、家庭から学校といった日常は、過剰な関係依存と排除で成り立っている。子供たちにとって、現実を生き抜くための羅針盤、自己の拠り所である「キャラ」。
この言葉をキーワードに現代社会の光と影を読み解き、「不気味な自分」と向き合うための処方箋を示す。
  
【キーワード】
圏外、スクールカースト、KY、キャラ、キャラを演じる、キャラが被る、個性、人間関係のフラット化、外キャラ、内キャラ、大きな物語、宿命主義、排除型社会、「不気味な自分」
 
【目次】
第一章:コミュニケーション偏重の時代
第二章:アイデンティティからキャラへ
第三章:キャラ社会のセキュリティ感覚
第四章:キャラ化した子供たちの行方
 
【概要】
第一章では、秋葉原無差別殺人事件や、ケータイを通したコミュニケーションをとりあげ、
「人間関係格差」や「人間関係のカースト化」について述べられていた。
個別に狭小化した日常世界の中で、予定調和の世界から出ることなく、相補関係を傷つけないような対立は表面化しないように慎重に回避する。(=優しい関係)
また、中曽根内閣のもとで、「個性重視」の教育になったことにより、
価値観がより多様化し、身近なその場の周囲の評価をより気にする「空気を読む」コミュニケーションが増えた。ということがのべられていた。

第二章では、外キャラ(キャラ)と内キャラ(=アイデンティティ)に分類し考察していた。
外キャラとは、大きな物語を外れた、二次創作的なイメージことであり、それを演じることで、その場その場に合わせた行動や発言で、グループ内のよどんだ空気を活性化させる役割がある。その反面、欺瞞的で一面的な自己であり、一貫的な自己ではない、と感じることもある。それに対する内キャラは自分のアイデンティティとなる部分であり多面的で複雑である。しかし近年、若者の間で、そのアイデンティティもキャラ化しようとする傾向があり、「宿命主義」という、自分の内面も固定化してしまい、変えようとする努力を放棄する傾向がある。

第三章では、青少年犯罪を例に犯罪者を社会から切り離す傾向の強まりを考察していた。
子供を犯罪から守るためにセキュリティや監視を厳重にしても、内側から犯罪要因が発生してしまう。それを発見する度にゲートの内側から外側へ排除するのは、根本的な解決方法ではない。犯罪者の背景について考える傾向が弱まり、犯罪者も「キャラ」とし、個人の性格に原因をもとめる傾向が強まっている。

第四章では、キャラ化が進む社会との向き合い方が述べられていた。
同質者の集団の中に居続けることは、「異質排除」の恐怖におびえ続けなければならない。
ゲートを異質な世界に向けて解放し、積極的に異質な人に出会い「不気味な自分」と向き合っていくことで、脅迫観念から解放される。

【感想】
薄い本だったので、逆にまとめるのが難しかったです。
印象に残ったのは、著者が、身分制度の両面性を述べていたことです。
身分制度には、選択の余地がない、自由がない、という負のイメージを抱きがちですが、逆に身分制度がなく選択が自由になったことで、自己の拠り所を見失い、存在論的不安定に陥ってしまう。という話がありました。だから、現代の若者は自己の拠り所を決めてくれる「宿命」的な何かを求め、それが「キャラ」として表面化している。という話は大変説得力がありました。

現代社会は表向きは身分がなくなり、「自由だ」という認識でありながら、実際は「宿命」的ものが存在し、結局少なからず選択できない格差が存在している。(イケメン、ブサメン、モテ、非モテなど)
という感想を抱きました。

全編を通してアイデンティティについて考えられる本でした。

【個人的理解度】
50% 薄かったので理解が浅いかも。
【個人的評価】
70点 キャラをキーワードにしたテーマが核心をついていると思いました。

100冊読書 12/100 『こんなに違う中国人の面子』江河海

読破っ!!
『こんなに違う中国人の面子』江河海(出版社編集主任)祥伝社黄金文庫
発行:2004年6月
難易度:★★☆☆☆
ページ数:387ページ

 
【本のテーマ】
中国人が重きを置くと言われる「面子」。しかし、どんな面子に重きを置くかは、
性別、年齢、立場、地位、学歴、職業などによってちがう。
25人の中国人のインタビューを通して、面子を考察する。
  
