2014年1月18日土曜日

読書マラソン51/100『卡子(チャーズ)上巻』 遠藤誉


読破っ!!
『卡子(チャーズ)上巻』 遠藤誉 (理学博士)
発行:1990年2月 文春文庫
難易度:★★★
資料収集度:★★
理解度:★☆☆
個人的評価:★★★
ページ数:283ペー



【本のテーマ】
中国生まれの日本人である著者が、第二次対戦の戦前・戦後の狭間で、共産党軍と国民党軍の抗争(兵糧攻め)にあい飢餓に苦しみ、長春を脱出するために「卡子」という鉄条網で囲まれた二つの軍に挟まれた隔離された中間地点で体験した非人道的・悲惨な体験を、記憶を頼りに綴っている。その後、当時の資料を探し、関係者・体験者への聞き込み調査を行い、その裏付けを行った記録を綴ったノンフィクション小説。


【キーワード】
ギフトール、長春、卡子、共産党、八路軍、国民党、動力源遮断、解放区

【目次】
第一章 赤いガラス玉
第二章 過去からのメッセージ
第三章 絶望都市・長春
第四章 卡子、再び
長春篇あとがき
地図

【概要】
第一章 赤いガラス玉
この章では、著者がどういう経緯で日本人として中国長春に住んでいたのか、その背景が主に描かれていた。父が麻薬中毒者のための薬「ギフトール」を開発し、中毒患者が大勢いた中国に渡り、工場で製造・販売をしており、その家に筆者が生まれた。第二次大戦開戦から終戦までの期間、満州国の日本の統治が無くなっていく中、家族で暮らしていた父の工場に、ソ連からは兵隊が、共産党からは八路軍がやって来て、金品を強奪されたというエピソードが描かれていた。

第二章 過去からのメッセージ
この章では話は現代に戻り、著者が以前書いた卡子についてのノンフィクション「不条理へのかなた」が読売「女性ヒューマン・ドキュメンタリー」大賞の優秀賞を受賞したその経緯と、その際に事実確認を厳密に行ったエピソードが書かれていた。

第三章 絶望都市・長春
この章では、再び話は昔に戻り、1947年長春が電気、水道などのエネルギー封鎖(動力源遮断)にあい、飢餓に苦しみ始め、著者の親戚の中にも餓死者が出だし、薬の製造のためと、共産党軍のある兵士との約束があったためとどまっていたが、限界に来たので長春を出ることにし、南の「解放区」を目指す。国民党軍が検閲する鉄条網を超え(再び戻ってくることは許可されない)、解放区に入ったかと思いきや、そこには餓死者が大量に横たわる空間があり、その先に共産党軍が検閲する鉄条網があり、そこに挟まれた1kmほどの空間は行き来のできない隔離世界であり、極限状態の非人道的な世界であった。極限状態を数日間切り抜け、父が技術者であるという特権のおかげで、最終的に鉄条網の検閲を通り、解放区に入ることができた。

第四章 卡子、再び
話は現代に戻り、著者はそのような衝撃的な体験し、ノンフィクション体験記を書いたものの、若干7歳ほどであったため、一緒に生き抜いた母からの証言も参考にしているとはいえ、記憶がどこまで正確であるか疑問を持たれてしまうと思っていたため、大学の研究の傍ら裏付けをとる調査を行っていた。たくさんの人に声をかけていく中で、同じ頃長春にいた人に出会うことができ、また卡子内での経験をした人にも出会うことができ、日経新聞のなかに体験記があるのも発見し、裏付けがとれていく。

【感想】
ゼミの先生に貸してもらった本の著者の体験記を読んでみましたが、生々しくて、衝撃的でした。
 戦中、日本が中国に侵入し、満州国を築き、敗戦とともにいなくなり、最初その場所へロシア人と中国人が入ってきて混乱し、最終的には国民党軍が長春に籠城し、それを共産党軍がとりかこみ、兵糧攻めをし、国民党軍が共産党軍の侵入を防ぐために作った鉄条網が共産党軍が追い詰めるとともに、二重、三重に何か所も設置され、そのうちその内側(北側)が国民党の検閲門、外側(南側)が共産党の検閲門となった。
国民党軍は軍の食糧を節約するためにななるべく長春市内の市民を外に出したくて、共産党軍はスパイの侵入を防ぐために(もしスパイがいるなら飢餓状態になったら再び長春市内に戻っていくだろうという思惑)検閲門を通さず、その結果、その中間の空間「卡子」が「無責任空間」的な飢餓に苦しむ市民が押し寄せる非人道的、極限的空間となった。検閲を通れたのは少数の「技術者」だけで、著者が通れたのは運が良かっただけで、後の調査によると、著者が通った数日後に、技術者すら通れなくなってしまった。と述べられていた。

最初著者だけの視点で悲惨な体験談が書かれていて、けど、その描写がどこまで正確なのかと思っていたら、後半は同じ体験をした人を探したり、当時の資料を探し、その裏付けをとっていたので、史実として根拠のあるものにしようとしていました。この史実が本当ならば、著者の中にあった「アウシュビッツレベルの悲惨な事件があまり知られていない。」という言葉がすごく重く感じられます。

日本語で、日本人の視点で、戦争の頃、中国で起こったことが描かれている本を読んだのは初めてだったので、衝撃的でした。どこの国であれ、何人であれ、戦争のとばっちりをくらう市民が一番悲惨だと思いました。
中国に日本が攻め入って、終戦と共に引き上げたことにより、その地区を誰のものとするか、混乱が生じ始めた。という意味で、戦時中日本が中国に与えた影響を具体的に感じることができました。たぶん他にも日本が中国にしてきたことはたくさんあると思います。
学校ではあまり深く習わなかったので、心が重くなるけど、他の本も読みたいと思いました。

また、昔の視点で描かれているときは、よく状況が呑み込めないまま動いていることがまざまざと描かれており、後の章の裏付けを通して、よりその時に起こったことが鮮明に分かる。という方法が、臨場感のある追体験をしているような気分にさせられました。

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