『これからの日本のために「シェア」の話をしよう』 三浦展(消費社会研究家)
発行:2011年2月 NHK出版
難易度:★★★☆☆
資料収集度:★★★★☆
理解度:★★★★☆
個人的評価:★★★★☆
ページ数:237ページ
【本のテーマ】(表紙裏より抜粋)
いま、消費や経済自体がシェア型になり始めている。かつそれが、消費や経済を縮小させるのではなく、むしろ新たな方向に拡大する力を持ち始めている。本書は、これからの日本社会にとって有効なシェア型の価値観や行動、そしてすでに拡大し始めたシェア型の消費やビジネスの最新事情についてのレポートである。
【目次】
はじめに
序章 シェアとは何か
第一章 なぜ今日本に、シェア型の価値観、行動が必要なのか?
第二章 すでに広がっているシェア型の消費ビジネス
第三章 シェア型ビジネスによるコミュニティの活性化
対談 企業もシェア社会の台頭に対応しないといけない(平生進一氏×三浦展)
第四章 シェア型経済をリードするのはどんな人か?
対談 建築家は都市のシェアをリードしてきた(馬場正尊氏×三浦展)
第五章 無縁社会からシェア社会へ
対談 福祉もシェアへ
あとがき
文献リスト
【概要】
序章 シェアとは何か
シェア型の消費とは、消費者が消費する対象を「仕分け」し、本当に必要なものはもちろん購入し、私有するが、あまり必要のないものは共有や共同利用ですます。あるいはレンタルしたり、中古で買ったりしてすます。そしてそれを積極的に楽しむ。そういう消費行動である。
これまで、共有・共同というと、「公」的な存在だと捉えられてきたが、近年「民」による共有・共同が広まりつつある。そこで、そのような「民」による共有・共同をも含めて「シェア」と定義する。私有主義的な価値観から「シェア的な」価値観へと徐々に移行しているのが現状である。
第一章 なぜ今日本に、シェア型の価値観、行動が必要なのか?
シェア型の価値観・行動の最大の原因は「超高齢社会」の到来である。経済発展により所有化・個別化が進んできたが、今後は少子高齢化により、支え合って生きていかなければならない、という意識の高まりから、「所有からシェア」へと意識が変わりつつある。正確には、「haveからbeになり、そしてshare」へと変遷している。(80年代までは消費社会90年代は「自分探し」社会、2010年からは「つながり」社会)
第二章 すでに広がっているシェア型の消費ビジネス
シェアする者はおもに「人・物・場所」の3種類。人のシェアの代表例は「ワークシェアリング」、モノの代表例は「カーシェアリング」、場所の代表例は「シェアハウス」いずれも、公的ではない、「民」による「共有・共同」をビジネスとして行い、それが受け入れられ、広まっている。ということをデータを示して述べていた。
第三章 シェア型ビジネスによるコミュニティの活性化
シェアハウスを例にとって、それをする理由は「お金がない」からではなく、「ゆるいつながりを得られる」からであるという理由が多かった。その価値観を理解するために、「共同体」から「共異体」への変化があげあれ、「共同体」が成員が固定しており、束縛され、空間的に限定され、時間的に永続的であり、共同体同士が排除し合い、競争する。というイメージを持っているのに対し、「共異体」は、成員が固定的ではなく、束縛されず、空間的にも束縛されず、時間的に限定的、共異体同士で排除し合わず、競争しない。という特徴があると述べていた。この価値観に基づく「シェア的消費」は、個人で消費するよりも質の良いものを共同で利用することができ、ゆるいつながりを得ることができるなどのメリットがあり、大家からしても、使わなかった高すぎる・広すぎる空き物件をシェアハウスで利用することで貸し出すことができる。というWIN-WINの関係が築けると述べていた。
対談 企業もシェア社会の台頭に対応しないといけない(平生進一氏×三浦展)
女性が結婚相手に求める以前の三高(高学歴・高身長・高収入)から三低(低リスク・低姿勢・低依存)へと変化したのと同様に、消費の対象も三高(高層・高圧的・高尚)から三低(低層・低姿勢・低コスト)へと変化、もしくは価値観を混ぜ合わせた消費を行っている。
第四章 シェア型経済をリードするのはどんな人か?
著者の会社、カルチャースタディーズの調査から、シェアハウスをしたい人の特徴を分析していた。その結果、シェアハウスをしたい人は、必ずしも低所得者とは限らず、シェアハウスをしたくない人と比べると環境問題への意識が高く、レンタルやシェアや中古の使用に抵抗を感じにくく、また、多趣味であり、いろいろな人と関わりたいという意識を持ったアクティブな性格であることがわかった。
対談 建築家は都市のシェアをリードしてきた(馬場正尊氏×三浦展)
リノベーションという、リフォームよりもより個人の趣味・要望に合わせた改築について語られていた。
第五章 無縁社会からシェア社会へ
フランス・パリでは、高齢化社会に対応するため、独居老人の部屋に、若者が住み込むという方法が行われた。と紹介していた。パリの若者は日本以上に失業率が高いため、共同生活で家賃を払わないで済むのはメリットであり、独居老人にとってもそばに誰かがいてくれるのは安心である。と述べられていた。日本でも「高齢者の『ケア』をシェアする」という考えを取り入れた事例があり、東京都光が丘の「御用聞き100円家事代行」が例として紹介されていた。
対談 福祉もシェアへ
「ケアをシェアする」という考えは、精神や制度だけではなく、建築、都市レベルで行わなければ実行することができない。と述べられていた。
【感想】
新しかった!!確かに、「シェア」という言葉は近年どんどん広まってきていると思います。
一見すると、共産主義的?社会主義的?なのではないか、という印象を受けますが、
本書の中にもあったように、「資本主義と社会主義を融合」したものである、というのが一番的確な表現であると感じました。「公的」ではなく、「民間」がおこなう共有・共同の消費スタイル。それは、一極集中から多極集中への意向であり、近年同時に高まっている「地元志向」ともつながりが深いということを理解しました。
しかし、この本では、「シェア」的消費の「問題点」があまり描かれていませんでした。
確かに、「シェア」的消費は、合理的であり、場合によっては個人で買うよりも良いものを共同で使うことができたり、高級な家に住むことができます。しかし、家族間でも暴力事件や金銭トラブルが存在しているのに、他人となると、人によってはトラブルが生じることがあると思います。ルームシェアであれば、ルールを破る人がいるかもしれないし、最悪家の物を盗まれるかもしれないし、あとは、相談事などを気軽にして、アドバイスが全く当て外れなものであったり、、、つまり、「誰と」共有するかということが重要になってくると思います。
それが、共産主義といわれる中国でも同様に「人脈社会」と言われているゆえんであり、特徴なのだと思います「シェア社会」が到来するとなると、そこには「誰と」シェアするのか、「誰と」つながることができるのか、という部分が「私有社会」の頃よりもより重要になってくると思います。
フランスのパリの「高齢者のケア」の事例だって、一歩間違えると、高齢者を騙してお金を騙し取る事件になりかねません。得られるものも多いですが、その分リスクも多いことを理解しておくべきだと思います。
今消費世代の中心は団塊世代、団塊ジュニア世代ですが、今後消費世代がより新しい世代に移っていくと、この「シェア消費」という概念はより一層強く表れ、重視されるのではないかと考えました。
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