【キーワード】
義理人情、見映え、虚栄、知识分子、文化大革命、面子プロジェクト
面子を立てる、面子をつぶす、面子を鑑みる、面子に執着する、面子を飾る、
面子に囚われる、面子を競う、面子を保つ
白粉は顔にぬれ(何かをするときは、他人が見て一目でわかるようにやれ。)
人要脸 树要皮( 人にとってメンツは樹木に樹皮が大事であるように重要なことだ)
死要面子,活受罪 (死んでも面子が大事という態度)
 
【目次】
前書き
第一部:北京人の面子
第二部:地方人の面子
訳者あとがき
 
【概要】
25人の内訳(男16女9)

第一部(男7女6)
軍の古参幹部の息子、リストラされた失業者(男性)、二度離婚した男、タクシー運転手(男性)、
女子高校生、高級ホテル勤務男性、工場勤務女性、元不良男性、紀律検査機関女性官僚、
高校教師女性、貿易会社副社長女性、低所得家族女性、金持ち不動産業(男性)

第二部(男9女3)
研究所勤務男性、貧乏からはい上がった男性役人、男性役人、会社員男性、社会学者男性、
男性役人、水商売の女性マネージャー、会社男性社長、男性役人、出版社女性編集者、副社長男性、外資系企業勤務女性

【感想】
発行年数が少し古いけれど、一人ひとりの詳しいインタビューが独白形式で書かれており、
とても具体的で、個人的なエピソードがたくさん載っていました。
小説を読んでいる感覚で読めました。
あまりにも具体的なので、実は空想上の人物を描いているだけなのでは?という疑念も
持ちつつ読みました。(^-^;
しかしどちらにせよ、中国人が思う「面子」というものが随所に描かれていて、
理解が深まったと思います。時間を空けてもう一度読みたい本です。
そして、原文でも読んでみたいです。

「面子」というものを日本語で説明しようとすると、以下のような言葉があると思います。
見栄を張る、体裁を保つ、自己愛、誇り、プライド、
筋を通す、義理人情に流される、個の尊重
自分と相手の立場・身分の理解、
人聞きが良い・悪い、見栄えがする・しない

そして、中国人の多くの人が「面子がつぶされた」という経験をした大きな出来事のひとつとして、
「文化大革命」があげられていました。
それまで大学生、大学教授などの識者(知识分子)が
価値があるとして、もてはやされていた時代から打って変わって、
実務経験がある者が価値があるとされ、知識では太刀打ちできない、という
事態に直面した。というエピソードがあげられていました。

訳者のあとがきも興味深くて、
中国人の面子は、虚栄心や嘘つきだと捉えられることがあるが、
それは実は、他者に何かをあげるときにより見映えの良いものをあげたい、という気持ちや、
他者をより喜ばせてあげたいという情に流されている(できなくても引き受ける)
という側面もある。と述べていました。

なぜ面子にこだわるのか、という点に関しては、
訳者自身まだ結論は出ていないですが、
一つの考察として、中国人が「超現実主義」だからだと述べていました。
広大な国で出会う未知の人を瞬時に判別するために、
分かりやすい、表面的で現実的なものから評価し、信用する。
という心理メカニズムができていったのではないか。というふうに述べていました。

そして、もっとも感銘を受けたのは次の文章です。
――つまるところ、メンツは中国人の行動原理なのである。
なぜ人と仲良くしなければならないのか。なぜ、人としてこうあらねばならないのか。
この「なぜ」の部分をどう説明するかは、国や民族、宗教、文化によって違う。
日本人でいえば、ムラ社会からくる共同体原理、「場の和」がそれにあたるだろう。
中国では、それを「メンツ」で説明する。――

