2015年5月31日日曜日

135/200 『ランドマーク』吉田修一(作家)


読破っ!!
『ランドマーク』吉田修一(作家)
発行:2007年7月 講談社文庫
難易度:★
感動度:★★
共感度:★★
個人的評価:★★
ページ数:221ページ



【本の紹介】(裏表紙より抜粋)
大宮の地にそびえたつ地上35階建ての超高層ビル。
それはフロアがねじれながら、巨大な螺旋を描くという、特異な構造をもっていた。
設計士・犬飼と鉄筋工・隼人、ふたりの毎日もビルが投影したかのように不安定になり、
ついにゆがんだ日常は臨界点を超える。圧巻の構想力と、並外れた筆力で描く傑作長編。

【感想】
良かった点
主人公が設計士と鉄筋工という、管理者と現場で働く人という対照的な登場人物を、
一つの建物の建設という共通点を持ちながら、
ザッピングストーリー的に入れ替わり・交互に出てきた点。
泥臭い、労働環境的にそんなによくない隼人の生活と、
設計士としてグローバルな感じで働いている犬飼の生活が、
対照的で比較することでより一層際立った。

二人それぞれの女性との恋愛関係の描写がよかった。
隼人は中華料理店で働く女性と、犬飼は年が一回りも違う大学生女性。
隼人の方はお互い飾らない関係だけど、なかなか結婚とまではいかない感じの恋愛、
犬飼の方は妻がいながらも愛人としての関係。
犬飼と不倫してる大学生女子の後ろめたさを感じている発言や行動が良いと思った。

あと、舞台が大宮っていうのが初めてで、
何回か行ったことあるので、小説の舞台になるっていうのが不思議な感じだった。

悪かった点、
最後があっさりしすぎていた。そして、釈然としなかった。
終わりかけで、展開がいい方向に進むと見せかけて、
最後の最後に事件が起こって、それまで順調に進んでいた状況が
いろいろ変わるなぁ。って思ったところで話が終わってしまった。

そのもやもや感が、多分物語を通して出てくる犬飼と隼人達が建設中の
「らせん状にねじれを持った不安定な高層ビル」に重ねているのだということなんだろうけど、
そうとわかっていても、なんだか釈然としない。

ラストは釈然としなかったけど、
吉田修一の本には、実在するものがたくさん登場して、
興味を持ってそこからネットで調べたりして、
そうやって世界が広がるところが好きです。

2015年5月18日月曜日

134/200 『何者』朝井リョウ(作家)


読破っ!!
『何者』朝井リョウ(作家)
発行:2012年11月 新潮社
難易度:★
感動度:★★★★
共感度:★★★★★
個人的評価:★★★★
ページ数:286ページ





【本の紹介】(Amazonより抜粋)
「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。
学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺……
自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。
影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。

【感想】

この本は、久々に衝撃的だった。
吉田修一の「パレード」を読んだ時みたいに。
最後の怒涛の展開に一気に引き込まれた。
そして、最初から最後まで、小説の中て描かれていた
主人公・拓人の心の中の独白にすごい共感していたのに、
最後の最後で作者に裏切られた。笑
心の中で思うことと、それを実際に言葉にして発信すること。
その二つの間には本当は壁があるはずなのに、
Twitterというツールは、その壁をないものにしてしまうような、
そんな効果があると再認識させられました。
(かといって、思ったことを言葉にしないままもやもやさせ続けるのも、
それが本当に健全か?と言われると、、、そうとも言えない。
ということも考えさせられました。)

まず、物語の構成がすごく良いと思う。
そして、どの登場人物も、どこか「痛く」て、
意識高いように見せるよう背伸びしたり、
不安やうまくいっていないことはなるべく見せないようにしたり。
そういう一つ一つが自分自身の学生時代を
(学生時代だけじゃなく、今もまだある笑)
ありありと、生々しく思い出させられて、
突きつけられている気がして、
恥ずかしい気持ちになりました。
それくらい、リアルな若者が描かれていると感じました。

