2014年1月23日木曜日

読書マラソン55/100『〈自己発見〉の心理学』 国分康孝


読破っ!!
『〈自己発見〉の心理学』 国分康孝(哲学博士・東京成徳大学教授)
発行:2002年1月 講談社現代新書
難易度:★★
資料収集度:★☆☆
理解度:★★☆☆
個人的評価:★★
ページ数:196ページ


【本のテーマ】
哲学とは生き方である。現象と結果を結び付ける捉え方(心の中の文章記述・ビリーフ)によって、
不満を解消することができる。具体例を通して考える実践的な心理学。

【キーワード】
文章記述、ABC理論、ビリーフ、ラショナル・ビリーフ、社会化

【目次】
まえがき
第一章 人生哲学
 哲学の必要性、哲学の任務、倫理療法の人生哲学
第二章 社会生活におけるビリーフ
 人を拒否するべきではない、フラストレーションはよくないものである、
 いい線を行かねばならぬ、人は私の欲する通り行動すべきである
第三章 学習生活におけるビリーフ
 ハウツーよりは倫理や原理や理念を学ぶべきである、自主性・自発性を尊重するべきである
 暗記式の勉強はすべきではない、頭の悪い人間は人生で高望みすべきではない
第四章 家庭生活におけるビリーフ
 家庭は憩いの港たるべき、長男夫婦は親と同居すべきである、
 配偶者は優しくなければならない、嫁は姑の娘である
第五章 職業生活におけるビリーフ
 転職すべきではない、ひぼしにされた人間はダメ人間である
 いばるべきではない、人に認められようとすべきではない
あとがき

【概要】
第一章では、哲学とは生き方であり、様々な価値観があると述べていた。
その中でも、ABC理論(A=Activating event B=Belief C=Consequence)といって、出来事(A)によって感情の動きという結果(C)が出るその間には、そこにどのような文章記述・ビリーフ(B)を理解するか。が重要なファクターであると述べていた。ビリーフには論理的なラショナル・ビリーフと非論理的なイラショナル・ビリーフがあり、ラショナルビリーフの条件は、1事実に基づいているか、2論理的必然性はあるか、3人を幸せにするかという3点である。Bのビリーフを変えることでCの結果としての感情をより不快から遠ざけられるが、時には、根本であるAから変化させないとならない時もある。そのためには自問自答と実際体験をすることが大切である。

第二章では、社会において信じられがちなビリーフの具体例をあげていた。
「人を拒否するべきではない、フラストレーションはよくないものである、いい線を行かねばならぬ、人は私の欲する通り行動すべきである」このようなビリーフ(B)を持つことによって、上手くいかない際に結果(C)として不快感を感じてしまう。だから、「~すべき」ではなく、「~なほうが好ましい、越したことはない」程度に捉え、拒否もフラストレーションも、それらを通して、自己を再発見し、意思表示することができる。相手が自分の思う通りに動かない場合は、「なおそうとせず、わかろうとせよ」という著者の師の言葉のように、考えを押し付けるのではなく、相手の立場に立って考えることが大切である。

第三章では、学習において信じられがちなビリーフの具体例をあげていた。
「ハウツーよりは倫理や原理や理念を学ぶべきである、自主性・自発性を尊重するべきである、暗記式の勉強はすべきではない、頭の悪い人間は人生で高望みすべきではない」このようなビリーフ(B)を持つことによって、上手くいかない際に結果(C)として不快感を感じてしまう。真に物事を考えようとすれば、言葉が必要であり、その基礎部分を理解するためには、「暗記」は必要であるし、人間としての基礎部分を理解していないのに、それを「自由教育」の名のもとに放任するのは、社会化の発展を阻害することであり、その意味で、相手のことを思ったうえであるならば、禁止・強制も否定されるべきではない。と述べていた。頭が悪いと自己レッテル張りしてしまうことについても、一人の人間の中に分野によって得意不得意があるということに目を向け、悪い部分を一般化してしまうことで、事実を歪曲化し、認識を誤ってしまっている。と述べていた。

第四章では、家庭において信じられがちなビリーフの具体例をあげていた。
「家庭は憩いの港たるべき、長男夫婦は親と同居すべきである、配偶者は優しくなければならない、嫁は姑の娘である」このようなビリーフ(B)を持つことによって、上手くいかない際に結果(C)として不快感を感じてしまう。家庭内にも役割期待が存在し、お互いに役割を果たす関係であれば、感情調和がとれていなくても家庭は成り立つ。長男夫婦、配偶者の件は、時代の変化に気付き、認識を改める必要がある。嫁は姑の娘である、というのは、他人である、という認識を持ちつつも共同生活をするうちに、情を持つようになる。と述べていた。

第五章では、職業に対して信じられがちなビリーフの具体例をあげていた。
「転職すべきではない、ひぼしにされた人間はダメ人間である、いばるべきではない、人に認められようとすべきではない」このようなビリーフ(B)を持つことによって、上手くいかない際に結果(C)として不快感を感じてしまう。「いばる」ということは、役割をきちんと引き受ける、という側面があり、ただ単に権威的に威張るのはよくないが、逆に、威張らなさすぎるのも、役割責任を果たせなくなってしまうことになる。
 
【感想】
著者の人生からの教訓に心理学の知識を加えた本、という感じでした。
読んでいると、ふむふむ。と思い、感覚的にはなんとなく分かっていることを言葉にして論理的に説明している感じでした。本の内容全書に共通して言えることは、「決めつけはよくない」ということで、「これが良い、あれは悪い」という論理的根拠のないままに決めつけてしまうのは良くない、として、その「論理的根拠」となりうるには、1事実に基づいているか、2論理的必然性はあるか、3人を幸せにするかという3点である。と述べていて、なるほど。と思いました。
 自由を求める前提として、基礎をきちんと理解しているべきである。という「守破離」の考え方や、役割を果たすことで組織が潤滑に回る。という考え方、人間は能力に凸凹があり、部分だけをみて全体と思ってはならない。など、ほかの本でも目にしたような考え方も出てきていました。
 なるほど。と思うことが書いてあったのはいいのですが、過去からの教訓を論理立てて話しているに過ぎず、全く新しい教示を得られる、というものでもありませんでした。ゼミの先生のアドバイスを聞いている。という感覚になる本でした。新しい発見は多くなくても、自分の考え方に論拠性を与えてくれるような本でした。