自分の卒論のテーマ「面子文化」と「空気文化」の関係性がより理解できました。
二つに関連性と共通点があるという自分の仮説が裏付けられたようで嬉しかったです。

【個人的理解度】
70%
個人的なエピソードの量が多かったので、
分析、という点での理解はまだしきれていないです。

【個人的評価】
90点
もう一度読み返したら、もっと理解が深まると思いました。
また、原文でも読むと、中国語の理解も深まると思いました。

2013年8月14日水曜日

100冊読書 11/100 『カーニヴァル化する社会』鈴木謙介

読破っ!!
『カーニヴァル化する社会』鈴木謙介(関西学院大学准教授)講談社現代新書
発行:2005年5月
難易度:★★★☆☆
ページ数:174ページ













【本のテーマ】
インターネット上などでおこる「日常の祝祭化」を、「雇用問題」「監視社会」「データベースから構成される再帰的自己」という3つの視点から述べていた。
  
【キーワード】
ハイ・テンションな自己啓発、宿命論、
監視社会、管理社会、ゲイテッド・コミュニティ、脱身体化、再身体化
反省と再帰、自己への嗜癖、脱社会化、
 
 
【目次】
はじめに:
第一章:「やりたいこと」しかしたくない――液状化する労働観
第二章:ずっと自分を見張っていたい――情報社会における監視
第三章:「圏外」を逃れて――自分中毒としての携帯電話
終章:カーニヴァル化するモダニティ
 
【概要】
第一章では、現代の若者を取り巻く雇用環境について述べていた。
雇用が不安定化し、また比較的豊かな親のもとに生まれた世代は、
「やりたいこと」を求め続け、また非正規社員やアルバイトを求める企業と
共依存関係となってしまっている。
また、正規社員でも、雇用状況の悪化により、
今の仕事より「やりたいこと」を想定し、ハイ・テンションな自己啓発と
冷静な状態という一種の躁鬱状態を繰り返している。
 
第二章では、監視社会についての歴史や定義を述べていた。
監視社会とは、監視国家のように一つの権力が全体を監視するのではなく、
あくまでフラットな関係のつながりの中で相互に監視をするものである。
そんな中でリスクや危険性のあるものが排除されてしまうゲイテッド・コミュニティが
形成されていく可能性がある。
 
第三章では、監視社会の中での若者の人間関係について述べていた。
ケータイの普及により、コミュニケーションが目的化し、
また、監視社会の中で集められたデータベースから導き出される
再帰的自己、一貫性のない自己を宿命として選択することが多い。
 
終章では、それまで述べてきたことと、カーニヴァル化との関係についてのべていた。
雇用の問題の中で見られた躁鬱的心境のような、満たされない自己があり、
デモやオフ会などで、「感動を共有」することを目的とした、
コミュニケーションの手段「ネタ」としての活動を行う。
データベースから導き出された選択を、宿命として受け入れ、
一貫性のない自己として、「祭り」に参加している。
 
 
【感想】
関学の准教授が書いた本。この先生の授業も受けたことがあったので読みました。
授業の時の先生の印象は、一言でいえば、「チャラい」先生だったのですが、
授業の時と本での文体とのギャップがあり、最初、戸惑いました。
難しい単語をたくさん使う論説で、ちょっとわかりにくかったです。
あと、本やデータの引用を章ごとにまとめていたり、
章の最初と最後にまとめをのせているのは、大学の授業ぽかったです。
しかし、最後まで、「カーニヴァル」という現象と、
章ごとの関連性がピンと来なかったです。
それは、たぶん、僕の理解力が足りなかったのだと思います。
 
【個人的理解度】
40%
【個人的評価】
50%
発行年が新しいものではなかったので、
話題がちょっと古いものが多かった。。。

我流「美術館の6つの楽しみ方」 

久々の更新です。
学生団体のイベント2連続で、読書ストップしてましたが、
またすぐ再開します!