そして、最後の怒涛の展開で、登場人物に対する印象がすごく変わる。
それは、物語の中で作者によってうまくリードされていたのだろうと思うので、
もう一度、拓人の視点に惑わされすぎずに、
最後の展開を知った上で読んでみたら、
また印象が変わるのではないかな。と思いました。

僕自身はTwitterあまり楽しんでうまく使いこなせないのですが、
この物語のように、自意識と自分の感情に任せて利用したら、
(というか、「つぶやく」って、自然と自己中心的な発言になる気がする。)
やっぱり、こういう感じになるのか・・・!!
と、さらにTwitterを使いたくなくなりました。笑

Twitterに限らず、Facebookや、個人設営の「オフィシャル」ブログ等、
「自意識」を上手く飼い慣らさないと、
傍から見て「痛い」人間になる。とうこと、
けれど、たとえそう見えたとしても、自分で「痛い」と自覚しながらも、
そうしないと頑張れない、そうやって自分のやる気を奮い立たせている。
そんなリアルな感情がありありと描かれていた。

、、、もうほんとに、「痛」すぎて共感できる本だった。

133/200 『舟を編む』三浦しをん(作家)


読破っ!!
『舟を編む』三浦しをん(作家)
発行:2003年6月 文春文庫
難易度:★★★
感動度:★★
共感度:★★
個人的評価:★★★★
ページ数:347ページ



【本の紹介】(amazonより抜粋)
出版社の営業部員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。
新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。
定年間近のベテラン編集者。日本語研究に人生を捧げる老学者。
辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。そして馬締がついに出会った運命の女性。
不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作!

【目次】
舟を編む
解説 平木靖成
馬締の恋文 全文公開

【感想】
三浦しをんの話題の本を読んでみました。
『大渡海』という一つの辞書を完成させるまでの、
編集者たちの熱い熱いお話。プラス、恋物語。

感想として、好きだった点と微妙だった点を述べます。
前置きしておきますが、いち三浦しをんファンとしての、期待を含めた個人的感想です。
どうかお気を悪くされませんように。

まず、微妙だった点。さらっと書きます。
主人公・馬締と、ヒロイン・家具矢の出会いが、アパートの家主の親戚であり、
出会いからお付き合いするまでが、あまりにもスムーズにうまくいき過ぎている点。
家具矢の後半でのイメージは、女性でありながらも寡黙で一徹な寿司職人、
という感じだったのに、そこからは繋がりにくいくらい、
軽く馬締を遊園地にデートへ誘う。という展開。
もちろん、もしかしたら、彼女なりに緊張して、タイミングを見計らって
デートに誘ったのかもしれないですが、その辺の描写がもうちょっと欲しかった。
(その後の恋文のくだりはおもしろかったですが。)
ですが、この物語は恋物語メインではないので、
辞書完成までのお話が熱くて良かったので、全体としてはプラスでした。

そして、好きだった点。
編集者の一人の西岡という登場人物の魅力。
新しく作る辞書、『大渡海』の編集に関わったメンバーの中で、
唯一文学的センスが一般人並の社員であり、
編纂の途中で部署移動があり、広告部へと移動してしまう。
周りの同僚の「辞書」や「言葉」に対する情熱の圧倒的な差を感じながらも、
表にはあまり出さないけれど、
そんな彼らを心の中で尊敬し、熱中できるものがあって羨ましい、と思い、
自分がいなくなってからも、彼らのサポートができるように、
人間関係が苦手な馬締のために、
社外交渉対策のファイルを作ったり、
馬締の人間性を後から来た人に知ってもらおうと、
彼が家具矢に対して書いた恋文のコピーをこっそり隠し、
後から来た社員に見てもらえるように仕向けたりした。

そんな彼なりの仕事に対する情熱が、かっこよかった。
この物語の主人公である馬締は、「天才」的な要素がある
ちょっと変わった人であるため、ちょっと感情移入がしにくい。
そんな中、「凡人」っぽい西岡という登場人物には感情移入しやすく、
また、そんな彼の奮闘っぷりが、個人的にすごくカッコいいと思いました。
そして、彼の彼女との関係性や会話も好きでした。

