2015年5月31日日曜日

135/200 『ランドマーク』吉田修一(作家)


読破っ!!
『ランドマーク』吉田修一(作家)
発行:2007年7月 講談社文庫
難易度:★
感動度:★★
共感度:★★
個人的評価:★★
ページ数:221ページ



【本の紹介】(裏表紙より抜粋)
大宮の地にそびえたつ地上35階建ての超高層ビル。
それはフロアがねじれながら、巨大な螺旋を描くという、特異な構造をもっていた。
設計士・犬飼と鉄筋工・隼人、ふたりの毎日もビルが投影したかのように不安定になり、
ついにゆがんだ日常は臨界点を超える。圧巻の構想力と、並外れた筆力で描く傑作長編。

【感想】
良かった点
主人公が設計士と鉄筋工という、管理者と現場で働く人という対照的な登場人物を、
一つの建物の建設という共通点を持ちながら、
ザッピングストーリー的に入れ替わり・交互に出てきた点。
泥臭い、労働環境的にそんなによくない隼人の生活と、
設計士としてグローバルな感じで働いている犬飼の生活が、
対照的で比較することでより一層際立った。

二人それぞれの女性との恋愛関係の描写がよかった。
隼人は中華料理店で働く女性と、犬飼は年が一回りも違う大学生女性。
隼人の方はお互い飾らない関係だけど、なかなか結婚とまではいかない感じの恋愛、
犬飼の方は妻がいながらも愛人としての関係。
犬飼と不倫してる大学生女子の後ろめたさを感じている発言や行動が良いと思った。

あと、舞台が大宮っていうのが初めてで、
何回か行ったことあるので、小説の舞台になるっていうのが不思議な感じだった。

悪かった点、
最後があっさりしすぎていた。そして、釈然としなかった。
終わりかけで、展開がいい方向に進むと見せかけて、
最後の最後に事件が起こって、それまで順調に進んでいた状況が
いろいろ変わるなぁ。って思ったところで話が終わってしまった。

そのもやもや感が、多分物語を通して出てくる犬飼と隼人達が建設中の
「らせん状にねじれを持った不安定な高層ビル」に重ねているのだということなんだろうけど、
そうとわかっていても、なんだか釈然としない。

ラストは釈然としなかったけど、
吉田修一の本には、実在するものがたくさん登場して、
興味を持ってそこからネットで調べたりして、
そうやって世界が広がるところが好きです。

2015年5月18日月曜日

134/200 『何者』朝井リョウ(作家)


読破っ!!
『何者』朝井リョウ(作家)
発行:2012年11月 新潮社
難易度:★
感動度:★★★★
共感度:★★★★★
個人的評価:★★★★
ページ数:286ページ





【本の紹介】(Amazonより抜粋)
「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。
学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺……
自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。
影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。

【感想】

この本は、久々に衝撃的だった。
吉田修一の「パレード」を読んだ時みたいに。
最後の怒涛の展開に一気に引き込まれた。
そして、最初から最後まで、小説の中て描かれていた
主人公・拓人の心の中の独白にすごい共感していたのに、
最後の最後で作者に裏切られた。笑
心の中で思うことと、それを実際に言葉にして発信すること。
その二つの間には本当は壁があるはずなのに、
Twitterというツールは、その壁をないものにしてしまうような、
そんな効果があると再認識させられました。
(かといって、思ったことを言葉にしないままもやもやさせ続けるのも、
それが本当に健全か?と言われると、、、そうとも言えない。
ということも考えさせられました。)

まず、物語の構成がすごく良いと思う。
そして、どの登場人物も、どこか「痛く」て、
意識高いように見せるよう背伸びしたり、
不安やうまくいっていないことはなるべく見せないようにしたり。
そういう一つ一つが自分自身の学生時代を
(学生時代だけじゃなく、今もまだある笑)
ありありと、生々しく思い出させられて、
突きつけられている気がして、
恥ずかしい気持ちになりました。
それくらい、リアルな若者が描かれていると感じました。

そして、最後の怒涛の展開で、登場人物に対する印象がすごく変わる。
それは、物語の中で作者によってうまくリードされていたのだろうと思うので、
もう一度、拓人の視点に惑わされすぎずに、
最後の展開を知った上で読んでみたら、
また印象が変わるのではないかな。と思いました。

僕自身はTwitterあまり楽しんでうまく使いこなせないのですが、
この物語のように、自意識と自分の感情に任せて利用したら、
(というか、「つぶやく」って、自然と自己中心的な発言になる気がする。)
やっぱり、こういう感じになるのか・・・!!
と、さらにTwitterを使いたくなくなりました。笑

Twitterに限らず、Facebookや、個人設営の「オフィシャル」ブログ等、
「自意識」を上手く飼い慣らさないと、
傍から見て「痛い」人間になる。とうこと、
けれど、たとえそう見えたとしても、自分で「痛い」と自覚しながらも、
そうしないと頑張れない、そうやって自分のやる気を奮い立たせている。
そんなリアルな感情がありありと描かれていた。

、、、もうほんとに、「痛」すぎて共感できる本だった。

133/200 『舟を編む』三浦しをん(作家)


読破っ!!
『舟を編む』三浦しをん(作家)
発行:2003年6月 文春文庫
難易度:★★★
感動度:★★
共感度:★★
個人的評価:★★★★
ページ数:347ページ



【本の紹介】(amazonより抜粋)
出版社の営業部員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。
新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。
定年間近のベテラン編集者。日本語研究に人生を捧げる老学者。
辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。そして馬締がついに出会った運命の女性。
不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作!

【目次】
舟を編む
解説 平木靖成
馬締の恋文 全文公開

【感想】
三浦しをんの話題の本を読んでみました。
『大渡海』という一つの辞書を完成させるまでの、
編集者たちの熱い熱いお話。プラス、恋物語。

感想として、好きだった点と微妙だった点を述べます。
前置きしておきますが、いち三浦しをんファンとしての、期待を含めた個人的感想です。
どうかお気を悪くされませんように。

まず、微妙だった点。さらっと書きます。
主人公・馬締と、ヒロイン・家具矢の出会いが、アパートの家主の親戚であり、
出会いからお付き合いするまでが、あまりにもスムーズにうまくいき過ぎている点。
家具矢の後半でのイメージは、女性でありながらも寡黙で一徹な寿司職人、
という感じだったのに、そこからは繋がりにくいくらい、
軽く馬締を遊園地にデートへ誘う。という展開。
もちろん、もしかしたら、彼女なりに緊張して、タイミングを見計らって
デートに誘ったのかもしれないですが、その辺の描写がもうちょっと欲しかった。
(その後の恋文のくだりはおもしろかったですが。)
ですが、この物語は恋物語メインではないので、
辞書完成までのお話が熱くて良かったので、全体としてはプラスでした。

そして、好きだった点。
編集者の一人の西岡という登場人物の魅力。
新しく作る辞書、『大渡海』の編集に関わったメンバーの中で、
唯一文学的センスが一般人並の社員であり、
編纂の途中で部署移動があり、広告部へと移動してしまう。
周りの同僚の「辞書」や「言葉」に対する情熱の圧倒的な差を感じながらも、
表にはあまり出さないけれど、
そんな彼らを心の中で尊敬し、熱中できるものがあって羨ましい、と思い、
自分がいなくなってからも、彼らのサポートができるように、
人間関係が苦手な馬締のために、
社外交渉対策のファイルを作ったり、
馬締の人間性を後から来た人に知ってもらおうと、
彼が家具矢に対して書いた恋文のコピーをこっそり隠し、
後から来た社員に見てもらえるように仕向けたりした。

そんな彼なりの仕事に対する情熱が、かっこよかった。
この物語の主人公である馬締は、「天才」的な要素がある
ちょっと変わった人であるため、ちょっと感情移入がしにくい。
そんな中、「凡人」っぽい西岡という登場人物には感情移入しやすく、
また、そんな彼の奮闘っぷりが、個人的にすごくカッコいいと思いました。
そして、彼の彼女との関係性や会話も好きでした。