2014年1月22日水曜日

読書マラソン54/100『パレード』 吉田修一


読破っ!!
『パレード』 吉田修一(作家)
発行:2004年2月 幻冬舎文庫
難易度:★
感動度:★★
共感度:★★
個人的評価:★★
ページ数:309ページ



【本の紹介】(裏表紙より引用)
都内の2LDKマンションに暮らす男女四人の若者達。「上辺だけの付き合い?私にはそれくらいが丁度いい」。それぞれが不安や焦燥感を抱えながらも、“本当の自分”を装うことで優しく怠惰に続く共同生活。そこに男娼をするサトルが加わり、徐々に小さな波紋が広がり始め……。発売直後から各紙誌の絶賛を浴びた、第15回山本周五郎賞受賞作。

【目次】

杉本良平 21歳・H大学経済学部3年
大恒内琴美 23歳・無職
相馬未来 24歳・イラストレーター兼雑貨屋店長
小窪サトル 18歳・自称「夜のお仕事」に勤務
伊原直樹 28歳・インディペンデントの映画配給会社勤務

【感想】

ルームシェアの都会的な関係が描かれた物語だった。表面上は、気を遣わず、仲良く過ごすけれども、深いところは触れ合わない、そんな「さらっとした関係」が描かれていた。
5人の視点から描かれており、最初のうちはそれぞれの関係性がよくわからず、接点が無さすぎる4人がなんでルームシェアをしているのか分からず、でもつかず離れずの関係が妙にリアルだと思って読んでいると、最後の章でルームシェアの真実が分かり、さらに衝撃の展開。そして、さらに衝撃が続く。一度読んだときは、関係性がよく分からないのと、最後の衝撃が強烈だった。今回二回目読んだときは、心の準備はできていたし、関係性も分かって読んでいたけど、一番最後の衝撃で、やっぱり衝撃を受けた。
一回目も、二回目もこの小説全部を通して「優しい無関心」というようなものがあって、温かさを感じると同時に、怖さを感じる。優しさと冷酷さという、同時に存在しえないようなものが存在している。上手く表現できないけど、とても都会的な小説だと思った。お互いのことをなんとなく知っているつもりでいて、実は本当の深い過去や不安を知らない。でも、そもそもそ人が誰かと接する時には、「本当の自分」を断片的にしか見せなくて、その人の全ての「本当の自分」なんて、知りようがないし、知るべきでもない。そんなメッセージを感じました。


以下、最後の衝撃2連続を除いた、ネタバレを書きます。
ネタバレ注意!!

 大学生・良介は地元九州から東京の大学に上京してきた。これといって目的は無いが東京に憧れがあったためである。進学の際、父と母には金銭面で苦労を掛け、母からは反対されたが、父の「東京で色んな友達を作ってこい。」という言葉により母が説得され、上京した。しかし現実はなかなかその通りにはいかない生活をしていた。ある日、サークルの先輩の彼女と浮気関係になってしまい、一夜を過ごし、次の日の朝、彼女の家で彼女の弟と3人で朝ご飯を食べているときに涙を流す。
OL・琴美は、短大生の時に合コンで丸山くんと知り合い、恋に落ちる。しかしある日、躁鬱病の丸山くんの母親のひどい姿を目撃してしまい、衝撃を受け、結果、別れてしまう。会社員生活に嫌気がさしていたころ、クラブで知り合った人が兄のトラックで東京に行く、という話を聞いて、それに同上して東京に行く。東京には、その後芸能活動をしていた丸山くんがいたからである。しかし、彼に連絡をとっても出ず、唯一東京にいた友達・未来に連絡し、アパートに転がりこむ。そして、多忙な中時々来る丸山くんからの連絡を受け、会いに行くという生活を続けている。OL時代の貯金は底をつき、親には「どうしても叶えたい夢がある」と言って仕送りをもらっている。
 イラストレーター・未来は、雑貨屋の店長でお金を稼ぎ、空いた時間に男性の体の一部の絵を描き、露店で並べている。酒飲みで酔っぱらって、ある日、男娼・サトルを連れて来る。幼い頃母が父から虐待を受けているのを見、その記憶を鎮めるために映画のレイプシーンだけを寄せ集めたビデオテープをずっと隠し持っていたが、ある日、そのテープが上書きされていることに気付き、犯人がサトルだと目星をつけ、追い出したがる。
 男娼・サトルは、昔からふっと人の後をつけて、その人の家に不在時に鍵をこじ開けて忍び込む癖があった。特に何かを盗むわけでもなく、その人の生活を垣間見るだけで満足する。親についての過去は結局謎のまま。それぞれのルームメイトにそれぞれ違う話をし、相手に受け入れられやすいように自分の過去を作って話すようなところがあった。
映画配給会社社員・直樹は、美咲と二人でその部屋に住んでいた。しかし、二人の関係が悪くなり、毎日喧嘩するようになる。そんな時、行きつけのバーで知り合いだった未来がアパートの契約が迫っているが事故を起こしたため金銭的にピンチであるというので、ルームシェアを誘う。しかしそれは、二人の間に誰かが入ることで、関係が少しでもましになるのでは、と考えたからであった。良介は、高校の後輩から、サークルの後輩に失恋して自殺しそうなやつがいると相談を受け、その頃、美咲と未来が自分をよそに毎日楽しそうに過ごしているから連れてきてみた。元OL・琴美が急に転がり込んで来た時も、綺麗好きで整理整頓をしてくれたから追い出さずに住まわせた。全部自分のことを考えた結果であるのに、周りからは懐が深いと頼りにされてしまうようになったことに違和感やいら立ちを感じながらも、結局はまた、その期待に応えてしまう。


【物語について思うこと】

 疑問に思うのは、男娼・サトルは酔っぱらった未来に連れられてきたと言っていたけど、描かれていた空き巣の癖からすると、本当は同じように忍び込んだのではないか?という風に思いました。
いつも忍び込んでも何も盗まず、その家の生活感を感じるだけで終わっていたけど、そのアパートではルームシェアの人に見つかってしまい、予想外に受け入れられてしまったから、そのまま居ついてしまったのではないか、、、と勝手に想像しました。
 もうひとつは、直樹が、結局ルームシェアを受け入れたのは全部自分のためだった。と言っていたけど、それにしても、あくまできっかけは自分の為だったかもしれないけど、追い出す手段はあったはずなのに、それをしなかったのは、優しさがあったからではないかと思う。けど、その「優しさ」に見合う面倒見の良さが無かったので、結局、追い出せずストレスになっていたのかな。と思いました。


2014年1月21日火曜日

読書マラソン53/100『火車』 宮部みゆき


読破っ!!
『火車』 宮部みゆき(作家)
発行:1998年2月 新潮文庫
難易度:★
感動度:★★★
共感度:★★
個人的評価:★★
ページ数:590ページ


【本の紹介】(裏表紙より引用)
休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を探すことになった。自らの意志で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか? いったい彼女は何者なのか? 謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。

【目次】

1~29までの節
あとがき
解説

【感想】

読み応えがあるミステリーだった!!
失踪した関根彰子を追って、刑事が探し回って、謎を解いていく物語に一気に、引き込まれました。
時系列に起こった事件の真相を、様々な人からの断片的な情報をもとに、少しずつ繋がっていくのが、ややこしくもあり、読みがいがありました。

ネタバレはいかんよなー。と思いながらも、時系列に整理してみているうちに、
書きたくなったので、以下、ネタバレで書きます。これから読無かもしれない人は、読まないでね。
読んだことある人は、間違ってたら教えてください。


以下、ネタバレ注意!!

