2015年4月18日土曜日

131/200 『熱帯魚』吉田修一(作家)


読破っ!!
『熱帯魚』吉田修一(作家)
発行:2003年6月 文春文庫
難易度:★
感動度:★★
共感度:★★
個人的評価:★★★★
ページ数:248ページ



【本の紹介】(裏表紙より抜粋)

大工の大輔は子連れの美女、真実と同棲し、結婚を目指すのだが、
そこに毎日熱帯魚ばかり見て過ごす引きこもり気味の義理の弟・光男までが加わることに。
不思議な共同生活のなかで、ふたりの間には微妙な温度差が生じて・・・・・・。
ひりひりする恋を描く、とびっきりクールな青春小説。
表題作の他「グリーンピース」「突風」の二篇収録。


【目次】
第一章 熱帯魚
第二章 グリーンピース
第三章 突風

【感想】
吉田修一の作品の好きなところは、その「カオス」っぷりであると思う。
短編小説に登場する人物の性格も、育ってきた環境も、皆バラバラである。
主人公のタイプが違ってくるだけで、物語の世界観も変わってくる。
「熱帯魚」の主人公は、人付き合いに対しオープンで、
細かいことは気にしないが、時折繊細な部分もあるちょっと自分勝手な大工。
「グリーンピース」は、たまに暴力的で、退廃的な一面もあるが、
それでも、心のどこかで愛とか、優しさとか、つながりとかを求めてる転職活動中の男性。
「突風」は、会社の休暇を利用して海の家でバイトをする会社員と、
その海の家で夫を支える、ものごとの限度を知らない奥さん。

それぞれの登場人物は、どこか「不完全」で、「クズっぽさ」があって、
けど、それは勧善懲悪的な「善悪」で2つに分断される価値観ではなく、
一人の人の中に善悪が共存していて、
その二つの面が時折顔を出している。そんな印象を受けました。
そんな人間描写がやけにリアルで、人間っぽさを感じつつ、
でも、「うわ、こいつ、やっぱりクズだなぁ。」って思ってしまう。
けど、そんな不完全さがどこか愛おしく、
そんな彼らのことを憎めないし、
誰にでも何かしら「クズっぽい」ところはあるし、
きっと、色んな人がいていいんだ。
って思わせてくれる。そんな物語でした。

130/200 『つくし世代』藤本耕平(マーケッター)


読破っ!!
つくし世代』
藤本耕平(マーケッター)
発行:2014年12月 宝島社
難易度:★☆☆
資料収集度:★
理解度:★
個人的評価:★★
ページ数:238ページ



【本のテーマ】
あの商品はなぜ売れた?あの広告はなぜ成功した?
芽生えつつある新しいマインド、行動と消費の原理。
若者たちの「今」、そして「さとり」の次までが分かる。


【目次】
序論 さとっているだけじゃない今時の若者は何を考えている?
第一章 チョイスする価値観――世間の常識より「自分ものさし」
第二章 つながり願望――支え合いが当たり前じゃないからつながりたい
第三章 ケチ美学――「消費しない」ことで高まることで高まる満足感
第四章 ノット・ハングリー ――失われた三つの飢餓感
第五章 せつな主義 ――不確かな将来より今の充実
第六章 新世代の「友達」感覚 ――リムる、ファボる、クラスター分けする
第七章 なぜシェアするのか?――「はずさないコーデ」と「サプライズ」
第八章 誰もが「ぬるオタ」―ー妄想するリア充たち
第九章 コスパ至上主義――若者たちを動かす「誰トク」精神
第十章 つくし世代――自分ひとりではなく「誰かのために」
終章 若者たちはなぜ松岡修造が好きなのか

【感想】
「女子力男子」と合わせて読むことで、「ゆとり」「さとり」、そしてその先の若者について
理解を深められる本でした。

1992年というのが大きな転換期としてとりあげられていました。
①共働き家庭の割合が専業主婦家庭の割合を追い越した年
「個性」を重視したいわゆる「ゆとり教育」に向け、学習指導要領が改訂された年
③いわゆるITネイティブとして育った子供たちが中学校に上がり始めた年
④バブルが崩壊した年

そんな背景、環境の中で育ってきた子供たちを、
これまでメディア等では「ゆとり」「さとり」と言う言葉で表現してきましたが、
その言葉だけでは表現しきれない側面があり、それが「つくし」であると述べていた。

ハングリー精神が無く、より合理的な、コスパを重視する。
等の特徴は、「さとり」と重複するところがありますが、
本書では特に「つながり欲求」が高い、というところに焦点を当てていました。
コスパや合理性を追求する反面、「つながり」を感じられるようなモノ・コトに関しては、
お金や手間を惜しまない。
そこには、そうでもしないと「つながり」を感じにくくなっている現代の人間関係が
根底に存在しているからではないか。と述べていました。