そして、物語の流れとしても、
馬締が『大渡海』編纂に関わり始めるところから、
後半で視点が岸部みどりという新しく配属された社員に変わる。
そこで、部署移動していなくなった西岡の奮闘の後に出会う。
そういう流れが、辞書編纂という数十年という歴史を感じさせ、
読み終わった時には、自分まで不思議な達成感を味わえました。

まとめると、辞書編纂という、身近な存在でありながら、
これまで想像もしたことのなかった世界を想像し、
こんな感じに、馬締のような「天才」型の人間を、
「より凡人」型のたくさんの人達が支えてできたのだろうか。
と想像させてくれる本でした。

132/200 『木暮荘物語』三浦しをん(作家)


読破っ!!
『木暮荘物語』三浦しをん(作家)
発行:2003年6月 文春文庫
難易度:★
感動度:★★★★
共感度:★★★★☆
個人的評価:★★★★
ページ数:304ページ




【本の紹介】(Amazonより抜粋)
小田急線の急行通過駅・世田谷代田から徒歩五分、
築ウン十年、全六室のぼろアパート木暮荘。
そこでは老大家木暮と女子大生の光子、サラリーマンの神崎に花屋の店員繭の四人が、
平穏な日々を送っていた。
だが、一旦愛を求めた時、それぞれが抱える懊悩が痛烈な悲しみとなって滲み出す。
それを和らげ癒すのは、安普請ゆえに繋がりはじめる隣人たちのぬくもりだった……。

【目次】

もう売ってしまったため割愛。


【感想】

木暮荘というボロアパートに暮らす人々の日常と小さなつながりを、
毎章異なる人の目線から描いた短編小説でした。
どの登場人物もどこか変わっている性格や嗜好の持ち主であり、
それぞれが違う悩みを抱きながらも生きていく姿には、憎めない愛らしさがあり、
また、そんな人たちが、お互いの胸の内を吐露するわけでもなく、
「好き」でも「嫌い」でもない、はっきりしないふわふわした感情で
繋がっている感じが、すごいいいなぁ。と思いました。

どの短編にも、「性・恋愛」というテーマが紛れ込んでいて、
時には「不倫」とか、「覗き」とか、生々しすぎて気持ち悪く感じてしまう行為もありましたが、
けど、人間ってそういう一面もあるよなぁ。とも思える本でした。

第一話目は、彼氏と暮らしてる女性の元に海外を放浪していた元彼が突然転がり込んで来て、
戸惑いながらも、元彼が他に行く当てがないということで、しばらくの間三人で暮らす。
という物語でしたが、
元彼の人柄のおかげか、現彼氏は元彼を追い出そうとせず、
なんだかんだで仲良くなってしまう。
という不思議な三人の関係が奇妙で、だけど、なんだか温かくて、
恋人・元恋人、という関係を超えた繋がりを感じさせられました。

女子高校生・光子は、この物語の中で大事な役割を担っているのですが、
行動や言動はギャルっぽいのに、根は優しくて、
死ぬ前にヤりたいという願望と葛藤していた家主のじいさんの話し相手になったり、
女子高生・光子の部屋をのぞき続けていたサラリーマンのことも許して、
時々のぞき穴を通して話をしたり、
ある日急に同級生が持ってきた、できちゃった赤ん坊を数日間預かったり。
なんだかんだで人との交流を拒まず受け入れていて、
光子のそんな人間性だけがちょっと浮世離れしていて、
行動や言動は普通っぽく描かれているのに、
現実味がないかもしれない。と思いました。
でも、彼女には特殊な事情があったから、
むしろ自分から精一杯普通っぽく見せようとしていたのかもしれない。
、、、という風にも捉えられる、奥の深いキャラでした。

まとめると、この光子という女子高生の存在は
ちょっとフィクション・ファンタジーがかっていましたが、
その点を考慮しても、一言では表せない人間関係がたくさん描かれており、
そんな人達の物語がうまく絡まり合う、
一冊の本として、まとまりのある、読むと心があったかくなる一冊でした。

2015年4月18日土曜日

131/200 『熱帯魚』吉田修一(作家)


読破っ!!
『熱帯魚』吉田修一(作家)
発行:2003年6月 文春文庫
難易度:★
感動度:★★
共感度:★★
個人的評価:★★★★
ページ数:248ページ



【本の紹介】(裏表紙より抜粋)

大工の大輔は子連れの美女、真実と同棲し、結婚を目指すのだが、
そこに毎日熱帯魚ばかり見て過ごす引きこもり気味の義理の弟・光男までが加わることに。
不思議な共同生活のなかで、ふたりの間には微妙な温度差が生じて・・・・・・。
ひりひりする恋を描く、とびっきりクールな青春小説。
表題作の他「グリーンピース」「突風」の二篇収録。


【目次】
第一章 熱帯魚
第二章 グリーンピース
第三章 突風

【感想】
吉田修一の作品の好きなところは、その「カオス」っぷりであると思う。
短編小説に登場する人物の性格も、育ってきた環境も、皆バラバラである。
主人公のタイプが違ってくるだけで、物語の世界観も変わってくる。
「熱帯魚」の主人公は、人付き合いに対しオープンで、
細かいことは気にしないが、時折繊細な部分もあるちょっと自分勝手な大工。
「グリーンピース」は、たまに暴力的で、退廃的な一面もあるが、
それでも、心のどこかで愛とか、優しさとか、つながりとかを求めてる転職活動中の男性。
「突風」は、会社の休暇を利用して海の家でバイトをする会社員と、
その海の家で夫を支える、ものごとの限度を知らない奥さん。

それぞれの登場人物は、どこか「不完全」で、「クズっぽさ」があって、
けど、それは勧善懲悪的な「善悪」で2つに分断される価値観ではなく、
一人の人の中に善悪が共存していて、
その二つの面が時折顔を出している。そんな印象を受けました。
そんな人間描写がやけにリアルで、人間っぽさを感じつつ、
でも、「うわ、こいつ、やっぱりクズだなぁ。」って思ってしまう。
けど、そんな不完全さがどこか愛おしく、
そんな彼らのことを憎めないし、
誰にでも何かしら「クズっぽい」ところはあるし、
きっと、色んな人がいていいんだ。
って思わせてくれる。そんな物語でした。

130/200 『つくし世代』藤本耕平(マーケッター)


読破っ!!
つくし世代』
藤本耕平(マーケッター)
発行:2014年12月 宝島社
難易度:★☆☆
資料収集度:★
理解度:★
個人的評価:★★
ページ数:238ページ



【本のテーマ】
あの商品はなぜ売れた?あの広告はなぜ成功した?
芽生えつつある新しいマインド、行動と消費の原理。
若者たちの「今」、そして「さとり」の次までが分かる。


【目次】
序論 さとっているだけじゃない今時の若者は何を考えている?
第一章 チョイスする価値観――世間の常識より「自分ものさし」
第二章 つながり願望――支え合いが当たり前じゃないからつながりたい
第三章 ケチ美学――「消費しない」ことで高まることで高まる満足感
第四章 ノット・ハングリー ――失われた三つの飢餓感
第五章 せつな主義 ――不確かな将来より今の充実
第六章 新世代の「友達」感覚 ――リムる、ファボる、クラスター分けする
第七章 なぜシェアするのか?――「はずさないコーデ」と「サプライズ」
第八章 誰もが「ぬるオタ」―ー妄想するリア充たち
第九章 コスパ至上主義――若者たちを動かす「誰トク」精神
第十章 つくし世代――自分ひとりではなく「誰かのために」
終章 若者たちはなぜ松岡修造が好きなのか