そして、物語の流れとしても、
馬締が『大渡海』編纂に関わり始めるところから、
後半で視点が岸部みどりという新しく配属された社員に変わる。
そこで、部署移動していなくなった西岡の奮闘の後に出会う。
そういう流れが、辞書編纂という数十年という歴史を感じさせ、
読み終わった時には、自分まで不思議な達成感を味わえました。

まとめると、辞書編纂という、身近な存在でありながら、
これまで想像もしたことのなかった世界を想像し、
こんな感じに、馬締のような「天才」型の人間を、
「より凡人」型のたくさんの人達が支えてできたのだろうか。
と想像させてくれる本でした。

132/200 『木暮荘物語』三浦しをん(作家)


読破っ!!
『木暮荘物語』三浦しをん(作家)
発行:2003年6月 文春文庫
難易度:★
感動度:★★★★
共感度:★★★★☆
個人的評価:★★★★
ページ数:304ページ




【本の紹介】(Amazonより抜粋)
小田急線の急行通過駅・世田谷代田から徒歩五分、
築ウン十年、全六室のぼろアパート木暮荘。
そこでは老大家木暮と女子大生の光子、サラリーマンの神崎に花屋の店員繭の四人が、
平穏な日々を送っていた。
だが、一旦愛を求めた時、それぞれが抱える懊悩が痛烈な悲しみとなって滲み出す。
それを和らげ癒すのは、安普請ゆえに繋がりはじめる隣人たちのぬくもりだった……。

【目次】

もう売ってしまったため割愛。


【感想】

木暮荘というボロアパートに暮らす人々の日常と小さなつながりを、
毎章異なる人の目線から描いた短編小説でした。
どの登場人物もどこか変わっている性格や嗜好の持ち主であり、
それぞれが違う悩みを抱きながらも生きていく姿には、憎めない愛らしさがあり、
また、そんな人たちが、お互いの胸の内を吐露するわけでもなく、
「好き」でも「嫌い」でもない、はっきりしないふわふわした感情で
繋がっている感じが、すごいいいなぁ。と思いました。

どの短編にも、「性・恋愛」というテーマが紛れ込んでいて、
時には「不倫」とか、「覗き」とか、生々しすぎて気持ち悪く感じてしまう行為もありましたが、
けど、人間ってそういう一面もあるよなぁ。とも思える本でした。

第一話目は、彼氏と暮らしてる女性の元に海外を放浪していた元彼が突然転がり込んで来て、
戸惑いながらも、元彼が他に行く当てがないということで、しばらくの間三人で暮らす。
という物語でしたが、
元彼の人柄のおかげか、現彼氏は元彼を追い出そうとせず、
なんだかんだで仲良くなってしまう。
という不思議な三人の関係が奇妙で、だけど、なんだか温かくて、
恋人・元恋人、という関係を超えた繋がりを感じさせられました。

女子高校生・光子は、この物語の中で大事な役割を担っているのですが、
行動や言動はギャルっぽいのに、根は優しくて、
死ぬ前にヤりたいという願望と葛藤していた家主のじいさんの話し相手になったり、
女子高生・光子の部屋をのぞき続けていたサラリーマンのことも許して、
時々のぞき穴を通して話をしたり、
ある日急に同級生が持ってきた、できちゃった赤ん坊を数日間預かったり。
なんだかんだで人との交流を拒まず受け入れていて、
光子のそんな人間性だけがちょっと浮世離れしていて、
行動や言動は普通っぽく描かれているのに、
現実味がないかもしれない。と思いました。
でも、彼女には特殊な事情があったから、
むしろ自分から精一杯普通っぽく見せようとしていたのかもしれない。
、、、という風にも捉えられる、奥の深いキャラでした。

まとめると、この光子という女子高生の存在は
ちょっとフィクション・ファンタジーがかっていましたが、
その点を考慮しても、一言では表せない人間関係がたくさん描かれており、
そんな人達の物語がうまく絡まり合う、
一冊の本として、まとまりのある、読むと心があったかくなる一冊でした。