『教師格差――ダメ教師はなぜ増えるのか』 尾木直樹(教育評論家)
発行:2007年6月 角川ONEテーマ21
難易度:★★★☆☆
資料収集度:★★☆☆☆
理解度:★★★☆☆
個人的評価:★★★☆☆
ページ数:221ページ
【本のテーマ】
教師の現場の現状を調査などから明らかにし、その原因、対策を述べる。
【キーワード】
2007年問題、モンスターペアレンツ、校務分掌、目標管理型評価システム、
教育基本法改正、教育再生会議、習熟度別学習
教育基本法改正、教育再生会議、習熟度別学習
【目次】
序章 病める教師――教育の現場から
1.「心の病」と教師 2.教師が病んでしまう理由
第一章 教師力は落ちたのか
1.「問題教師」はどこにでもいる 2.「学校の常識」は非常識か
3.ダメ教師の現実 4.教師格差拡大の危機
第二章 「逆風」にさらされる教師
1.教師と親の終わりなき闘い 2.時間との闘い!教育委員会との闘い!
3.子供を教師から奪う改正教育基本法
第三章 教師の条件
1.教師という仕事 2.教師像の現実と理想 3.何が教師に求められているのか
第四章 「教育再生論議」に見る、教師の未来
1.動き始めてしまった!教育再生会議 2.「教員免許更新制」の問題点
3.「いじめ問題」への処方箋 4.「学級崩壊」「ゆとり教育」への誤解を解く鍵
第五章 「再生教育」への提言
1.ビジョンが見えない「教育改革」の罪 2.現実に押し寄せる「教育格差」
3.「教育再生」は必ずできる
おわりに
【概要】
序章 病める教師――教育の現場から では、教師の現場の現状を述べていた。
2005年度調査によると、教師の精神性疾患による求職者は1995年の1.9倍の4178人であった。
東京都教育委員会は教師に『こころにも休み時間を』と書かれた、「こころに風を入れる7つのポイント」が書かれたカードを配布している。と述べていた。
著者のアンケート調査の自由記述回答の一例から、教師がどのようなことに悩んでいるのかが描かれていた。評価主義や形式主義によって提出資料にかける時間が増え、子供にかける時間が足りない。と述べられていた。
また、2005年の労働科学研究所の調査によると、教師2432人中、45.6%が体調が不調、非常に不調と答えていた。(全職業においては15.7%がそう答えていた。)
第一章 教師力は落ちたのか
報道でとりあげられた問題教師について述べ、また教師という世界が閉鎖的な特徴を持っていることを述べ、さらには「生活科」や「総合学習」など勉強の自由度合いが高まった際に何をしたらよいか分からない、という教師の声を描いていた。その結果、教師の権威がかつてのようではなくなり、教え方を塾講師から学んだりしている現状を述べ、その一方で、「2007年問題」と言われる10年間の大量退職時代である現状を述べていた。
第二章 「逆風」にさらされる教師
モンスターペアレンツ(時には両親ともに)について述べ、勤務時間の長さについて述べていた。
文部科学省によると、2006年7月の小学校教諭の一日勤務時間は10時間37分、残業時間が1時間47分であった。2005年労働科学研究所によると、小学校で17.9%、中学校で22.5%の教諭が「過労死基準」の月80時間を超えている。
その理由として、文部科学省を始めとする機関からの生徒を対象にした「調査」資料への回答・報告が大量にあること、学校内の役割分担「校務分掌」(主任・会計・校務運営・・・50以上ある)の兼任、などの理由があげられ、さらに「評価システム」により、相互評価したものが給与に関係するため、横の連携を取りづらくなっている。と述べられていた。
2006年12月には『教育基本法』が改正され、教育が政治から「独立している」という要素が薄くなる記述となってしまった。と述べられていた。
第三章 教師の条件
教師と塾の講師は根本的に異なっており、塾の講師は「学力の向上」に特化しているが、学校の教師はそれ以外の「人間性」に対しても教育する役割を担っている。アメリカやフランスでは教師は学校の教師は授業に特化しているのに対して、日本の教師は学校という閉鎖空間で、「校務分掌」という役割分担をしている。そのようすは、社会の縮図であり、そのような「学校力」を高めることで、教師の姿を見て生徒がより「人間力」を学び取ることができる。と述べていた。
また、校長が求める理想の教師像が「授業がわかりやすい」を最も重視するのに対し、保護者と子供は「話を聞いてくれる」など、授業以外の面での生徒の心理的な理解を重視している。
また、目標管理型評価システムは、自分で目標を設定し、同僚からの評価をもとに給与を決定するシステムであり、それは、市場主義の競争を取り入れたものであるが、現場の声として、校長は効果的であると述べている一方、現場の教師からの反応はあまりよくない。その理由が、評価理由が開示されていないことがあげられ、評価内容を開示する声が上がっていることを調査から述べていた。