【感想】
「女子力男子」と合わせて読むことで、「ゆとり」「さとり」、そしてその先の若者について
理解を深められる本でした。

1992年というのが大きな転換期としてとりあげられていました。
①共働き家庭の割合が専業主婦家庭の割合を追い越した年
「個性」を重視したいわゆる「ゆとり教育」に向け、学習指導要領が改訂された年
③いわゆるITネイティブとして育った子供たちが中学校に上がり始めた年
④バブルが崩壊した年

そんな背景、環境の中で育ってきた子供たちを、
これまでメディア等では「ゆとり」「さとり」と言う言葉で表現してきましたが、
その言葉だけでは表現しきれない側面があり、それが「つくし」であると述べていた。

ハングリー精神が無く、より合理的な、コスパを重視する。
等の特徴は、「さとり」と重複するところがありますが、
本書では特に「つながり欲求」が高い、というところに焦点を当てていました。
コスパや合理性を追求する反面、「つながり」を感じられるようなモノ・コトに関しては、
お金や手間を惜しまない。
そこには、そうでもしないと「つながり」を感じにくくなっている現代の人間関係が
根底に存在しているからではないか。と述べていました。

また、「フォトジェニック」という言葉が印象的で、
SNSやTwitterにあげる写真がいかに写真映えするか。
その要素を含んだイベントやモノが若者から人気を得る。
そこにも、その根本にあるのは「つながり欲求」であると述べていました。
(例:エレクトリックラン・カラーラン・フローズン生)

しかし、「つくし世代」は、「つながり」を大切にする一方で、一人の時間も大切にしたがる。
そのため、「一人カラオケ」に始まり、「一人焼肉」・「ぼっち席」などの
これまでは表面化してこなかった需要が一般化してきている。

また、「つくし世代」は「ぬるオタ」要素がある、と指摘しており、
著者の調べ(アンケート)によると、10代(206名)の8割が自分は何らかの「オタク」要素がある
と答えていた。またこの「趣味のつながり」が、これまでのカテゴリー分けの壁を乗り越えることを可能にすると述べ、「秋葉系」と「渋谷系」という、これまで別々のカテゴリー分けされていたものが、
「アキシブ系」というカテゴリーとなったり、様々なカテゴリーとオタク要素が融合し始めている。

これらの特徴を踏まえたうえで、彼ら「つくし世代」を効果的に取り込む
マーケティング戦略として、
「ブランド・価値観の押しつけ」ではなく、
「いじられ上手」な素材・話題を提供する事である。と述べていた。

従来のように大々的にテレビCMとして放送するのではなく、
話題やネタになりやすいPRや動画をSNSを通して拡散する。
そのことで、お互いにその動画をシェアしていくことで、
彼らに「いじりやすい」話題を提供しつつ商品のPRや宣伝を行う。

【感想】
若者についての本を読むと、文章化された「若者の価値観」を読んで、
「そうそう!」という共感を得られる部分と、
「え、こんなこともするの?」と、一部ついていけない、
自分より若い人たちの価値観に気付かされ、
また、「そもそも、もっと上の世代の人の目には、この価値観が新鮮なものに映っているのか。
じゃあ、上の人たちの価値観ってどんなものなんだろう??」
という3つのことを考える。

世代に関する著書はそうやって、自分の考え方や価値観、
そして、その価値観が生まれた背景について考えさせられるから、
自分を見つめ直すことができる興味深いジャンルだと思います。

2015年4月12日日曜日

129/200 『天国旅行』三浦しをん(作家)


読破っ!!
『天国旅行』三浦しをん(作家)
発行:2010年3月 新潮文庫
難易度:★★★
感動度:★★★★
共感度:★★
個人的評価:★★★★
ページ数:312ページ



【本の紹介】(裏表紙より抜粋)

現実に絶望し、道閉ざされたとき、人はどこを目指すのだろうか。
すべてを捨てて行き着く果てに、救いはあるのだろうか。
富士の樹海で出会った男の導き、命懸けで結ばれた相手へしたためた遺言、
前世の縁を信じる女が囚われた黒い夢、一家心中で生き残った男の決意――。
出口のない日々に閉じ込められた想いが、生と死の狭間で溶けだしていく。
全ての心に希望が灯る傑作短編集。



【目次】
第一章 森の奥
第二章 遺言
第三章 初盆の客
第四章 君は夜
第五章 炎
第六章 星くずドライブ
第七章 SINK
解説 角田光代

【感想】
「心中」をテーマに集めた短編集だけに、ちょっと重かった。
特に印象に残ったのは、「森の奥」、「君は夜」、「炎」、「星くずドライブ」、「SINK」
ほとんどや笑
「遺言」と「初盆の客」は登場人物の年齢がちょっと高い感じだった。
「君は夜」、「星くずドライブ」は、ちょっとファンタジー要素があって面白かった。

三浦しをんさんの短編小説の特徴は、
話ごとに作風・雰囲気が変わること。
文章表現等ではなく、登場人物の背景や、物語構成や世界観が違う。

そして、解説:角田光代さんが指摘した、
「登場人物同士の関係性が単純なものではない」という表現にすごく共感しました。
夫婦・恋人・友人。等の言葉で限定できない関係性がある。
人と人の数だけ、その関係性がある。
共有する思いや、経験によって、不思議な、それでいて強力な絆が生まれる。
そんな言葉にはできない関係性をうまく描いているところがとても好きです。

128/200 『日曜日たち』吉田修一(作家)


読破っ!!
『日曜日たち』吉田修一(作家)
発行:2003年6月 講談社文庫
難易度:★
感動度:★★★★
共感度:★★★★☆
個人的評価:★★★★
ページ数:207ページ





【本の紹介】(裏表紙より抜粋)

ありふれた「日曜日」。だが、5人の若者にとっては、特別な日曜日だった。
都会の喧騒と鬱屈とした毎日の中で、
疲れながら、もがきながらも生きていく男女の姿を描いた5つのストーリー。
そしてそれぞれの過去をつなぐ不思議な小学生の兄弟。
ふたりに秘められた真実とは。絡み合い交錯しあう、連作短篇集の傑作。



【目次】
第一章 日曜日のエレベーター
第二章 日曜日の被害者
第三章 日曜日の新郎たち
第四章 日曜日の運勢
第五章 日曜日たち
解説 重松清

【感想】
様々な若者の日常が切り取られて描かれおり、
そのほんの一部分が幼い兄弟ふたりによって、
重なって繋がれて紡がれている。そんな物語だった。
ていうか、本の表紙がかっこよすぎる。。。

医者の卵の女性のヒモとなっている男性。
友人が空き巣被害に遭ったという電話をして来て、怖くなり、
過去のことを思い出しながら真夜中に彼氏のもとへ向かう女性。
結婚も意識していた彼女を亡くした男性と、
知人の息子の結婚式の為に九州からやって来た、妻を亡くして数年の父親。
好きになった女性の運命に翻弄され、各地を転々と移動し生活する男性。
彼氏のDVに悩みながら、自立センターに駆け込む女性。

そんなそれぞれのストーリーの中に、九州から母親を探してやってきたふたりの少年が、
さりげなく登場する。さりげなく、というより、身寄りのないふたりの少年を
それぞれの登場人物が心配し、声をかけることで、ほんの少しだけ、関わっていく。

こうやって、ネタバレのあらすじを書いてみただけで、
やっぱり、吉田修一すごいなぁ。と思ってしまった。
それぞれ考え方も、立場もそれぞれの若者の日常を上手く描いていて、
その中にふたりの少年の物語を挟むことで、
複数の物語が平行的に存在していることを自然と感じさせる。

しかも、吉田修一さん、1968年生まれなのに、
なんでこんなに若者を描くのが自然で、うまいんだろう。

吉田修一さんの本は、「パレード」といい、この本といい、
何度も読みたくなる本です。読めば読むほど味が出てくる。という感じです。

127/200 『格闘する者に〇』三浦しをん(作家)