 関根彰子は、宇都宮で育った。父を早くに亡くし、卒業後上京就職。
クレジットカードでどんどん買い物をする癖があり、いつの間にか債務返済できなくなり、ホステスのアルバイトで働くが、過労で体調を崩し、取立てが職場にも来るようになり、会社を退職し、弁護士のもとへ自己破産の申告をしていた。
そんなある日、母が酔って階段から転落死。保険金が200万円入ったが、墓を持っていなかったため、墓のツアーに参加。そこで、自分と同年代の新条喬子に出会い、若いのに悲しい人生を歩んだ者同士が偶然出会ったと思いこみ、意気投合する。
新城喬子は、福島県に生まれた。親がマイホームをローンで買ったことで借金をし、サラ金にも手を出し、取立てに追いかけられるようになる。17歳で高校中退し、一家離散。母娘で名古屋にいたが、病気の父の見舞いにいったところから取り立て屋にかぎつけられ、母が帰ってこなくなったことから危険を察知し、求人広告で目にした伊勢の旅館で働き出す。そこで倉田と出会い、結婚。しかし、結婚したことで戸籍が変更され、再び取立てにかぎつかれる。父が自己破産を知らなかったため、父への取立ては終わらず、取り立て屋には債務者の娘として追いかけられ続ける。子供には返済義務がないため自己破産もできず、結局そのせいで夫と夫の会社に迷惑をかけ離婚。通信販売会社で働き出したころ、自分の「逃亡者」人生から抜け出すために、顧客データを入手し、身寄りのない誰かの人生に乗り替わることを計画する。ターゲット候補を同世代の女性何人かに絞り、少しずつ準備していたころ、候補者のうちの一人・関根彰子の母が違法建築の階段から転落事故死したことを新聞で知り、彼女をターゲットに絞り、接近する。墓のツアーで仲良くなり、殺害する。関根彰子の住んでいたアパートを夜逃げのように去り、新たな場所で関根彰子としての人生を歩み始める。社員3人の零細企業に偽りの履歴を書いた履歴書で入社、事務として働く。取引先の銀行員・栗原和也と知り合い、恋愛関係になり、婚約する。今後のことも考えクレジットカードを作った方が良いという栗原の勧めにより、栗原を通してクレジットカードを申請しようとするが、本物の「関根彰子」は以前自己破産申請を行っていたため、クレジットカードを作成できない。そのことを不審に思った栗原が、その旨が書かれた書類を見せると、新城喬子は青ざめて失踪する。
残された栗原は訳が分からず、遠縁の刑事、本間俊介に相談を持ち掛ける。



この最後の一行、栗原が本間さんを頼ってくるところから物語が始まって、本間さんが少しずつ真相に近づいていきます。最初の内は、関根彰子が偽物だなんて思わないので、イメージが一致しないなぁ。。と思っていたら、まさかの別人。浮かび上がってくる「新条喬子」という女性。最後は彼女の存在を突き止め、声をかける瞬間で終わる。話が練られすぎていて脱帽です。一回読んだだけでは把握しきれず、ネットのネタバレを見返して整理されました。笑

新条さんの「逃亡者」人生が切なくて、不幸な境遇にありながらも、なおしっかりと強く生きようとしている姿が印象的でした。途中からは、憂いを帯びた感じと、芯のある強さを持ち合わせたイメージで、自分の中で勝手に橋本愛さん(あまちゃんのユイちゃん)をキャスティングしていました。(映像化された際は佐々木希さんだったそうです。)そして、結果的には殺人者でありながらも、新条さんのそれまでの人生は何人かの彼女を愛した人から証言され、語られており、殺してしまい人生を乗り替わってしまった関根さんに対して「情がある」ととれる行動をしているのが描かれていました。関根さんについても、カードで自己破産してしまうような人だったけど、幼馴染がずっと気に掛けていたりして、二人のことを大切に思っていたり、気に掛けていた接点のないそれぞれの人々から少しずつ形作られる二人の人間像が、本人の描写がないはずなのに、すごく存在感のある描写に感じられました。

映像版も見てみたいです。

2014年1月20日月曜日

読書マラソン52/100『銀二貫』 高田郁


読破っ!!
『銀二貫』 高田郁(作家)
発行:2012年4月 集英社文庫
難易度:★
感動度:★★★
共感度:★★
個人的評価:★★
ページ数:345ページ


【本の紹介】(裏表紙より引用)
大阪天満の寒天問屋の主・和助は、仇討ちで父を亡くした鶴之助を銀二貫で救う。大火で焼失した天満宮再建のための大金だった。引き取られ松吉と改めた少年は、商人の激しい躾と生活に耐えていく。料理人嘉平と愛娘真帆ら情深い人々に支えられ、松吉は新たな寒天作りを志すが、またもや大火が街を襲い、真帆は顔反面にやけどを負い姿を消す・・・・・・。

【目次】
第一章 仇討ち買い
第二章 商人の矜持
第三章 真帆
第四章 同月同日の大火
第五章 再会
第六章 約束
第七章 更なる試練
第八章 結実ひとつ
第九章 迷い道
第十章 興起の時
最終章 銀二貫

【感想】
めっちゃ感動した!!!
最初に天満宮に奉納しようとしていたお金・銀二貫を、偶然見かけた、父親の仇討に巻き込まれ殺されかけていた松吉を救うために、仇討を「武士から買う」うところから物語が始まり、度重なる火事に苦しみながらも寒天屋を経営し、発展させ、最終的に30年近くかけて、銀二貫を奉納するところに辿り着く。和式サクセスストーリーでした。