また、「フォトジェニック」という言葉が印象的で、
SNSやTwitterにあげる写真がいかに写真映えするか。
その要素を含んだイベントやモノが若者から人気を得る。
そこにも、その根本にあるのは「つながり欲求」であると述べていました。
(例:エレクトリックラン・カラーラン・フローズン生)

しかし、「つくし世代」は、「つながり」を大切にする一方で、一人の時間も大切にしたがる。
そのため、「一人カラオケ」に始まり、「一人焼肉」・「ぼっち席」などの
これまでは表面化してこなかった需要が一般化してきている。

また、「つくし世代」は「ぬるオタ」要素がある、と指摘しており、
著者の調べ(アンケート)によると、10代(206名)の8割が自分は何らかの「オタク」要素がある
と答えていた。またこの「趣味のつながり」が、これまでのカテゴリー分けの壁を乗り越えることを可能にすると述べ、「秋葉系」と「渋谷系」という、これまで別々のカテゴリー分けされていたものが、
「アキシブ系」というカテゴリーとなったり、様々なカテゴリーとオタク要素が融合し始めている。

これらの特徴を踏まえたうえで、彼ら「つくし世代」を効果的に取り込む
マーケティング戦略として、
「ブランド・価値観の押しつけ」ではなく、
「いじられ上手」な素材・話題を提供する事である。と述べていた。

従来のように大々的にテレビCMとして放送するのではなく、
話題やネタになりやすいPRや動画をSNSを通して拡散する。
そのことで、お互いにその動画をシェアしていくことで、
彼らに「いじりやすい」話題を提供しつつ商品のPRや宣伝を行う。

【感想】
若者についての本を読むと、文章化された「若者の価値観」を読んで、
「そうそう!」という共感を得られる部分と、
「え、こんなこともするの?」と、一部ついていけない、
自分より若い人たちの価値観に気付かされ、
また、「そもそも、もっと上の世代の人の目には、この価値観が新鮮なものに映っているのか。
じゃあ、上の人たちの価値観ってどんなものなんだろう??」
という3つのことを考える。

世代に関する著書はそうやって、自分の考え方や価値観、
そして、その価値観が生まれた背景について考えさせられるから、
自分を見つめ直すことができる興味深いジャンルだと思います。

2015年4月12日日曜日

129/200 『天国旅行』三浦しをん(作家)


読破っ!!
『天国旅行』三浦しをん(作家)
発行:2010年3月 新潮文庫
難易度:★★★
感動度:★★★★
共感度:★★
個人的評価:★★★★
ページ数:312ページ



【本の紹介】(裏表紙より抜粋)

現実に絶望し、道閉ざされたとき、人はどこを目指すのだろうか。
すべてを捨てて行き着く果てに、救いはあるのだろうか。
富士の樹海で出会った男の導き、命懸けで結ばれた相手へしたためた遺言、
前世の縁を信じる女が囚われた黒い夢、一家心中で生き残った男の決意――。
出口のない日々に閉じ込められた想いが、生と死の狭間で溶けだしていく。
全ての心に希望が灯る傑作短編集。



【目次】
第一章 森の奥
第二章 遺言
第三章 初盆の客
第四章 君は夜
第五章 炎
第六章 星くずドライブ
第七章 SINK
解説 角田光代

【感想】
「心中」をテーマに集めた短編集だけに、ちょっと重かった。
特に印象に残ったのは、「森の奥」、「君は夜」、「炎」、「星くずドライブ」、「SINK」
ほとんどや笑
「遺言」と「初盆の客」は登場人物の年齢がちょっと高い感じだった。
「君は夜」、「星くずドライブ」は、ちょっとファンタジー要素があって面白かった。

三浦しをんさんの短編小説の特徴は、
話ごとに作風・雰囲気が変わること。
文章表現等ではなく、登場人物の背景や、物語構成や世界観が違う。

そして、解説:角田光代さんが指摘した、
「登場人物同士の関係性が単純なものではない」という表現にすごく共感しました。
夫婦・恋人・友人。等の言葉で限定できない関係性がある。
人と人の数だけ、その関係性がある。
共有する思いや、経験によって、不思議な、それでいて強力な絆が生まれる。
そんな言葉にはできない関係性をうまく描いているところがとても好きです。

128/200 『日曜日たち』吉田修一(作家)


読破っ!!
『日曜日たち』吉田修一(作家)
発行:2003年6月 講談社文庫
難易度:★
感動度:★★★★
共感度:★★★★☆
個人的評価:★★★★
ページ数:207ページ





【本の紹介】(裏表紙より抜粋)

ありふれた「日曜日」。だが、5人の若者にとっては、特別な日曜日だった。
都会の喧騒と鬱屈とした毎日の中で、
疲れながら、もがきながらも生きていく男女の姿を描いた5つのストーリー。
そしてそれぞれの過去をつなぐ不思議な小学生の兄弟。
ふたりに秘められた真実とは。絡み合い交錯しあう、連作短篇集の傑作。