読破っ!!
格闘する者に○』
三浦しをん(作家)
発行:2005年3月 新潮社
難易度:★☆☆☆
感動度:★☆☆
共感度:★☆☆
個人的評価:★★☆☆
ページ数:279ページ


【本の紹介】(裏表紙より抜粋)

これからどうやって生きていこう?
マイペースに過ごす女子大生可南子にしのびよる苛酷な就職戦線。
漫画大好き→漫画雑誌の編集者になれたら・・・・・。
いざ、活動を始めてみると、思いもよらぬ世間の荒波が次々と襲いかかってくる。
連戦連敗、いまだ内定ゼロ。呑気な友人たち、ワケありの家族、
年の離れた書道家との恋。格闘する青春の日々を妄想力全開で描く、
才気あふれる小説デビュー作。



【目次】
第一章 志望
第二章 応募
第三章 協議
第四章 筆記
第五章 面接
第六章 進路
第七章 合否
解説 重松清

【感想】
三浦しをんのデビュー作品。
当初の三浦しをんさんの作風には女性作家っぽさがある物語構成・文章構成だと感じました。
しかし、登場人物のキャラの濃さ、人間味はこの頃から健在していて、
登場人物それぞれに立場があり、悩みがあり、夢がある、と感じました。

ネタバレになりますが、
最終的に就職が決まらないまま物語が終わってしまう、というところも、
ありがちなハッピーエンドで終わらせてしまわないところがいいと思いました。
結果的に見るとうまくいっていない。かもしれませんが、
それでも主人公の可南子が、「自分を信じて生きる」と言っていたり、
中国に旅立つ、恋人である書道家のおじいさんのことを愛し続け、
別れを心から惜しむ。など、
可南子が自分の不甲斐なさを実感しながらも、前向きで、強く生きている姿が
たくましくて印象的でした。
また、物語の中で、周りの登場人物に起こる出来事やそれに伴う心情の動きは、
読んでいてついていきやすいものでした。

また、就職活動の流れについても、
出版社という世界の理想と現実がシニカルに描かれていて
可南子の毒舌による痛烈な批判が痛快でした。

解説の重松清さんのコメントも印象的で、
作中に主人公加奈子が、『海流の中の島々byヘミングウェイ』の感想を、
「人の孤独について書かれた本」である、と述べているように、
この本も同様に「人の孤独について書かれた本」である。と述べていました。
それがどういうことか、最初分からなかったのですが、
三浦しをんさんの作品に出てくる登場人物は、
それぞれ特徴的な性格や、嗜好や悩みを抱えていて、
それぞれの悩みに向き合いながら生きていこうとしている姿が、
「孤独と向き合う」ということになるのだと思います。

まとめると、人間味あふれる三浦しをんさんの作風の原点を感じられる作品でした。

2015年1月24日土曜日

126/200 『女子力男子』原田曜平(博報堂ブランドデザイン)


読破っ!!
女子力男子』
原田曜平(博報堂ブランドデザイン)
発行:2014年12月 宝島社
難易度:★☆☆
資料収集度:★
理解度:★
個人的評価:★★
ページ数:238ページ



【本のテーマ】
新消費者『女子力男子』の思考を徹底調査!
・「速水もこみち」「羽生結弦」「織田信成」も女子力男子?
・信用できる情報源は「女友達」と「お母さん」?
・硬派もマッチョもダサい?!若者のカッコイイ意識とは?
・女子力男子に響く 新商品・サービスのアイデアの芽


【目次】
序論 「男子は女子より元気がない」説は本当か
第一章 違和感だらけ?女子力男子の実態
第二章 「若者の消費離れ」、読み解くカギは女子力男子にあり
第三章 女子力男子はなぜ急増したのか
第四章 日本で世界で男子の女子化はとまらない
第五章 リアル女子力男子81人大解剖
第六章 女子力男子に響く新商品・サービスのアイデアの芽
第七章 リアルな思考丸わかり!女子力男子座談会

【感想】
「マイルド・ヤンキー」、「さとり世代」などの表現を生み出してきた原田氏の新刊。
かつての「男性像」というものが変わりつつあり、
「男性の女性化」というと、なよなよした感じをイメージされがちですが、
そうではなく、前向きな意味として、「女子力」を持つ男性が増えている。
という感じの主張が伝わってきました。
女子になりたいわけではない、あくまで男子として女子のような
「美しさ」や「優しさ」に憧れる。
かつての「男らしさ」に、「女らしさ」を取り入れた。
そんな新しい「男性像」を感じ取ることができました。
しかし、「女子力男子」があくまで「男子」なのであって、
「男性」というある一定の年齢以上の男性像を意味しないという点では、
「女子力男子」が数年後、さらに大人になった際に、
どういう言葉で、どういう風にカテゴライズされていくのか、ということを考えました。
女子力男子の中でさらに四つの領域にカテゴライズされていたのも、
とても興味深かったです。その中のいくつの「女子力男子」が、
さらに歳を重ねても同じ生き方をキープできるのでしょうか。

「今時の男はなっとらん!男はこうでないと!」みたいな、かつての「男性像」を持っている
年上の世代の人に是非読んでもらいたいです。

そして、数十年後、様々なかつての「女子力男子」が、生きて行きやすい
世の中であることを願っています。

125/200 『となり町戦争』三崎亜記(作家)


読破っ!!
『となり町戦争』三崎亜記(作家)
発行:2006年12月 集英社文庫
難易度:★
感動度:★★
共感度:★★
個人的評価:★★
ページ数:272ページ




【本の紹介】(裏表紙より抜粋)
ある日、突然にとなり町との戦争が始まった。だが、銃声も聞こえず、
目に見える流血もなく、人々は平穏な日常を送っていた。
それでも、町の広報誌に発表される戦死者数は静かに増え続ける。
そんな戦争に現実感を抱けずにいた「僕」に、町役場から一通の任命書が届いた・・・・・・。
見えない戦争を描き、第17回小説すばる新人賞を受賞した傑作。
文庫版だけの特別書下ろしサイドストーリーを収録。


【目次】
第一章 となり町との戦争がはじまる
第二章 偵察業務
第三章 分室での業務
第四章 査察
第五章 戦争の終わり
終章
別章

【感想】
すっきりしない本でした。
まず、読み初めに、このストーリーの舞台であったり、時代設定であったり、
そういう背景がよく分からないままに進んでいきました。

そしてストーリーが進んでいくと、主人公がその戦争に少しずつ巻き込まれていく
様子が描かれているのですが、
となりまちとの戦争が密かに行われているとはいえ、
戦死者数も出ているのに、銃声ひとつ聞こえないって、
どういう戦い方してるんだ?
っていう素朴な疑問が出てきました。

主人公の付き人みたいな感じの人が出てきたり、
主人公を危機から救うために人が死んだり。
というか、そもそもなんで主人公が諜報員?的な奴に選ばれたのか、
他にも選ばれた人がいなかったのか?とか、
なんだかすごく主人公を中心にストーリーが回ってる感があって、
色んな点において、ちょっと中二病感が漂う物語でした。

けど、実感がわかないところで戦争が起こっている、ということや、
自分が無関係だと思っていることが、戦争に関係しているかもしれない、
というテーマが描かれているのは伝わってきました。

所々に役所に提出する戦争関連の書類がそのまま書かれていて、
戦争という非現実的なものと、役所の書類という味気のない現実的なものが
まじりあっているというのが、不思議な感じでした。

2015年1月2日金曜日

124/200 『未来いそっぷ』星新一(作家)


読破っ!!
『未来いそっぷ』星新一(作家)
発行:2001年9月 新潮文庫
難易度:★
感動度:★★
共感度:★★
個人的評価:★★
ページ数:272ページ




【本の紹介】(表紙帯より抜粋)
<アリとキリギリス><ウサギとカメ>など、誰でもごぞんじの寓話の世界。
語り継がれてきた寓話も、星新一の手にかかると、ビックリ驚く大革命。
時代が変われば話も変わるとはいえ、
古典的な物語をこんなふうに改作してしまっていいものかどうか、
ちょっぴり気になりますが――。
 表題作など、愉しい笑いと痛烈な風刺で別世界へご案内するショート・ショート33篇。