物語の中に色んな人の人情が出てきていて、しかもそれがあからさまなものではなくて、
実は見えないところで人が動いていてくれていて、そのことに後から気付かされたり、
そういう形の人情が多くて、感動的でした。
それぞれの人の心情も分かりやすく描かれていたので、共感しやすかったです。
松吉がいつも、色んな人の言葉を大切に胸に留めていて、
大変な時にその人たちの言葉を思い出して乗り越える姿が、素敵だと思いました。

あとは、商いのお話だったので、経営的な話もあって、
「看板」と「中の人」ということについて考えさせられました。
つい最近あった「産地偽装」も物語の中に登場していました。
先代の後を継いで「看板」を掲げても、「中の人」がしっかりしていないと、
その「看板」の名が廃れてしまう。ということを物語を通して感じました。
寒天の新製品の開発とか、物流とか、販売戦略とか、江戸時代のそういう経営的なものを垣間見ることができました。

あとは、丁稚奉公という制度がやっぱりいいな。と思いました。下積み時代として、厳しいながらも、しっかりと躾をしてもらえる。それが日本的経営の終身雇用の始まりだったのかな。と思います。
「古き良き日本」じゃないけど、「丁稚奉公」と「暖簾分け」っていう制度は、「師弟関係」みたいな感じで、知識だけでなく、その分野における精神的な信条まで学ぶことができる、というのは、素敵な制度だな。と思ってしまいます。(それが今にも適応できるのかは別として。)

また、表紙の絵にもなっている「天神橋」の上でのシーンが、始まりから終わりまで登場し、
それが回想的に思い出されるのが、すごく印象的でした。
あとは、一人の視点に固まってしまうのではなく、登場人物のそれぞれの立場や思いっていうのが
描かれていて、それが交錯し、歯車がかみ合っていくことで物語が進んでいく感じが、すごく人間味があると感じました。

最初に出て来る「銀二貫」の伏線の回収が上手くて、随所に人情が綺麗に描かれている小説でした。それと同時に、「経営にまつわるヒント」みたいなものもたくさんつまっている本だと思いました。いつか困難にぶつかった時にもう一度読み返したい本です。

2014年1月18日土曜日

読書マラソン51/100『卡子(チャーズ)上巻』 遠藤誉


読破っ!!
『卡子(チャーズ)上巻』 遠藤誉 (理学博士)
発行:1990年2月 文春文庫
難易度:★★★
資料収集度:★★
理解度:★☆☆
個人的評価:★★★
ページ数:283ペー



【本のテーマ】
中国生まれの日本人である著者が、第二次対戦の戦前・戦後の狭間で、共産党軍と国民党軍の抗争(兵糧攻め)にあい飢餓に苦しみ、長春を脱出するために「卡子」という鉄条網で囲まれた二つの軍に挟まれた隔離された中間地点で体験した非人道的・悲惨な体験を、記憶を頼りに綴っている。その後、当時の資料を探し、関係者・体験者への聞き込み調査を行い、その裏付けを行った記録を綴ったノンフィクション小説。


【キーワード】
ギフトール、長春、卡子、共産党、八路軍、国民党、動力源遮断、解放区

【目次】
第一章 赤いガラス玉
第二章 過去からのメッセージ
第三章 絶望都市・長春
第四章 卡子、再び
長春篇あとがき
地図

【概要】
第一章 赤いガラス玉
この章では、著者がどういう経緯で日本人として中国長春に住んでいたのか、その背景が主に描かれていた。父が麻薬中毒者のための薬「ギフトール」を開発し、中毒患者が大勢いた中国に渡り、工場で製造・販売をしており、その家に筆者が生まれた。第二次大戦開戦から終戦までの期間、満州国の日本の統治が無くなっていく中、家族で暮らしていた父の工場に、ソ連からは兵隊が、共産党からは八路軍がやって来て、金品を強奪されたというエピソードが描かれていた。

第二章 過去からのメッセージ
この章では話は現代に戻り、著者が以前書いた卡子についてのノンフィクション「不条理へのかなた」が読売「女性ヒューマン・ドキュメンタリー」大賞の優秀賞を受賞したその経緯と、その際に事実確認を厳密に行ったエピソードが書かれていた。

第三章 絶望都市・長春
この章では、再び話は昔に戻り、1947年長春が電気、水道などのエネルギー封鎖(動力源遮断)にあい、飢餓に苦しみ始め、著者の親戚の中にも餓死者が出だし、薬の製造のためと、共産党軍のある兵士との約束があったためとどまっていたが、限界に来たので長春を出ることにし、南の「解放区」を目指す。国民党軍が検閲する鉄条網を超え(再び戻ってくることは許可されない)、解放区に入ったかと思いきや、そこには餓死者が大量に横たわる空間があり、その先に共産党軍が検閲する鉄条網があり、そこに挟まれた1kmほどの空間は行き来のできない隔離世界であり、極限状態の非人道的な世界であった。極限状態を数日間切り抜け、父が技術者であるという特権のおかげで、最終的に鉄条網の検閲を通り、解放区に入ることができた。

第四章 卡子、再び
話は現代に戻り、著者はそのような衝撃的な体験し、ノンフィクション体験記を書いたものの、若干7歳ほどであったため、一緒に生き抜いた母からの証言も参考にしているとはいえ、記憶がどこまで正確であるか疑問を持たれてしまうと思っていたため、大学の研究の傍ら裏付けをとる調査を行っていた。たくさんの人に声をかけていく中で、同じ頃長春にいた人に出会うことができ、また卡子内での経験をした人にも出会うことができ、日経新聞のなかに体験記があるのも発見し、裏付けがとれていく。

【感想】
ゼミの先生に貸してもらった本の著者の体験記を読んでみましたが、生々しくて、衝撃的でした。
 戦中、日本が中国に侵入し、満州国を築き、敗戦とともにいなくなり、最初その場所へロシア人と中国人が入ってきて混乱し、最終的には国民党軍が長春に籠城し、それを共産党軍がとりかこみ、兵糧攻めをし、国民党軍が共産党軍の侵入を防ぐために作った鉄条網が共産党軍が追い詰めるとともに、二重、三重に何か所も設置され、そのうちその内側(北側)が国民党の検閲門、外側(南側)が共産党の検閲門となった。
国民党軍は軍の食糧を節約するためにななるべく長春市内の市民を外に出したくて、共産党軍はスパイの侵入を防ぐために(もしスパイがいるなら飢餓状態になったら再び長春市内に戻っていくだろうという思惑)検閲門を通さず、その結果、その中間の空間「卡子」が「無責任空間」的な飢餓に苦しむ市民が押し寄せる非人道的、極限的空間となった。検閲を通れたのは少数の「技術者」だけで、著者が通れたのは運が良かっただけで、後の調査によると、著者が通った数日後に、技術者すら通れなくなってしまった。と述べられていた。