まずは、今日兵庫県立美術館を鑑賞してきましたので、そのことについて少し。
美術館は滅多に行かないのですが、叔父と叔母に誘われ行きました。
今回はクラーク美術館の新館に展示される予定の作品が世界中を巡回しているとのことで、
ルノワールやモネの絵を見ることができました!













何回目かの美術館鑑賞で、やっと自分なりの楽しみ方を発見しましたので、
シェアしてみようと思います。

①「質感」を楽しむ!
絵を見たときに、まず、描かれている物の「質感」を感じとってみましょう。
ふわふわしているのか、堅そうなのか、つるつるなのか、
部分ごとの「質感」と作品全体からの「質感」を感じとり、楽しみましょう。

②「色」を楽しむ!
ルノワールの絵を見て感じたのは、彼の絵は、色遣いがすごく深い!
「黒」の背景の中にも、緑がかった黒や、紫がかった黒があったり、
不安定な色彩が、独特の幻想的な雰囲気を出していると感じました。
他の画家の絵でも色の使い方が様々なので、それぞれの「色」を楽しみましょう。

③「近く」と「遠く」で楽しむ!
絵を見るとき、ついつい近づいて見て、次の絵にうつりがちですが、
数歩引いて、少し距離をとって作品全体を眺めてみます。
すると、近くからだと荒い絵に見えたのが、
遠くから見ると、印象が変わったりします。
また、遠目で見ることで、想像力が掻き立てられたりもします。

④「解説」を楽しむ!
そして、絵に解説がついているときは、絵より先に、そちらに目を通します。
文章からどんな絵かを想像しながら、文章を最後まで読み切ります。
じらしてじらして、最後に絵を見ます。すると、絵の理解も少し深まり、
また、どんな絵か想像しながら解説を読むことで、想像力が刺激されます。

⑤風景画は「空気」を楽しむ!
風景画は、その日の一瞬を切り取って描いているので、
その時の季節や、気候が描かれています。
印象派は「光と空気」を描こうとしていた。という解説もあり、
そこに着目したのですが、まさにその通りで、
絵によっては、寒い冬であったり、雨が降りそうな曇りであったり、
自分が旅行したことのある旅先で感じた空気を思い出したりしながら見ると、
より楽しめます。

⑥美術館の「雰囲気」を楽しむ!
絵を見るだけなら、美術の本やインターネットでもできます。
しかし、美術館では、ダイナミックな大きさで、豪華な額縁に縁どられ、
空調の効いた部屋で、いくつもの作品を見ることがゆっくりできます。
そんな特別な空間を味わいましょう。
そして、美術館で美術をじっくり味わってる自分も味わいましょう。笑

(まとめ)
美術は知識ではなくて、感覚だと思います。
価値があると言われる絵に何も感じないこともあるし、
なんでもない絵に興味を惹かれることもあります。
感じたことをうまく言葉にできなくても、「見ごたえ」があったと感じたら、
美術鑑賞は楽しめたことになると思います。

そして、今回のルノワール展を見て、自分なりにルノワールを一言で表すと、、、
ルノワール=「シャボン玉みたいな絵を描く人」
だと思いました。
シャボン玉の表面に光が反射して幻想的な色が映るように、
キャンパスの中に、不安定な色で描かれた絵があって、
それでいて、すごくまとまりと存在感がある絵。
超感覚的な、詩的?な表現してみました。笑
これからも美術を自分なりに自由に楽しみたいです。

行田知広

2013年8月3日土曜日

100冊読書 10/100 『キャラ化する日本』相原博之

読破っ!!
『キャラ化する日本』相原博之(元バンダイキャラクター研究所所長)講談社現代新書
発行:2007年9月
難易度:★★☆☆☆
所要時間:約10時間
 
 
【本のテーマ】
日本には「キャラクター」や「キャラ」があふれている。様々なものが「キャラ」へ向かう現象を
「キャラ化」とみなし、「キャラ化」とはいったいどのような事か、
「キャラ化」が進む社会には何があるのか。を考察する。
  