【目次】
いそっぷ村の繁栄
シンデレラ姫の幸福な人生、表と裏、頭の大きなロボット、
底なしの沼、ある商品、無罪の薬、新しがりや、
余暇の芸術、おカバさま、利口なオウム、怪しい症状、いい上役、
電話連絡、やさしい人柄、つなわたり、オフィスの妖精、健康な犬、
熱中、別れの夢、少年と両親、ねらった金庫、価値検査器、企業内の聖人、
夢の時代、ある夜の物語、旅行の準備、どっちにしても、不在の日、
奇病、ふしぎなネコ、やはり、たそがれ
【感想】
いそっぷ村の繁栄では、有名な寓話に新たな解釈を加えていた。
分かりやすい文章で、短い文章でありながら、
どの短編も奇想天外なストーリーであり、星さんの才能を感じました。

印象的な中でも特に印象的だった話が2つ。

少年と両親
反抗的な少年と、言いなりになる両親、
よくある反抗期のシーンと思いきや、
最後の真実には驚きました。
両親が子供を甘やかしていた理由もすっきりしました。

不在の日
この話は短編小説の中でも異色を放っていました。
何しろ「作者が不在の小説」という世界観。
ショートショートの中では少し長く、
どこに着地するのかと不安定な感じがした後の最後のオチは、
「なるほど」と思わせられる哲学的なものでした。

今回「未来いそっぷ」ということもあり、未来的なSFが多かったです。
、、、星さんの作品は毎回割とSFが多かった気もしますが。

星新一さんのショートショートの魅力は、
おっ!と思わせられる「オチ」があることと、

随所に哲学的な教訓をさりげなく取り入れているところだと思います。

123/200 『男女1100人の「キズナ系親孝行、始めました。」』牛窪恵(マーケティングライター)


読破っ!!
『男女1100人の「キズナ系親孝行、始めました。」』
牛窪恵(マーケティングライター)
発行:2012年8月 河出書房新社
難易度:★☆☆
資料収集度:★☆☆
理解度:★☆☆
個人的評価:★★
ページ数:228ページ


【本のテーマ】(Amazonの商品紹介文より抜粋)
親孝行に“いつか"はない!
震災後、そう気づいた20~40代の男女たち。
本書では、彼ら1100人への大規模なアンケート調査とインタビューを通じ、
平成のいまに相応しい「キズナ系親孝行」のヒント100件以上を、
親子の感動ストーリーとともに紹介します。
お金や時間がなくてもすぐ実践できる、平成親子の“つながり"術が満載。
二世代、三世代向けビジネスを模索する、企業担当者も必見です。

【目次】
第一章 親孝行の理想と現実
第二章 趣味と親孝行
第三章 旅と親孝行
第四章 暮らしと親孝行
第五章 同居と親孝行
第六章 就活と親孝行

【感想】
かつての「結婚して子供を産み、家を買ってあげる」というような親孝行の理想像は、
もはや過去の物であって、団塊世代は子供達に自由に生きてほしいと願っている人が
以前よりも増えている。それよりも、親孝行のハードルを下げ、
親子間のキズナを実感できるような、
小さな日々の中での親孝行の方が現実的であり、
その小さな親孝行の例を実際の例を基にレポートしていた。

社会人になってからも「実家にいること」は、
物理的に自立していない、たまに甘えてしまうという点で「親不孝である」面がある一方、
親の手伝いをしたり、親に関心を持つことができるという点では「親孝行である」面がある。
しかし、「甘える」ことで、親の親心を満足させてあげている、
というちょっと複雑な親孝行も存在していると報告していた。
(子どものちょっとした外出でも車で送りたがる親と、それに付き合う子どものエピソード等)

また、親の趣味に関するプレゼントは、
親に関心があるということを伝え、また、第二の人生的な趣味を応援している、
ということが伝わりやすいので、親孝行としては適している。
しかし、親の方が詳しいことがあり、失敗すると「もったいない」と言われるリスクもある。

親に贈る旅行に関しては、バリアフリーであることが重要だと述べていた。
あとは、母娘二人旅行が増えてきていること、新婚旅行に親を連れて行くケースもあるなどの
エピソードが語られていた。

親孝行阻害要素としての「三大ない」
「お金がない」「時間がない」「ぎこちない」
その3つをいかにクリアし、自然な形で親孝行をするかがポイントである。

家のリフォーム等に関しても、「親の老い」を理由にするのは嫌がられるケースが多いので、
ペットや兄弟などの別の理由を用意したほうが親に受け入れてもらいやすい。
終活に関しても、「エンディングノート」というものが話題にあがっていたが、
もう少し説明がほしいところだった。

牛窪さんの本は、さらっと読めてしまい、インタビューをまとめたものなので、
データとして記憶に残るというよりも、こういうケースもあるんだなぁ。という程度に留まる。
けれども、読み終わってからも、「あれってどういうものなんだろう」って好奇心をくすぐられ、
そこから先は自分で調べていく、みたいな感じで、
知的好奇心のきっかけをくれる、情報をくれる著者だと思います。

2014年12月14日日曜日

122/200 『「若作りうつ」社会』熊代 亨(精神科医)


読破っ!!
『「若作りうつ」社会』熊代 亨(精神科医)
発行:2014年2月 講談社現代新書
難易度:★
資料収集度:★
理解度:★☆☆
個人的評価:★★
ページ数:204ページ



【本のテーマ】(裏表紙裏より抜粋)
年の取り方がわからなくなり、寄る年波に足が竦んでしまっている現状について、
ミクロな個人とマクロな社会の両面から考えていく――そういう趣旨の本です。
過去に遡ってそうなった原因を検証し、未来に向かって何をすべきか模索するための
本でもあります。(中略)本書を通して一人でも多くの人に「年の取り方」について
思いを巡らせていただき、これからの年の取り方について真面目に考えてみてほしい、
と願っています。(「序章 年の取り方がわからない」より)

【目次】
序章 年の取り方が分からない第一章 「若作りうつ」に陥った人々の肖像
第二章 誰も何も言わなくなった
第三章 サブカルチャーと年の取り方
第四章 現代居住環境と年の取り方
第五章 二十一世紀のライフサイクル
終章 どのように年を取るべきか

【要約】
第一章 「若作りうつ」に陥った人々の肖像
「いつまでも若く活動的でいたい」という気持ちを持っている反面、
老いにしたがって身体がついていかない。そんなギャップから精神科に来る人々がいる。
著者がカウンセリングを行って人々の特徴を述べていた。

第二章 誰も何も言わなくなった
「年の取り方が分からなくなった」原因として、地域社会の崩壊があげられ、
かつては、地域社会の中で違う世代の人と関わる中で、
年の取り方を肌を通して実感していた。

第三章 サブカルチャーと年の取り方
サブカルチャー文化から、「年の取り方」について考察していた。
1960年代には、スポ根、大人を意識した成長物語が主流
1970年代には、大人を意識しない成長物語が主流
そして1980年~00年代以降は、努力をしなくても能力が与えられている物語が主流

また、「中二病」や「アイドル文化」についても述べており、
それぞれが若者に与えるスピリチュアル性、自己特別感について述べていた。
それは現代のアニミズムであり、大人と子供の境目が曖昧となる
幼形成熟(ネオテニー)社会への助長の一因となっており。
そのことが年の取り方が分からなくなる原因のひとつである。