最初著者だけの視点で悲惨な体験談が書かれていて、けど、その描写がどこまで正確なのかと思っていたら、後半は同じ体験をした人を探したり、当時の資料を探し、その裏付けをとっていたので、史実として根拠のあるものにしようとしていました。この史実が本当ならば、著者の中にあった「アウシュビッツレベルの悲惨な事件があまり知られていない。」という言葉がすごく重く感じられます。

日本語で、日本人の視点で、戦争の頃、中国で起こったことが描かれている本を読んだのは初めてだったので、衝撃的でした。どこの国であれ、何人であれ、戦争のとばっちりをくらう市民が一番悲惨だと思いました。
中国に日本が攻め入って、終戦と共に引き上げたことにより、その地区を誰のものとするか、混乱が生じ始めた。という意味で、戦時中日本が中国に与えた影響を具体的に感じることができました。たぶん他にも日本が中国にしてきたことはたくさんあると思います。
学校ではあまり深く習わなかったので、心が重くなるけど、他の本も読みたいと思いました。

また、昔の視点で描かれているときは、よく状況が呑み込めないまま動いていることがまざまざと描かれており、後の章の裏付けを通して、よりその時に起こったことが鮮明に分かる。という方法が、臨場感のある追体験をしているような気分にさせられました。

2014年1月17日金曜日

読書マラソン50/100『桐島、部活やめるってよ』 朝井リョウ

読破っ!!
『桐島、部活やめるってよ』 朝井リョウ(作家)
発行:2012年4月 集英社文庫
難易度:★
感動度:★★★
共感度:★★
個人的評価:★★
ページ数:245ページ




【本の紹介】
田舎の県立高校。そこでの日常を複数の人の視点から描く。その日常に共通して出て来るのは、ある理由でバレー部をやめた「桐島」という男。桐島視点からは描かれていないけれども、彼の存在が同じ場面設定、連続した日常、を感じさせる、高校生の日常をリアルに描いた小説。


【目次】
菊池宏樹
小泉風助
沢島亜矢
前田涼也
宮部美果
菊池宏樹
東原かすみ~14歳

【感想】

高校生の日常がすごくリアルに描かれていると思い、高校時代のことをいろいろ思い出しました。
クラスの中に無意識的に階級地図が出来上がっていて、階級の上の方にいる人は、
自分の思うままに過ごすことを許させるけど、下の方にいる人は、気を遣い、
なるべく目立たないようにしないといけない。友達関係の描写も(特に女子)、一緒にはいるけど、仲の良さはそこまで深くなく、お互い地雷を踏まないように、当たり障りのない関係をキープする。
そういう微妙な関係性が痛いぐらいに描かれていて、共感できました。
視点となる人物も、バレー部の補欠、ブラスバンド部のキャプテン、冴えない映画部、彼氏に尽くすソフトボール部女子、野球部の幽霊部員、とバリエーション豊かでした。
一人だけ、「宮部美果」っていうのは、結構特殊な家庭で、そこだけ日常っていうのから、
少し遠のいているかな。と思いました。でも、現実もそんな感じで、こっそりちょっと特殊な人が紛れ込んでいるのかな。とも思いました。

文章の表現の仕方も特徴的で、会話が多く、「 」に入っている会話と、入っていない会話があって、それが会話の「何気なさ」をより際立たせているな。と感じました。
1989年生まれの朝井さんが二十歳とかで書いているっていうのが、本当にすごいと思います。

あと、登場人物の何人かに共通して、「学校」という場を特殊な閉鎖的な場所だと自覚して、
世界はもっと広いんだ。という意識を持っているところがあって、なんかそれって、「悟ってる感」があって、自分が高校生の時は、高校の生活が「それが全て」って思いこんで馬鹿みたいに必死だったなぁ、と思い返しました。今なら、客観的に考えたらわかるけど、その部分だけが唯一、少し違和感を感じた部分でした。

桐島くんは物語の中に登場してこないのに、「桐島が部活をやめた」っていうことがそれぞれの人の日常に入り込んで来ているのが、すごく斬新で、リアルさを引き立たせていました。
そして、物語が進むにつれて、各人の心情にも少し変化が出ているのが面白かったです。
もし、桐島くんの視点の章があるなら、どういうふうに描かれるのか、気になります。
時系列や事実は物語の中にちりばめられているので、国語の授業でそれを課題として出したら、きっと物語構成能力の勉強になると思います。笑

映画も見てみたいけど、映画になると、きっと「前田涼也」の「冴えない感」が小奇麗にアレンジされてそうな気がするので、リアルさが半減するのでは、、、と予想しながらも、見てみたいと思います。

読書マラソン49/100『町長選挙』 奥田英朗

読破っ!!
『町長選挙』 奥田英朗(作家)
発行:2009年3月 文春文庫
難易度:★
感動度:★★★
共感度:★★
個人的評価:★★
ページ数:269ページ




【本のテーマ】
トンデモ精神科医・伊良部がちょっと変わった患者たちと巻き起こす物語。
シリーズ第三弾。

【目次】
オーナー
アンポンマン
カリスマ稼業
町長選挙

【感想】
「サウスバンド」「ガール」など映画化された小説をいくつも書く奥田英朗の、精神科医伊良部のシリーズ第三弾。第一弾「イン・ザ・プール」は映画化され、松尾スズキ、オダギリジョーなどが出ているそうです。

今回の話の登場人物は、死を恐れる財界の重鎮、若くして頭角を現した超合理化主義の起業家、体型をキープすることに執着するナチュラル美人のアラフォー女優、そして、二人のだけの候補者が熾烈な争いを繰り広げる離島に出向させられ、板挟みにあう東京の公務員。

それまでのシリーズでは登場人物として凡人がわりと多かったけど、今回は前半3人は有名人、という共通した特殊性があった。その中でも、一話目と二話目は、「新旧」という対比を感じられ、
時代を支えた自負を持ち、そのことにしがみつく「オーナー」と、既成概念にとらわれずに新しい風を吹かしたい「アンポンマン」が対照的でおもしろかったです。
どの話も、モデルがいそうな話で、特にアンポンマンはもうホリエモンそのままのイメージでした。

どの話も、登場人物が何かが原因でストレスを感じ、生活に支障をきたすようになってしまい、
精神科医・伊良部の元を訪ね、カウンセリングを受けるうちに、解決していく。という流れです。
現実はそんなに甘くないだろうけど、フィクションとしては面白い話でした。
「オーナー」にしても、「町長選挙」にしても、世間から嫌われたり、喧嘩したりしてるけど、
その深層心理には社会をもっと良くしたい!っていう思いが共通してあり、
読んでて胸がじんとくるものがありました。