第四章 「教育再生論議」に見る、教師の未来
2006年10月から、安倍内閣のもとで「教育再生会議」が立ち上がった。そこで様々な議論が教育専門家ではない様々な知識人の視点から議論された。いじめ問題が深刻化してからは、いじめ問題への対応に重点を置いて議論している。2007年1月にはゆとり教育の見直しが提言された。また、免許更新制については、問題教師を追放する目的であると考えられるが、「問題教師」=「指導力不足の教師」という等式は成り立たない。と述べていた。いじめ問題については、目標管理型評価システムの存在により、評価を下げないために隠蔽する、という事態が発生している。と述べていた。それに対する教育再生会議の提言も、「いじめを傍観する者も加害者とみなす」という行き過ぎた提言をしている。と指摘していた。
教師は会社と違い、同僚間での協力・連帯感が必要不可欠である。と述べ、目標管理型評価システムの欠点を指摘していた。
第五章 「再生教育」への提言
「学力向上」に固執するあまりに、「生きる力」というものが軽視されてしまう恐れがある。
著者が行ったアンケート調査によると、親が子供に一番求めているのは「学力の向上」よりも「人の痛みや苦しみを理解する」ことであった。教育格差の存在、習熟度別学習のデメリットについて述べていた。教育に国がかけるお金は年々減少しており、先進国の中では最下位である。と述べ、教育は国家をどのようなものにしたいのか、というヴィジョンに向けての投資であり、最終的にはそれが社会に還元されるという意識を持ち、位置づけをもっと高めるべきである。と指摘していた。
具体的には、教師の数を増やし、少人数制のクラス編成を行い、生徒の意見をより取り入れた教育を行うことを提言していた。
【感想】
教育の現状について、現場のリアルな声を聞くことができる本でした。
教師がなぜ忙しいのか、また、評価システムがいじめの隠蔽に繋がっている、ということ、
教育基本法が改正され、教育が独立したもの、という意味合いが薄くなったことなどを知りました。
日本の教育制度は、教師はただ教えるだけではだめ、というのが独特なのだそうで、
それがよいところでもあり、悪いところでもあるのかな。と思いました。
筆者が最後に提案していた、教師の人数を増やして、少人数制のクラスにする。
という提案には、賛成です。現実可能なのかどうかは分かりませんが、
教育への支出を増やすことが出来たら、ぜひそうしてほしいと思います。
逆にそうでないと、教師はクラスの中でおとなしくしている優等生よりも、手のかかる生徒にばかり時間を使い指導をし、クラスに埋没してしまった生徒の、自尊心や自主性を育めないと思います。
これまで、教えてきてもらっていた教師に対して(特に中学の)あまり良い印象を持っていませんでしたが、きっと自分の知らないところで、仕事に追われ、大変な思いをしていたんだろうな。と想像しました。「良い教育をしたい」という思いがあっても、システムがそうさせてくれない、ということもあったのかな。と思いました。でもやっぱり、自分が受けてきた教育(特に中学)を振り返ると、「事なかれ形式主義」で、おとなしく優等生にしていたら、その存在感を感じてもらえているのか分からなくなるくらい、表面的な対応しかしてくれなかったな。と思い出します。
小学校の教育は、割と連絡帳で「交換ノート」みたいに、会話をさせてくれたり、総合学習で地元をテーマにした学習をしたり、いろいろと工夫してくれていたのを思い出しました。
教育というのは、受けている時は、それがどういう効果があるのか意識することもなく、
ただ受けるしかないけど、時間がたってふと振り返った時に、なんとなく心に残っていて、
こういう能力を育もうとしてくれていたのか、と気づいて、その手間に感謝したくなるようなものだと思いました。交換ノートとか、作文とか、一人ずつチェックするの大変だっただろうな。
これからの教育を考えても、対面式で一人一人の生徒と向き合う、というのは、
教師の数を増やさない限り理想論でしかなくて、現実的な対応としては、連絡帳でのやりとりとか、
そういう書面上での生徒とのやりとりが中心になってしまうのだと思います。
それがコミュニケーションの能力の低下の原因につながっている。と考えたりしますが、
教育というのは、「比較」することができないので、因果関係を論理的に説明しにくいし、
何が良くて何が悪いかというのも結論付けにくいものなのだと思います。
読みながら、教師の知り合いのことを思い出しました。
教師の皆さん、どうか体を壊さずに続けてください。
皆さんの気持ちが生徒に届きますように。
そして、日本の教育がより良いものになりますように。
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