第四章 現代居住環境と年の取り方
専業主婦の定着による主に母親のみによる子どもの教育が増えたことで、
子どもの価値観を固定的なものにしてしまい、
親の価値観によって「文化資本」(社会に出て通用する常識や知識)に格差が生じてしまう。
そこに、地域での世代間交流が少なくなったことが、
その格差を補正する機能を果たせなくなってしまった。

第五章 二十一世紀のライフサイクル
エリクソンの提唱するライフサイクルは、
一人の人間がそれぞれの年齢の段階で学習する領域がある。という説であったが、
著者はそれを更に発展させ、
学習する領域は、それぞれの年齢の段階だけのみならず、
それぞれの段階で学び始め、その後生涯学び続ける。
また、ライフサイクルは他者・他世代と密接に関係しており、
ライフサイクルを個人のものと考えるのは不十分である。

終章 どのように年を取るべきか
結論としては、多くの世代と交流を持ち、社会的加齢のイメージを作る。ことである。



【感想】
タイトルが衝撃的だったけれども、
「いかに年を取っていくか」ということが分からなくなってきている時代である。
というテーマにはすごく共感できました。

そして、母親もしくは父親が「唯一神」であるかのように、
一方の親に育てられる現代の子供の居住環境により、
子どもの「文化資本」に偏り・格差が生じ、さらにそれを補正する地域の役割が弱まっている。
という主張には納得しました。

また中二病やアイドル文化にも絡めて論じていたのが、
現代の現象を深く考察しているなぁ。と感じました。

エリクソンのライフサイクルも、高校の倫理で習ったことがあったけれど、
それを「世代間の交流や関係性」をもっと組み込むべきである。ということや、
生涯にわたって学び続ける。という点は、
少し難しくて理解しきれないところもあったけれども、
一昔前では世代間の交流が「当たり前」であったため、成り立っていた図式が、
現代社会では成り立たなくなってきてしまっているのだと感じました。

「若さ・可愛さ至上主義」の現代社会で、
いかに年老いていくのか。というのは、現代人が抱える重大なテーマであると思い、
「色々な年の取り方がある」ということを肌で実感するために、
世代の離れた人との交流をもっと持ちたいと思うようになりました。

121/200 『空気を読む力』田中大祐(放送作家)


読破っ!!
『空気を読む力』田中大祐(放送作家)
発行:2008年3月 アスキー新書
難易度:★
資料収集度:★☆☆
理解度:★☆☆
個人的評価:★★☆☆
ページ数:188ページ



【本のテーマ】(表紙裏より抜粋)
ただ単純に「集団の意に沿う」というのは、旧石器的なKYへの対処法です。
この本で提案したい放送作家的「空気を読む力」とは、集団の総意をつかみ、
交通整理をして、最終的自分の意見としてまとめてしまうという、
いわゆるファシリテーター(物事を円滑に進める人)的能力なのです。
これを身に付けると、空気を読む作業はしんどいコミュニケーションの「作法」
ではなく、さまざまなシチュエーションで威力を発揮する「武器」になります。

【目次】
第一章 すべらないための初期設定
第二章 空気を読んだコミュニケーションの作法
第三章 TVトークバラエティに学ぶ実践技術
第四章 コミュニケーションにおける大人の危機回避術
第五章 大人のコミュニケーションにおける周りと差をつける裏技
第六章 ダメ人間でもできる会議の技術

【要約】

第一章 すべらないための初期設定
前置きにより「ハードル」を下げる、自分の「キャラ」を把握し、キャラに従った発言をする。
それが「KY」にならない初期設定である。
空気を読まなくても良い「少年漫画キャラ」が稀に存在し、そのキャラは「無敵キャラ」である。

第二章 空気を読んだコミュニケーションの作法
「空気を読む」とは、つまり、「会話のプロレス」である。
プロレスのように信頼関係を前提に、お互いの掛け合いを行う。
掛けられた技は拒否せずに受け身で技を受けなければならないのがマナーである。
そのやりとりの奥にあるのは相手を気遣う「おもてなし」の精神である。

第三章 TVトークバラエティに学ぶ実践技術
会話の中心となっている人(MC)の重要ポジションの度合い、
そして会話している人たちのキャラクターによってどのように話を振るか。
「ツッコミ」の技術についての考察。
確認(今噛みましたよね?)・疑問(何で今二回言った?)・抗議(近すぎるだろ!)
などの種類に分けることができる。
しかし、基本的には、相手が投げかけた発言の「違和感」に対し、
俯瞰的な立場から指摘する。というものである。
度が過ぎると「上から目線」という印象を与えてしまう危険性もある。

第四章 コミュニケーションにおける大人の危機回避術
「無茶振り」への対応法、「すべり笑い」の活用法等
対応が難しい振りに対する応急手当例。

第五章 大人のコミュニケーションにおける周りと差をつける裏技
会話の中に会話を入れると、より臨場感が出て、聞き手が引き込まれやすい。
「ウソ」をつくことをためらわない。他人への愚痴や真面目な事も
大げさに言うことでそれとなく伝えながらも笑いに変えることができる。

第六章 ダメ人間でもできる会議の技術
会議に参加している時に、発言が出来ない人へのアドバイス。
うなずき・大爆笑・おうむ返し・内容の整理・後輩をてなづけておく、などなど・・・

【感想】
放送作家の現場の裏側から「空気」について考えられる本でした。
この本が出たのが2008年なので、「KY」が流行語大賞候補となった2007年から
1年しかたっていない、「空気を読むコミュニケーション」が重視されるようになった頃に
書かれた本です。

著者が「空気を読むコミュニケーション」を「会話のプロレス」と
例えているのが、衝撃的でした。
確かに「ボケとツッコミ」とは、お互いの「掛け合い」から成るという点で、
しかも、より派手に、面白おかしくやった方が、「観客」からの受けがいい。
そんな様子がプロレス的である。というのは合点がいきました。
でも、そんな「プロレス」的会話を普段の、
一般人の自分たちにまで求められる時代なのかと思うと、、、ちょっと恐ろしいです。

自分もそういう「プロレス的」な意味の「空気を読む」のが苦手なので、
著者が言っていた「少年漫画キャラ」にすごく興味を惹かれました。
純粋でまっすぐで、情熱的で。その人の事を「KY」ということ自体が「KY」である。
そんな存在。ってすごいな。と思います。
そんなキャラは言い換えると、「朝ドラヒロイン」キャラとも言えると思います。

「空気を読むコミュニケーション」を会議のレベルにまで持ってくるのは、
その場では、場の雰囲気や流れで結論を出したけど、
よく考えるとこうだよなぁ。ということが起こりやすいのではないのかな。と思います。
放送作家という場ではその「勢い」で物事を進めていけるのかもしれないけれども、
業種によっては、「その場」だけで終わってしまってはだめで、
あらゆる可能性とリスクを考えて物事を決定しないといけないと思います。
空気が読むのが苦手な自分が言うのは何ですが(前置き!)
そういう意味では、もちろん会議の場では役立つテクニックかもしれませんが、
あくまで「小手先」であり、本当に大事なのは、それぞれのプレゼンに対して、
深く、論理的に考えることなのだと思います。

「空気を読む」ことで、その場の交通整理を行い、
ファシリテーター的役割を果たすことができる。というのは理解し、共感できましたので、
決して「空気を読む」ことを「目的」とせずに、「手段」として、
活用できるようにしていきたいな。と思いました。

2014年12月8日月曜日

120/200 『女のいない男たち』村上春樹(作家)


読破っ!!
『女のいない男たち』村上春樹(作家)
発行:2014年4月 文芸春秋
難易度:★
感動度:★★
共感度:★★
個人的評価:★★
ページ数:285ページ




【本の紹介】(表紙帯より抜粋)
村上春樹、9年ぶりの短編小説世界。その物語はより深く、より鋭く、予測を超える。

【目次】
ドライブ・マイ・カー
イエスタデイ
独立器官
シェエラザード
木野
女のいない男たち

【感想】
初めて村上春樹さんの本を読みました。
噂で聞いていた感じだと、もっと堅苦しくて、文学的なイメージを想像していたけれども、
思ったよりも読みやすかったです。