伊良部の子供っぽい無邪気さや、看護婦マユミのツンとしてる割に、たまにグッとくることを言う態度とか、二人のキャラが面白くて好きです。

個人的には、もっと凡人レベルの登場人物の物語がやっぱり好きです。
書いていると、過去のシリーズも読み返したくなってきました。

2014年1月16日木曜日

読書マラソン48/100『「いいね!」が社会を破壊する』 楡周平

読破っ!!
『「いいね!」が社会を破壊する』 楡周平(作家、元コダック社員)
発行:2013年10月 新潮新書
難易度:★★★
資料収集度:★★☆☆
理解度:★★☆☆
個人的評価:★★★
ページ数:239ページ



【本のテーマ】
ネット社会の進化が実生活に及ぼす影響を「ビジネスモデル小説」の第一人者が考察する。

【キーワード】
イノベーションによる構造破壊、LCC(ローコストキャリア)、GMS(総合スーパー)、FBA(フルフィルメント by Amazon)、3Dプリンター、ビッグデータのプラットフォーマ―、「ただ乗り」、オープンソースコンテンツ、パブリックドメイン、

【目次】
第一章 超優良企業はなぜ潰れたのか
第二章 素早く動き、破壊せよ!
第三章 便利の追求が雇用を奪う
第四章 「いいね!」ほど怖いものはない
第五章 勝者なき世界
あとがき

【概要】
第一章では著者が以前働いていたコダックがなぜ潰れたのかを体験をもとに述べていた。
アナログからデジタルの大変化が起こることは会社として予測はできていたが、
利益の観点(デジタルよりフィルムの方が利益が高い)でなかなか切り替えられなかったこと、
そのことにより、株主も方向転換をさせてくれなかったこと、写真店にも具体的な時期を伝えられないため、切り替えさせることができなかったこと、そうしている間に、ケータイの写真とブログの普及により、写真のデジタル化が一気に普及し、イノベーションの波にのまれてしまった。
もちろん、その中で生き残った写真メーカーもあるが、企業の生き残りと、従業員の生き残りは別で、イノベーションによって、多くの技術者が不要の者となってしまった。

第二章では、電子書籍業界においても、写真の時と同じような現象現象が起こっていると指摘していた。
まだ現段階では普及とまではいっていないが、ゆくゆくはデジタルカメラと同じように、何かをきっかけにイノベーションの波が起こると予測していた。否定する要素が情緒的な理由が多く、メリットとして中間の手間を省けることや、「読むための本」という一方的ではなく、「読ませるための本」という逆方向的なシステムも生まれ始めていることをあげ、一気に広まるのは時間の問題であり、その際にはたくさんの人が雇用を失う。と述べていた。
そのような一連の変化をFacebookの創始者、マーク・ザッカーバーグの「素早く動き、破壊せよ」という言葉を引用し、経営の本質を表している。と述べていた。

第三章では、便利さの追求により、雇用が変化する現状と予想について述べていた。
イノベーションは便利さ・効率化を追求し、その結果、雇用をリスクと捉えるようになると述べていた。より少ない人材で効率よくやるか。という方向に方針を向ける。と述べてた。
また、今後高齢化が進むと、生鮮食品などの領域までもネット購入・即日配達がより利用されるようになり、実店舗は「ショールーム」的役割になり、現段階でも、実店舗で見た商品のバーコードをアプリで読み取って、ネット上で安く買う。ということができてしまうようになっている。と述べていた。

第四章では、便利さの追求の裏側について述べていた。
3Dプリンターの登場もイノベーションとして、製造業における多くの作業を個人化してしまい、
雇用の喪失を生み出す可能性を秘めている。と述べていた。
スマホの登場により人は「サボれ」なくなり、LINEは個人情報を集約し、
FACEBOOKは顔写真から個人を特定できるようになった。グーグルでは、誰がどんな言葉を検索したかがサーバーに残されている。「無料」の代償として、個人情報を提供している。
それらの企業は「無くてはならない存在」を目指すと共に、年々個人情報を提供する際の規制やハードルを下げ続けている。

第五章では、雇用の不安定化などについて述べていた。
イノベーションによる変化の速さによって、安定的な企業というものが少なくなり、人生設計が立てにくくなった。若者は、大学までの資格審査を曖昧にしていたものが就職の場になって厳しい目で審査されるようになったつけが回ってきたために就職難になり、ネット就活により、より手を広げた就活を行い、就活難に拍車をかけている。「ただ乗り」という、コンテンツを無料で享受してしまうこと(ニュースをネットで済ましてしまう、など)が最終的にはコンテンツの質を下げてしまうこと、ウィキペディアなどの万人が知識を出し合って、情報を共有できる世界を作ろうとし、オープンソースコンテンツが溢れかえることで、意匠や著作権が限りなくパブリックドメインに近づいていく。そのことにより、「プロ」の存在が否定され、収入が減ることにつながる。
そして、経済が不安定化することにより、富の偏在が起こり、その結果、「勝者なき世界」が訪れる。

あとがきでは、
イノベーションの創造性と破壊について述べ、最後に「ドグマにとらわれてはならないというジョブズの演説を引用していた。

【感想】
THE・憂国論でした。将来が不安になりました。
社会はより効率化・便利さを求めて進むとその結果は、雇用の不安定化・喪失が生まれる。
そんな中で、「タダで情報を共有する」という概念が蔓延し、その結果、さらに経済が停滞し、
コンテンツの質も下がってしまう。という悪循環を感じ取りました。