【キーワード】
キャラクター、キャラ、安らぎ・癒し、親近感、愛着、リアリティ、
実写化、「むひょキャラ」、二世代、三世代キャラ
経験耐久消費財、キャラ・コミュニケーション
物語消費、データベース消費、「萌え」、シュミラークル、オーラ
 
【目次】
序章:日本中で「キャラ化」現象が起きている
第一章:キャラクターと日本人の精神史
第二章:大人も子供もキャラクターの虜
第三章:「私」と「キャラとしての私」
第四章:拡大する「キャラ化意識」
第五章:「キャラ」の持つ社会的存在の意味
第六章:消費・ブログ・ケータイ・セカイ化
終章:キャラ化世界はどこへ向かうのか
 
 
【概要】
序章では、本書に登場する様々な「キャラ化」を列挙していた。
アイデンティティのキャラ化、身体のキャラ化、政治のキャラ化、経済・企業のキャラ化、
消費のキャラ化、の5つをあげていた。
仮想現実に囲まれて育った世代は、「生身の現実世界」よりも「仮想現実」に
リアリティや安らぎを感じるようになった。それが「キャラ化」の始まりである。とのべていた。
 
第一章は、キャラクターが日本人の精神にどのような影響を与えてきたについて。
戦後のキャラクターの普及について述べていた。
2004年のバンダイキャラクター研究所の調査によると、
日本人の何らかのキャラクターグッズを所有する率は79%、
何らかのキャラクターに対して好意を感じる率は90.2%にまで及んだ。
性年齢別にみると、年齢が高くなっても、特に女性の間ではキャラクター商品所有率が高い。
対するキャラクターに対するネガティブイメージ(オタクっぽい等)一割台にとどまる。
キャラクターが提供する精神的効能には、
1・やすらぎ2・庇護3・現実逃避4・幼年回帰5・存在確認6・変身願望7・元気活力8・気分転換
の8つあると述べていた。
 
第二章は、キャラクターが世代を超えて愛され、「共感」と「思い出」という価値を付加していく。ということについて。
ストレスレベルの高い小学生に対して、
「母親、父親、親友、キャラクターの中で、一番安心できる存在はどれですか?」
1位は母親(56.3%)二位がキャラクター(17%)、三位が父親(13.3%)四位が親友(10.4%)
「むひょキャラ」(無表情キャラ)嬉しい時も、悲しい時も共感してくれているように感じられる。
「二世代、三世代キャラ」(親、子ともにそのキャラクターを好み、楽しめるキャラクター)
大阪府立大学荒木長照教授キャラクターは、「経験耐久消費財」である。
(キャラクターは、思い出、経験を通して、個々の中でブランド価値を高めていく。幼少期の幸福体験のような魅力が付加され、価値が強化されていく。)
 
第三章は、現実と仮想現実ベクトルの逆転についてのべられていた。
インターネットという「キャラ化社会」の中で育った世代は、
現実の存在よりも、情報としての対象の方に親近感を持ったり愛着を覚えたりする。
漫画原作の実写化について、
以前は漫画とは「複雑な現実世界をわかりやすく簡素化したもの(現実→仮想現実)」であったが、
実写化というのは、「漫画でしか描けない高度な仮想現実世界を、実写という古典的な世界に簡素化する作業(仮想現実→現実)」である。とし、リアルと仮想現実の逆転現象が起こっている。と指摘していた。
 
第四章は、日常にあふれるキャラ化した例を述べていた。
お笑い芸人(ボケ・ツッコミキャラ)
政治のキャラ化(小泉内閣、東国原知事→政治においても、キャラが立たないことが致命的弱点となる)
経済のキャラ化(「堀江貴文」と「ホリエモン」、株・債権・証券→仮想現実)
身体のキャラ化(タトゥー・ピアス・ガングロ・コスプレ→拡張的な身体 脳トレブーム)
 