【目次】
第一章 日曜日のエレベーター
第二章 日曜日の被害者
第三章 日曜日の新郎たち
第四章 日曜日の運勢
第五章 日曜日たち
解説 重松清

【感想】
様々な若者の日常が切り取られて描かれおり、
そのほんの一部分が幼い兄弟ふたりによって、
重なって繋がれて紡がれている。そんな物語だった。
ていうか、本の表紙がかっこよすぎる。。。

医者の卵の女性のヒモとなっている男性。
友人が空き巣被害に遭ったという電話をして来て、怖くなり、
過去のことを思い出しながら真夜中に彼氏のもとへ向かう女性。
結婚も意識していた彼女を亡くした男性と、
知人の息子の結婚式の為に九州からやって来た、妻を亡くして数年の父親。
好きになった女性の運命に翻弄され、各地を転々と移動し生活する男性。
彼氏のDVに悩みながら、自立センターに駆け込む女性。

そんなそれぞれのストーリーの中に、九州から母親を探してやってきたふたりの少年が、
さりげなく登場する。さりげなく、というより、身寄りのないふたりの少年を
それぞれの登場人物が心配し、声をかけることで、ほんの少しだけ、関わっていく。

こうやって、ネタバレのあらすじを書いてみただけで、
やっぱり、吉田修一すごいなぁ。と思ってしまった。
それぞれ考え方も、立場もそれぞれの若者の日常を上手く描いていて、
その中にふたりの少年の物語を挟むことで、
複数の物語が平行的に存在していることを自然と感じさせる。

しかも、吉田修一さん、1968年生まれなのに、
なんでこんなに若者を描くのが自然で、うまいんだろう。

吉田修一さんの本は、「パレード」といい、この本といい、
何度も読みたくなる本です。読めば読むほど味が出てくる。という感じです。

127/200 『格闘する者に〇』三浦しをん(作家)


読破っ!!
格闘する者に○』
三浦しをん(作家)
発行:2005年3月 新潮社
難易度:★☆☆☆
感動度:★☆☆
共感度:★☆☆
個人的評価:★★☆☆
ページ数:279ページ


【本の紹介】(裏表紙より抜粋)

これからどうやって生きていこう?
マイペースに過ごす女子大生可南子にしのびよる苛酷な就職戦線。
漫画大好き→漫画雑誌の編集者になれたら・・・・・。
いざ、活動を始めてみると、思いもよらぬ世間の荒波が次々と襲いかかってくる。
連戦連敗、いまだ内定ゼロ。呑気な友人たち、ワケありの家族、
年の離れた書道家との恋。格闘する青春の日々を妄想力全開で描く、
才気あふれる小説デビュー作。



【目次】
第一章 志望
第二章 応募
第三章 協議
第四章 筆記
第五章 面接
第六章 進路
第七章 合否
解説 重松清

【感想】
三浦しをんのデビュー作品。
当初の三浦しをんさんの作風には女性作家っぽさがある物語構成・文章構成だと感じました。
しかし、登場人物のキャラの濃さ、人間味はこの頃から健在していて、
登場人物それぞれに立場があり、悩みがあり、夢がある、と感じました。

ネタバレになりますが、
最終的に就職が決まらないまま物語が終わってしまう、というところも、
ありがちなハッピーエンドで終わらせてしまわないところがいいと思いました。
結果的に見るとうまくいっていない。かもしれませんが、
それでも主人公の可南子が、「自分を信じて生きる」と言っていたり、
中国に旅立つ、恋人である書道家のおじいさんのことを愛し続け、
別れを心から惜しむ。など、
可南子が自分の不甲斐なさを実感しながらも、前向きで、強く生きている姿が
たくましくて印象的でした。
また、物語の中で、周りの登場人物に起こる出来事やそれに伴う心情の動きは、
読んでいてついていきやすいものでした。

また、就職活動の流れについても、
出版社という世界の理想と現実がシニカルに描かれていて
可南子の毒舌による痛烈な批判が痛快でした。

解説の重松清さんのコメントも印象的で、
作中に主人公加奈子が、『海流の中の島々byヘミングウェイ』の感想を、
「人の孤独について書かれた本」である、と述べているように、
この本も同様に「人の孤独について書かれた本」である。と述べていました。
それがどういうことか、最初分からなかったのですが、
三浦しをんさんの作品に出てくる登場人物は、
それぞれ特徴的な性格や、嗜好や悩みを抱えていて、
それぞれの悩みに向き合いながら生きていこうとしている姿が、
「孤独と向き合う」ということになるのだと思います。

まとめると、人間味あふれる三浦しをんさんの作風の原点を感じられる作品でした。