今の時代、情報やコンテンツの著作権を規制しても、トカゲのしっぽ切りみたいな感じで、どこかしこに、抜け道的に「情報やコンテンツの共有」が存在していて、むしろいっそこの「シェアの時代」を受け入れるべきなのではないかと思います。
小さい頃、親の教育方針?でMACで遊んでいたころ、パソコンのソフトには「フリーウェア」と「シェアウェア」と「製品版」の三種類あって、「製品版」はお金を買って使って使用するもの、「フリーウェア」は無料で提供されるもの、その間の「シェアウェア」というのは、一部無料で、有料の部分があったり、人によっては募金やカンパを募ったりする。という形態がありました。(制作者によってシェアウェアの定義はいろいろだと思います。)つまり、言いたいのは、今、「フリーウェア」的に出回っている「情報の共有」を、いかに「シェアウェア」的な「一部有料」の状態に持っていけるかが重要なのではないかと思います。(例えば、ニコニコ動画の、プレミアム会員への誘導とか)そうしないと、「製品版」ばかりだと「掴み」が悪いし、「フリーウェア」ばかりだと著者の言う「ただ乗り」状態になってしまう。
中国における海賊版やパクリなどを考えても、人って言うのは、本音を言うと、「製品版」的な質のしっかりした物ばかりを求めているのではなくて、「そこそこの質(時にはそんなによくない質)で、それなりに満足できる安い価格で手に入るもの」を求めることも多いのではないかな、と思います。
コンテンツ産業って、質を悪くしても、その内容の本質自体の質はあまり下がらないところが難しいと思います。例えば、いい食材で作るイタリアンとそこそこの食材で作るイタリアンでは、出来上がったイタリアンの味の質にも違いがでるけど、いい画質で見る映画とそこそこの画質で見る映画では、満足度こそ差はあれ、物語の質や世界観の質は変わらない。そこが違うのが難しいところなのかな、といろいろ考えさせられました。

なんだかよくわからなくなったけど、「いいね!」が「ただ乗り」のままなら「社会を破壊する」ことになると思うけど、「いいね!」に対して何らかの「対価」を支払えるシステムが出来れば、「社会を破壊する」ことを食い止められるのではないかな?という抽象的なことを考えました。

【評価・理解度】
本のタイトルに関する記述がもっとほしかったです。しかし、便利さや効率化が世界に与える影響について考えることができました。

2014年1月15日水曜日

読書マラソン47/100『竜馬がゆく(一)』 司馬遼太郎

読破っ!!
『竜馬がゆく』 司馬遼太郎(作家)
発行:1998年9月 文芸春秋
難易度:★★
理解度:★★★☆☆
個人的評価:★★★

ページ数:446ページ




【本のテーマ】
坂本龍馬の生い立ちを描いた歴史小説。
一巻では生まれから、江戸に向かい、剣の腕が認められていく過程が描かれていた。

【目次】
門出の花
お田鶴さま
江戸へ
千葉道場
黒船来
朱行燈
二十歳
淫蕩
寅の大変
悪弥太郎
江戸の夕映え
安政諸流試合

【感想】

歴史小説を読んだのは初めてでしたが、思っていたより読みやすいです。
好きなシーンがいくつかありました。

まずは、竜馬が土佐で剣の名をあげ、江戸に向けて出発するシーン。
道場の者何人かで数日間お供して領石まで見送りに行くのですが、
その間、竜馬は時々ふっと消えて、勝手に自由に行動していたりする。
ある時は、通りがかった家の玄関から見えた合戦の絵が書かれた屏風が気になって、
玄関口で腹這いになって見つめていた。
小説の中では描かれていないけど、
ぼんやりと絵を見つめながらこれから起こることを考えているような、
そんな竜馬の姿を想像しました。
物語りの始まりとして、印象に残ったシーンでした。

他にも、剣術に関してのエピソードで、
竜馬が江戸でお世話になる道場の息子・重太郎が話す兵法噺で、
「サトリ」という獣の話が印象に残りました。
ある木こりが山で木を切っていると、後ろに「サトリ」と名乗る獣が現れ、
(珍しいから生け捕りにしよう)と思ったら、
「『珍しいから生け捕りにしよう』と思ったな」と言われ、
(心の中が読まれているのか、捕えるのはやめよう)と思ったら、
それも見透かされてしまい、木を切る作業に戻った時、
斧の先っぽが取れて飛んでいき、それが「サトリ」に当たり、
「サトリ」は死んでしまった。という話があった。
剣術の境地として、心妙剣と無想剣というものがあり、
心妙剣は、自分が狙いを定めたところを外さず、さらには「サトリ」のように相手の動きを敏感に感じ取り、把握できる、という境地である。
しかし、心妙剣に唯一打ち勝てるのが無想剣である。
つまり、心を無にし、無念無想でうごく。それこそが剣術の境地である。と述べられていた。
竜馬の剣術の試合を見ていた道場の持ち主貞吉が、竜馬には心妙剣の素質がある。
と言っていたけど、そのエピソードが面白いなぁ。と思いました。

そして、もう一つは、ペリーの黒船が来た時の竜馬の対応。
黒船征伐のために武士が集められていたのに、竜馬は黒船に興味津々で、
夜中にこっそり抜け出して、船で漕ぎ出して黒船に乗りに行こうと計画するという。
あまりにも無謀で、あまりにも子供過ぎる、
黒船を操縦することを考えてワクワクしている竜馬が、すごく子供っぽくて、おかしかったです。

あとは、竜馬の肩書へのこだわりの無さが印象に残りました。
剣の腕を見込まれ、いくつも試合に出るように勧められるのですが、
ある試合で竜馬も知る強豪と戦うと言われたとき、「相手が勝つ」と最初から言ってしまい、
幼馴染の武市に「武士として弱音を吐くな」と言うと、
「武士武士とがみがみ言わンすな。耳がなるわい」と言って、
肩書きはあくまでこの世の借り着で、正真正銘なのは人間いっぴきの坂本竜馬である、
という竜馬の生き方が描かれていました。

他にも、道中で泥棒と仲良くなったり、泥棒を通して知り合った娼婦の敵討ちに手を貸そうとしたり、長州にスパイに行った時、桂小五郎に見つかってバトルになったけど、結局仲良くなってしまったり。

あっけらかんとしていて、小さなことに拘らずに、手の内を明かしているかのように見せて、
けど人に流されているのではなく、自分の中に軸を持っていたり、野望があったりする。
そういう生き方、いいな。と思いました。

あと、昔は日本の中でも、土佐から江戸へ来たら、「留学」っていう感覚で語られていて、
藩が違えばその場所の雰囲気も違うし、人も違う、っていうのが描かれていて、
今にはない感覚だなあ。と思ました。

ところどころに、「後に、~となろうとはこの時思いもしなかった」みたいな伏線があって、
今後の話の展開が気になります。頑張って続きを読みます。

2013年12月27日金曜日

読書マラソン46/100『空気と戦争』 猪瀬直樹

読破っ!!
『空気と戦争』 猪瀬直樹(作家・東京副都知事(当時))
発行:2007年7月 文集新書
難易度:★★★
資料収集度:★★☆☆
理解度:★★★☆☆
個人的評価:★★★

ページ数:192ページ

【本のテーマ】
太平洋戦争という日本の針路決定の陰に、20代、30代の若者たちの戦いがあった。
東京工業大学の学生に向けた講義を再現。「時代に流されずに生きるとは」を説く。
(本書より引用)