どの短編小説にも男女の関係が出てきて、
でも綺麗な恋愛物語ではなく、もっと複雑で、裏や闇のある、
奥深い関係性を描いたものだと思いました。
物話の進め方も、回想形式であったり、物語の中でさらに誰かに語られるスタイルがとられていたりして、より本の中の世界に入っていきやすかったです。

セリフの言い回しであったり、登場する映画や音楽が「お洒落」で、
西洋の古い白黒映画とか、ジャズとかストリングスの音楽が似合う文学作品だと思いました。
今の時代設定ではない、かつての日本人が憧れた、
モダンな西洋文化みたいなものを感じさせてくれる作風でした。
外国語を日本語に翻訳したかのような文体がその構成要因の一つなのだと思います。

一番共感できた物語は「イエスタデイ」でした。
登場人物の年齢的に近く(時代設定は少し古かったけれど)
また、関西弁をマスターした関東人と、標準語を話す関西人という登場人物がよかったです。
過去の自分の色々なことが、思い出すと「恥ずかしい」と感じる、標準語を話す関西人、
そして、「自分が分裂している、違う自分を知りたい」と感じる、完璧な関西弁を話す関東人、
その、それぞれの心理がどちらも少しずつ理解できて、印象に残りました。

そして、一番分からなかったのが「木野」でした。
最終的にどうなったのかよく分からないし、謎が多い作品でした。
しかし、所々の情景が印象に残り、最後の方に抽象的に描かれていた、
「不安感」や「不安定感」のようなものが、
この短編全部に共通しているテーマなのかな。と感じました。
そして、その「不安感」「不安定感」の根本的な原因として、「女性」が登場している。
というのがテーマなのかな。と思いました。
そういう意味では、「イエスタデイ」のみ、そのテーマから少しずれた
異彩を放つ短編だと思います。

「好奇心と探究心と可能性」
「イエスタデイ」の中で出てきたこの言葉が印象的で、
短編小説の中に出てくる登場人物も、恋や性欲や理想的な自己の追求など、
何かを追い求めるエネルギーを心に秘めていて、
でも、それが自分の思うようにいかないことに対して苦しんだり、
悲しんだり、不安になったりしている。
というそんな心の動きが描かれていると感じました。

村上春樹さんは、短編集を書くときには一気に書く、と書かれていたので、
もしかしたら、それぞれの短編にもっと繋がりがあるのかもしれない。とも思います。

この本をきっかけに、他の作品も読んでみたいと思いました。

2014年10月20日月曜日

119/200 『バラエティ番組化する人々』榎本博明(精神学博士)

読破っ!!
『バラエティ番組化する人々』榎本博明(精神学博士)
発行:2014年10月 廣済堂新書
難易度:★
資料収集度:★
理解度:★
個人的評価:★★
ページ数:188ページ


【本のテーマ】(裏表紙より抜粋)
自分のキャラを意識し、仲間とキャラが被らないように気をつかう現代人の人間関係。
キャラにのっとったお約束のやり取りは、テレビのバラエティ番組さながらの様相だ。
キャラによって自分の出し方が決まり、無難にその場をやり過ごせる一方で、
キャラという借り物の個性にとらわれ、息苦しさを感じる人も多い。
「キャラ」と「自分らしさ」をめぐる心の問題を心理学者が徹底分析。

【目次】
第一章 武器としての「キャラ」
第二章 キャラが生み出す安心と葛藤
第三章 その場にふさわしいキャラを生きる
第四章 「自分らしさ」がわからない
第五章 キャラをヒントに「自分らしさ」をつくっていく

【要約・感想】
とても「今」の若者の心理を分析した著書でした。
近年「キャラ」という言葉が多用されるようになり、
その良さと危うさ、そして、その特性を理解した上で、
「キャラ」とどのように向き合っていけばよいのか、考えさせられる本でした。

まず、この本が伝えたかったことの一つとして、
「本来、人間とは多面的な性格を持つ存在である」というテーマが伝わってきました。
しかし、その多面的な自己のままで人間関係の中に飛び込むと、
複雑になりすぎてお互いに疲れてしまうから、
人間関係を円滑に、シンプルに、そしてテンポよくするための
一面的な自己しての「キャラ」を規定する。というのが「キャラ」の概念であると感じました。

そして、そんな「キャラ」というのは、確固とした普遍的な物ではなく、
その場その場に応じて、特に所属するグループに応じて形を変えて、
周りとの関係の中で「キャラ」が形成され、それを自分が「演じる」という図が成り立つ。
自分の中に目指す理想の「キャラ」のイメージがあって、
周りとの関係の中で形成された「キャラ」もそのイメージに近い場合は
窮屈さを感じることは少ないが、
演じる「キャラ」が自分の理想の「キャラ」とかけ離れている場合は、
窮屈さを感じてしまうことになる。

「キャラ」がここまで普及した理由の一つに、
社会的な外的要因による自己規定が減り、より自由な社会になったことがあげられる。
年齢・性別・所属等、外的な要因により自己を規定される機会が減ったことにより、
より自分らしく、自由に発言・行動できるようになった。
しかし、その反面、自己を規定するものが無くなったことにより、
曖昧な自己になってしまい、そんな自己イメージを補うために「キャラ」を利用する。

「キャラ」コミュニケーションは、
誇張され、わかりやすく、テンポが良く、表面的には面白い関係ではあるが、
その反面、人間の多面性を否定し、個人的な深いところまで入りにくく、
相手にあまり立ち入らなことを「優しさ」とする傾向がある。

そんな今の時代で「キャラ」をうまく使いこなすには、
まず、自分が理想とする「キャラ」の自己像を明確にする必要がある。
そのためには、自分がどんな人間であるのかを知る必要があり、
周りとの関係の中から形成された自分の「キャラ」を演じた時に
「違和感」を感じた瞬間こそが、「自分らしさ」を見つめ直す機会であり、
異質な人との関わりの中で形成された様々な「キャラ」を通して自分を見つめ直し、
自分が目指す「キャラ」をうまく着こなすことが理想的である。

「キャラ」という概念が良いものか悪いものかという極論では語れませんが、
コミュニケーションの潤滑油という役割では確実にあった方が良いと思います。
ただ、一方では、自分の「キャラ」、他者の「キャラ」を受け入れ、演じ合いながら、
一方で、一面的な「キャラ」を自分にも他者にも押し付けず、
人間の多面性を忘れない姿勢が大事だと思います。

2014年10月7日火曜日

118/200 『感動をつくれますか?』久石譲(作曲家)


読破っ!!
『感動をつくれますか?』久石譲(作曲家)
発行:2006年8月 角川ONEテーマ21新書
難易度:★
資料収集度:★
理解度:★
個人的評価:★★
ページ数:190ページ


【本のテーマ】(裏表紙より抜粋)
本書のテーマ:創造力
時代のテーマを読むために必要な「感性の正体」を探る。
▶質より量で自分を広げよ
▶心のベース作りは、生活環境から
▶コップを見て花瓶と言えるか
▶音楽は「記憶」のスイッチ
▶いい音楽は譜面も美しい

【目次】
第一章 「感性」と向き合う
第二章 直観力を磨く
第三章 映像と音楽の共存
第四章 音楽の不思議
第五章 日本人とクリエイティビティ
第六章 時代の風を読む


【感想】
ジブリの音楽を手掛ける久石さんの著書を読みました。

まず第一章の冒頭から、
「ものを作りにはふたつの姿勢がある。一つは自分の思うままに自由につくる芸術的な創作。
そして、もう一つは、自分が社会の一部であるという意識を持ち、需要と供給を意識した商業ベースでの創作である。」という内容の文章があり、創作ということを仕事にする、
ということに対する、大前提であると考えさせられました。