第五章は、「キャラ」と「キャラクター」の違いについてと、「キャラコミュニケーション」について述べられていた。
「キャラクター」は、人やその性格のことをさす。
対する「キャラ」は、キャラクターに先立って「存在感」や「生命感」を感じさせるもの。
若者のキャラ・コミュニケーションについて。
自分が「何キャラ」であるか、は自分で選択するのなく、所属する集団が恣意的に決める。
自分が「何キャラ」と決まっていることが、集団内での居場所があることを意味し、
「キャラがない」ということは、その人のアイデンティティを揺さぶるほどの不安を引き起こす。
この傾向は、人格をわかりやすく記号化し、視覚化している行動であるといえる。
キャラコミュニケーションは、相互の表層的な関係ができやすいが、
深く入り込んで、自分の予想を超える未知なるコミュニケーションに対する強い拒否反応を示す。
自分の居場所を確保するために、グループ内での役割としての「キャラ」を演じ、
それがやがて翻って、自分自身のキャラクター(人格)にまで影響を及ぼすことがある。
しかし、それを積極的に受け入れているのが「キャラ」を生きることに慣れつつある若い世代の現状である。
 
第六章は、「物語消費」と「データベース消費」について。
かつては、物語を通してあるキャラクターを好きになる。というパターン(物語消費)であったのが、
それが、そのキャラクターの持つ部分的要素に「萌え」るという(データベース消費)に移行しつつある。「エビちゃん」と「海老原友里」についていうと、「海老原友里」という物語ではなく、
「かわいい」要素を集約したイメージとしての「エビちゃん」というデータベース(小さな物語)
を消費者は求めている。海老原友里もそのことを自覚している。
「シュミラークル」(オリジナルとコピーの間)にオリジナルのようなオーラを持たせる風潮。
コピーでは味気なさ過ぎる。そこへ属性やオーラを追加することで、「キャラ萌え」的価値を発生させることができる。
 
終章では、「セカンドライフ」的仮想現実世界がリアリティを持って受け入れられるようになってくるのではないか。と予想していた。
 
【感想】
終章をだけみると、著者がすごく期待していた「セカンドライフ」は
現在ではそんなに広まっていないので、予想は外れたようです。。。
著者に言わせると「まだ早かった」ということになる気がしますが。
 
しかし、第五章の、「キャラ・コミュニケーション」はすごく核心をついていて、
読んでいくうちに、中高時代の自分や周りの人間関係を思い出して、
すごく胸につき刺さるものがありました。
 
この本の中では、「キャラ化」が良いものor悪いものとしての主張は書かれておらず、
自分の中で、考え込んでしまいました。
「キャラ化」が進めば、分かりやすくて、スムーズに物事が進むかもしれないけれど、
「そのキャラ」っぽくないことや、「そのキャラ」と矛盾したことには目を向けられなくなる。
「1人間」として深く理解し合う、という関係が築きにくくなると思うのです。
 
今後も仮想現実化(キャラ化)が進んでいくと予想される中で、
どうやって「キャラ化」と向き合うのか。というところまでは書かれていませんでした。
あくまで、「現状を分析している。」というところにとどまっていると感じました。
 
僕の印象としては、「キャラクター」というのは、自分が思う「自分像」を含んでいるのに対して、
「キャラ」というのは、完全に他人が作り上げる「自分像」であると感じました。
その二つをうまくコントロールし、「キャラ」が「キャラクター」を侵食してくるのを防ぐことが、
「キャラ化」した社会で生きていく上で、大切な方法だと感じました。
 
【個人的理解度】
60%
【個人的評価】
70点
分析は新鮮で深いと思いましたが、そこから先の「対策」をもっと掘り下げてほしかったです。

2013年8月1日木曜日

100冊読書 9/100 『歪みの国・韓国』金慶珠

読破っ!!
『歪みの国・韓国』金慶珠(社会学者)祥伝社新書
発行:2013年6月
難易度:★★★★☆
所要時間:約15時間



【本のテーマ】
「圧縮成長」と言われる急成長を果たした韓国。
なぜそれが可能だったのか、また、それは何をもたらしたのか。
 
【キーパーソン】
朴クネ、朴正熙、安哲秀
 
【キーワード】
メディア、フレーム、アジア通貨危機、IMF、
所得格差、雇用格差、格差と格差感、財閥、政経癒着、閉塞感、圧縮成長、
相対的剥奪感、386世代、大統領制
 