【キーワード】
模擬内閣、ABCD包囲陣、人造石油、統計、空気、同調行動、
【目次】
はじめに
第一章 東條英機に怒鳴られた二十六歳の高橋中尉
第二章 三十代の模擬内閣のシミュレーション
第三章 数字が勝手に歩き出す
第四章 霞が関との戦い
おわりに

【概要】
はじめに では、戦前と戦後の連続性について述べていた。
戦前は軍国主義、戦後は平和主義、という把握による区別では、正しい歴史認識とは言えない。戦前から戦後にかけての「歴史の連続性」を感じ取ることが大切である。昭和16年から昭和20年の間が特に戦争の色合いが強かったが、その期間を除いた戦前と戦後を見ると、風俗やライフスタイルは、ほぼそのままつながる。と述べられていた。

第一章では、戦争直前の石油不足の対策から開戦までの流れが書かれていた。
ABCD包囲陣から、石油の輸出を禁止される事が予見できていたので、政府は、石油に代わる代替燃料の研究として、「人造石油」(石炭を高温・高圧で液状にしたもの)の開発を推進していた。
その研究に関わろうとしていた陸軍省の中尉・高橋中尉の話が本人の随筆をもとに述べられていた。政府は研究・開発を推進するものの、具体的な目標も掲げておらず、開発が実用化し普及する前に、ABCD包囲陣により、アメリカからの石油輸出を禁止されてしまった。そのため、インドネシアの油田を略奪する、という案が浮上し、その現状を東條英機陸相に伝えた際には、「泥棒せい、というわけだな」と言われ、「人造石油に投資してきていたのに、切羽詰まった時に役に立てません、なすべきことをおろそかにして困ったからと人に泥棒を勧めに来る。いったい日本の技術者は何をしておるのだ!」と陸相に怒鳴られたエピソードが綴られていた。

第二章では、石油のための「南進」=「開戦」をめぐって、模擬内閣の議論のエピソードが書かれていた。
南進をするか否かの判断を行うために、既存の内閣とは別に、模擬内閣を作った。民間企業からは、日本銀行、日本製鐵、三菱鉱業、日本郵船、産業組合中央金庫、同盟通信からそれぞれ一名ずつ、六名、あとは二十七名の官僚(うち五名は軍人)で構成された内閣であった。そこで議論をした結果は、南進し、油田を略奪しても、インドネシアから石油を運んでくる際に襲撃に合いやられるという「船舶消耗量」を考慮すると、石油を賄いきることはできない。という結論であった。

第三章では、開戦の際に用いられた数字「データ」について述べられていた。
東條陸相は、模擬内閣の結論に対し、「戦争では何が起こるかわから無いし、机上の空論に過ぎない」として、これを引き下げ、「口外しないように」念を押した。
そして、政府は、南進を進めた際の石油の需給バランスの試算表を作成した。
それによると、毎年年間約500万トンの石油需要に対し、17年には南進し、油田を略奪するが、搾油のために初年度はあまり供給は増えないため、前年度輸入した石油を繰り越しにして使い、18年度からは南の油田でとれた石油を使う。という計画であった。
しかし、そこには、「船舶消耗量」が考慮されておらず、その点が考慮されることがないまま、開戦してしまった。
猪瀬氏が戦後、当時中将をしていた鈴木貞一氏にインタビューをした際に、使われた「ムード」という言葉から、山本七平氏の「空気の研究」という著書の内容を思い出したと論述していた。
高橋氏の随筆の中にも、「これならなんとか戦争をやれそうだ、とみんなが納得し合うために数字を並べたようなものだった。」と述べ、実際、石油の需給量の内訳として、重油・ガソリンなどのそれぞれの量まで詰めていなかった。と述べ、後悔の念を述べていた。

第四章では、話を現代に戻し、現代の政治のなかでも、「不確実な数字」による決定がなされている。と指摘していた。
その例として、道路建設の際に重要なデータとして参考にする「交通需要推計」のデータを政府が作成した際、最初のうちは非公開であり、「著作権があるため」と述べていた。しかし、猪瀬氏の指摘により、データを公開するが「変数」の説明が不十分であるため、まだ不確実であった。そこをさらに指摘し、やっと根本的なデータを入手したところ、「免許保有率」が、実際の数値よりも高い「恣意的な」数値が用いられていた。という。そこを指摘してやっと、改善し、もともと15兆~12.6兆円と算出されていたものが、最終的には11.4兆~7.5兆円にまで下げられた。
このような例を挙げた上で、政治家の「腕力」と官僚の作った「統計」で決まってきたものが、正しい「事実」と「数字」で覆すことができる。と述べていた。
そして、このような不合理的な現象が起こる「空気」の正体として、「同調行動」をあげていた。
「アッシュの実験」を引用し、自分がAだと思っていても、Bが正しいと言う人が多ければ、なんとなくその意見に引きずられてAだと言えなくなってしまう。と指摘していた。それが日本特有のものではないと述べたうえで、このような「同調圧力」に屈しないためには、「事実」に基づいて、論理とデータで考えていくことが大切である。と述べていた。

【感想】
最近、世間を騒がせた猪瀬さんが、「空気」に関する本を書いていると知ったので、読んでみました。戦争の頃の時代の開戦の際の議論について詳しく書かれていました。

「データ」は「ある空気による決定」を固めるための道具に使われることがある。と実感しました。
「データがあるから」安心してしまうのではなくて、そのデータに漏れがないのか、懐疑的・論理的な態度を持たない限り、「空気」に流されてしまうのかな。と思いました。
実際に政治に関わっていた人が、「空気」を持ち出しているのが、不思議な感じがしました。

そして、個人的には、猪瀬さんはこんな本も書くし、東京都知事もしてたはずなのに、
最後の終わり方があっけなさすぎるので、実は何か裏があるのでは?!とか思ってます。(特に根拠はありませんが。)
とりあえず、山本七平さんと猪瀬さんの本を読んで、「空気」によって、政治が望まない方向に走っていってしまうことは、とても恐ろしい事であると思うようになりました。
今後、致命的な間違いへと導く「空気」に巻き込まれないためには、自分でいろんな情報を集めないといけないな。と思いました。

【理解・評価】
第一、第二章は、高橋さんの随筆をもとに、小説みたいに書いてあって、読みやすかったです。
しかし、第四章の現代の話が少なかったので、(政治家やし、書きにくかったのかもしれないけど)
もっと政治の裏側を知りたいな。と物足りなく思いました。