2013年12月27日金曜日

読書マラソン46/100『空気と戦争』 猪瀬直樹

読破っ!!
『空気と戦争』 猪瀬直樹(作家・東京副都知事(当時))
発行:2007年7月 文集新書
難易度:★★★
資料収集度:★★☆☆
理解度:★★★☆☆
個人的評価:★★★

ページ数:192ページ

【本のテーマ】
太平洋戦争という日本の針路決定の陰に、20代、30代の若者たちの戦いがあった。
東京工業大学の学生に向けた講義を再現。「時代に流されずに生きるとは」を説く。
(本書より引用)

【キーワード】
模擬内閣、ABCD包囲陣、人造石油、統計、空気、同調行動、
【目次】
はじめに
第一章 東條英機に怒鳴られた二十六歳の高橋中尉
第二章 三十代の模擬内閣のシミュレーション
第三章 数字が勝手に歩き出す
第四章 霞が関との戦い
おわりに

【概要】
はじめに では、戦前と戦後の連続性について述べていた。
戦前は軍国主義、戦後は平和主義、という把握による区別では、正しい歴史認識とは言えない。戦前から戦後にかけての「歴史の連続性」を感じ取ることが大切である。昭和16年から昭和20年の間が特に戦争の色合いが強かったが、その期間を除いた戦前と戦後を見ると、風俗やライフスタイルは、ほぼそのままつながる。と述べられていた。

第一章では、戦争直前の石油不足の対策から開戦までの流れが書かれていた。
ABCD包囲陣から、石油の輸出を禁止される事が予見できていたので、政府は、石油に代わる代替燃料の研究として、「人造石油」(石炭を高温・高圧で液状にしたもの)の開発を推進していた。
その研究に関わろうとしていた陸軍省の中尉・高橋中尉の話が本人の随筆をもとに述べられていた。政府は研究・開発を推進するものの、具体的な目標も掲げておらず、開発が実用化し普及する前に、ABCD包囲陣により、アメリカからの石油輸出を禁止されてしまった。そのため、インドネシアの油田を略奪する、という案が浮上し、その現状を東條英機陸相に伝えた際には、「泥棒せい、というわけだな」と言われ、「人造石油に投資してきていたのに、切羽詰まった時に役に立てません、なすべきことをおろそかにして困ったからと人に泥棒を勧めに来る。いったい日本の技術者は何をしておるのだ!」と陸相に怒鳴られたエピソードが綴られていた。

第二章では、石油のための「南進」=「開戦」をめぐって、模擬内閣の議論のエピソードが書かれていた。
南進をするか否かの判断を行うために、既存の内閣とは別に、模擬内閣を作った。民間企業からは、日本銀行、日本製鐵、三菱鉱業、日本郵船、産業組合中央金庫、同盟通信からそれぞれ一名ずつ、六名、あとは二十七名の官僚(うち五名は軍人)で構成された内閣であった。そこで議論をした結果は、南進し、油田を略奪しても、インドネシアから石油を運んでくる際に襲撃に合いやられるという「船舶消耗量」を考慮すると、石油を賄いきることはできない。という結論であった。

第三章では、開戦の際に用いられた数字「データ」について述べられていた。
東條陸相は、模擬内閣の結論に対し、「戦争では何が起こるかわから無いし、机上の空論に過ぎない」として、これを引き下げ、「口外しないように」念を押した。
そして、政府は、南進を進めた際の石油の需給バランスの試算表を作成した。
それによると、毎年年間約500万トンの石油需要に対し、17年には南進し、油田を略奪するが、搾油のために初年度はあまり供給は増えないため、前年度輸入した石油を繰り越しにして使い、18年度からは南の油田でとれた石油を使う。という計画であった。
しかし、そこには、「船舶消耗量」が考慮されておらず、その点が考慮されることがないまま、開戦してしまった。
猪瀬氏が戦後、当時中将をしていた鈴木貞一氏にインタビューをした際に、使われた「ムード」という言葉から、山本七平氏の「空気の研究」という著書の内容を思い出したと論述していた。
高橋氏の随筆の中にも、「これならなんとか戦争をやれそうだ、とみんなが納得し合うために数字を並べたようなものだった。」と述べ、実際、石油の需給量の内訳として、重油・ガソリンなどのそれぞれの量まで詰めていなかった。と述べ、後悔の念を述べていた。

第四章では、話を現代に戻し、現代の政治のなかでも、「不確実な数字」による決定がなされている。と指摘していた。
その例として、道路建設の際に重要なデータとして参考にする「交通需要推計」のデータを政府が作成した際、最初のうちは非公開であり、「著作権があるため」と述べていた。しかし、猪瀬氏の指摘により、データを公開するが「変数」の説明が不十分であるため、まだ不確実であった。そこをさらに指摘し、やっと根本的なデータを入手したところ、「免許保有率」が、実際の数値よりも高い「恣意的な」数値が用いられていた。という。そこを指摘してやっと、改善し、もともと15兆~12.6兆円と算出されていたものが、最終的には11.4兆~7.5兆円にまで下げられた。
このような例を挙げた上で、政治家の「腕力」と官僚の作った「統計」で決まってきたものが、正しい「事実」と「数字」で覆すことができる。と述べていた。
そして、このような不合理的な現象が起こる「空気」の正体として、「同調行動」をあげていた。
「アッシュの実験」を引用し、自分がAだと思っていても、Bが正しいと言う人が多ければ、なんとなくその意見に引きずられてAだと言えなくなってしまう。と指摘していた。それが日本特有のものではないと述べたうえで、このような「同調圧力」に屈しないためには、「事実」に基づいて、論理とデータで考えていくことが大切である。と述べていた。

【感想】
最近、世間を騒がせた猪瀬さんが、「空気」に関する本を書いていると知ったので、読んでみました。戦争の頃の時代の開戦の際の議論について詳しく書かれていました。

「データ」は「ある空気による決定」を固めるための道具に使われることがある。と実感しました。
「データがあるから」安心してしまうのではなくて、そのデータに漏れがないのか、懐疑的・論理的な態度を持たない限り、「空気」に流されてしまうのかな。と思いました。
実際に政治に関わっていた人が、「空気」を持ち出しているのが、不思議な感じがしました。

そして、個人的には、猪瀬さんはこんな本も書くし、東京都知事もしてたはずなのに、
最後の終わり方があっけなさすぎるので、実は何か裏があるのでは?!とか思ってます。(特に根拠はありませんが。)
とりあえず、山本七平さんと猪瀬さんの本を読んで、「空気」によって、政治が望まない方向に走っていってしまうことは、とても恐ろしい事であると思うようになりました。
今後、致命的な間違いへと導く「空気」に巻き込まれないためには、自分でいろんな情報を集めないといけないな。と思いました。

【理解・評価】
第一、第二章は、高橋さんの随筆をもとに、小説みたいに書いてあって、読みやすかったです。
しかし、第四章の現代の話が少なかったので、(政治家やし、書きにくかったのかもしれないけど)
もっと政治の裏側を知りたいな。と物足りなく思いました。

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