【目次】
はじめに
第一章:情報の歪み
第二章:成長の歪み
第三章:対立の歪み
 
【概要】
はじめに では、
日本で、「韓国に親しみを感じない」人が59%にまでのぼった。(平成24年)
しかし、一方で韓流ブームがまだ残っている。
対する韓国人も「日本人に対して親しみを感じない」が60%にまでのぼったが、
一方で日本の長所として「技術や勤勉性」をあげた人が97%にものぼる。
日本のメディアの言う「近くて遠い」国・韓国を考察する。
 
第一章では、メディアが送る情報から認識のずれが生まれる。ことについて述べていた。
どのような「フレーム」を用いて認識をするか、
「優劣フレーム」(敗戦後、経済的に優位であり、韓国を軽視)
「兄弟フレーム」「パートナフレーム」(より対等で深い関係を結ぶ。)
「あるはずの韓国像」と「新たな韓国像」の間のズレも、
どのフレームを使ってメディアが伝えるかによって生じる。
メディアは繰り返しわかりやすく単純化(ステレオタイプ化)した
情報を発信しているが、そのことが事実をより分かりにくくしている。
 
第二章では、格差についての日本との比較、圧縮成長について述べていた。
韓国は本当に「超格差・超競争社会なのか?」
OECD(経済協力開発機構)の「社会の公正さに関する調査」
所得格差をジニ係数(所得配分の不平等さを測る指標)でみても、
相対的貧困率をみても、所得格差倍率でみても、
非正規雇用者率でみても、
実は、数字上の格差の現状は韓国と日本ではあまり大差がない。
しかし、実感としての「格差感」が韓国の方が日本よりも強い。
(日本人7割・韓国人9割が「自国の格差が大きい」と答えている)
その理由は、「圧縮成長」による、経済の急激な成長・変化、
その競争に対する「公正な競争」であれば寛容するという態度、
相対的剥奪感による競争心の煽り、
そして、財閥による資産の独占、社会保障制度の不充実、政経癒着問題など。
韓国の「格差感」は資産が両極化する格差を解決する手段を見いだせないという
閉塞感が大きな原因である。
 
第三章では 韓国の歴史を振り返り、政治的イデオロギーの対立について述べていた。
日本の政治スタイルが「合議制」であるのに対し、
韓国の政治スタイルは「大統領制」である。
「渦巻き型政治」・「帝王的大統領政治」→権力が一か所(大統領)に吸い上げられる。
そのため、大統領の周辺に権力を求める政治家が集まり、
腐敗やスキャンダルが生じやすい。(歴代の大統領の悲劇)
朴クネは、朴正熙の娘であり、
朴正熙が軍事クーデターを起こし、独裁的政治を行ったため、
朴クネ政権もそのような要素を持っているのか懸念されている。
 
【感想】
難しかった!!けど、また少し韓国のことを知れました。
前回読んだ「オーディション社会・韓国」の中で
競争・格差の激化が書かれていたのに対して、
本書では、「本当に韓国は超格差社会なのか?」という視点で、
データを比較して、数字上の格差は日本と大差がなく、
「格差感」としての感覚に差が出てきている。という
主張はとても新鮮で、興味深かったです。
あと、メディアの「ステレオタイプ化」することが、
深い理解を妨げ、実は逆に分かりにくくしている。という主張も
納得させられました。
 
韓国が「圧縮成長」をしてきたことや、
大統領制と合議制の違いなど、
日本と比較することで、少し韓国のイメージが深まりました。
しかし、一回読んだだけでは、まだ理解しきれていません。。。
 
【個人的理解度】
50%
【個人的評価】
70点(データが多く新しい発見があったが、政治の部分が難しかったから。)