他にも、
誰かを感動させるには、まず、自分が感動できるものを作ることであり、
「誰かを感動させる」ことを目的に作るのではなく、それはあくまで結果である。

創作の根源にあるのは、自分の経験の積み重ねである。
どれだけ創作に関わる理論を学んだとして、
作品の構造を詳しく分析することができても、
その先のゼロから一を生み出すクリエイティブなところに辿り着くことはできない。
ひらめきや着想のイメージとして、
コップを見て花瓶だと言える(コップであるということは承知しながら)
様々な可能性や違う角度から理解する方法を生み出す姿勢が大切だと述べていた。

第一印象は間違っていないことが多い。
久石さん曰く、サンドウィッチ理論
=「第一印象→案外こうなのか!→いや、やっぱりこうだった」ということが多く、
最初に受ける第一印象は間違っていないことが多い。

セレンディピティについて、「偶然の出会い」を大切にすることで、
思いがけない幸せを見つける能力(=セレンディピティ)を磨くことができる。

また、「音楽する」という言葉について、
日本のオーケストラを指導しに来た外国の指揮者が、
最初の演奏でそのクオリティの高さに驚いたが、
帰国する時には、「もう二度と来たくない」と言われてしまい、
その理由が、「もとからクオリティが高く、そこからの上達が見られない。」からだったという。
海外のオーケストラは、最初の時点で「個」の主張が強く、
始めはバラバラだが、練習を重ねるうちに、「その団体の音楽」を紡ぎ出していくこと(=音楽する)
によって、日本オーケストラの最終的なクオリティを超えるほどのレベルに達する。
その点に関して、日本は最初から「阿吽の呼吸」的な感覚を持っており、
集団としてのある一定のレベルにまでは到達出来るが、そこからさらに上達することが難しい。
その理由として、民族の単一性、多様性があり、血族結婚が多いバリ島のウブドのエピソード、
民俗の血縁が濃いため、音楽する際、リズムの息が合いやすい。という話を述べていた。

日本は、伝統を重んじ、伝統文化を大切にし、伝統楽器が昔のままで存在し、
かつて演奏されたであろう音楽がそのまま今でも聞ける。
その「保存能力」は素晴らしいが、しかし、それは世界的に見ると実は特殊なのではないか。
例えば中国は、文化を踏襲するということを嫌い、毎回なんらかの「創意工夫」を行い、
そのため、「もともとの形」がもはや分からなくなるほど、常に変化し続けている。
日本人は伝統にはあまり手を加えたがらない反面、
新しい文化を取り込み、自国の文化風に「アレンジ」する能力が高い。
天ぷら、牛肉、カレー、ラーメンしかり。どれも元は外国から入ってきた文化が、
日本流にアレンジされ、日本文化に定着したものである。
その反面、行き詰まると、それまでの文化を切り離し、蓋をして、「リセット」するという癖がある。
明治維新を皮切りに西洋文化が入ってきた時や、戦争に負け価値観を180度変えたことなどが
例として挙げられていた。低成長期に入り行き詰まり感が出てきた現在、
次はどのような「リセット」を行うのか、という懸念がある。

世界的に活躍する久石さんの作曲活動の裏側、
音楽を通して久石さんが考えた「創作」について、そして、その「創作」に対する、
国や民族による違いについて。
世界的に活躍する音楽家である久石さんだからこそ見える、
これまで考えたことのない視点からの日本文化論は、とても刺激的でした。

2014年10月5日日曜日

117/200 『ヤンキー経済』原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所)


読破っ!!
ヤンキー経済~消費の主役・新保守層の正体~』
原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所)
発行:2014年1月 幻冬舎新書
難易度:★
資料収集度:★
理解度:★
個人的評価:★★
ページ数:220ページ


【本のテーマ】(裏表紙より抜粋)
「若者がモノを買わない」時代、唯一旺盛な消費欲を示しているのがヤンキー層だ。
だが、ヤンキーとは言っても鉄パイプ片手に暴れ回る不良文化は今は昔、
現在の主流は、ファッションも精神もマイルドな新ヤンキーだ。
本書では密着取材とヒアリング調査により、「悪羅悪羅系残存ヤンキー」「ダラダラ系地元族」に分化した現代のマイルドヤンキー像を徹底解明。
「給料が上がっても絶対地元を離れたくない」家を建てて初めて一人前」
「スポーツカーより仲間と乗れるミニバンが最高」など、
今後の経済を担う層の消費動向がわかる一冊。

【目次】
序章 マイルド化するヤンキー
第一章 地元から絶対に離れたくない若者たち~マイルドヤンキー密着調査~
第二章 マイルドヤンキーの成立
   第一部 ヤンキーの変遷
   第二部 マイルドヤンキーの立ち位置
第三章 ヤンキー135人徹底調査
第四章 これからの消費の主役に何を売るのか

【感想】
ZIPのレギューラーメンバーとしても活躍されている原田さん。
ZIPで見る前から著作を読み、僕の尊敬するマーケティングライターの一人でした。

以前読んだ原田さんの著書「さとり世代」には網羅されていない範囲の若者についての、
実態調査をもとにした随筆で、たいへん興味深かったです。

「ヤンキー」と言われる人間像の時代の移り変わりに伴う変化。
「リーゼント・暴力・ガツガツ」等のイメージから、「オシャレ・仲間意識・地元」というイメージを
含んだ人間像に変わりつつある。そんな現状が伝わってきました。
そんな新種のヤンキーを「マイルド・ヤンキー」と命名し、
彼らからすると、一昔前の「ヤンキー」はもはや「ファンタジー」でしかない。というのが、
とても興味深い発言でした。

バブルがはじけるまでは、右肩上がりの成長社会で、
親世代よりもより「良いものを」手にするために必死になったり、見栄を張ったり、
また、そんな金の亡者化とした親世代に反発心を抱いていたかつてのヤンキーと対照的に、
失われた10年を経て、好景気を経験したことのない、
新ヤンキーは、「現状維持」だけでも十分大変なことであると感覚的に理解し、
多くを求めず、新たな世界に積極的に飛び込むこともなく、
自分のしっている世界の中で、その日常を大切にしたいと考えている。
それはかつての日本の「ムラ社会」と通じるものがあるのではないか。

という主張も、別の著書、「新ムラ社会」と共通するところがあり、
論述にブレがないな。と思いました。

原田さんの著書を読むと、自分の価値観を見つめ直させられます。
なぜなら、バブルを経験した大人たちが、自分たちの感覚で
若者たちに物を申し、価値観を押し付けてきた時、
自分の中では、何かが違う、と違和感を感じながら、
でもそれをうまく言葉にして主張できないと感じることがあるからです。
わかりやすい例で言うと、「ガツガツしろ」とか、「今時の男子は草食系だ・・・」とか。

高度成長の時代を経て、成熟社会と呼ばれるようになった今、
必要な人生観は、「現状維持に満足」することなのではないでしょうか。
かつての価値観を引きずったまま、「気合」や「根性」だけで、
緩やかな経済上昇をかつてのように押しあげさせようとするのは、
無理があるのではないでしょうか。

あとがきに書かれた、ベネチアのゴンドラ漕ぎの青年の話がとても印象に残りました。
観光者向けのゴンドラを漕ぐ仕事を三代前からしている青年。
幼い著者がその青年にそんなちっぽけな人生に満足なのかと、
父を通して英語で聞いてもらったところ、
「祖父と父と同じ仕事ができて、すごく幸せだ」という答えが返ってきた。
著者が推測するに、ヨーロッパはもともと階級社会である上に、
その頃にはすでにヨーロッパ全体が低成長期にはいっており、
「現状維持」に満足できる価値観をその青年が持っていたのではないか。

現代の日本の若者もその青年と同様に、
「日本という成熟社会の中でいかにして幸せに生きていくのか」という問いについて、
しっかりと向き合わなければならないのではないでしょうか。