『拝金社会主義 中国』 遠藤誉
(中国生まれの理学博士、中国社会科学院社会学研究所教授)
発行:2010年2月 ちくま新書
難易度:★★★☆☆
資料収集度:★★★☆☆
理解度:★★★☆☆
個人的評価:★★★★☆
ページ数:248ページ

【本のテーマ】
共産党による社会主義政治、は政府の提唱した「先冨論」により、形を変え始めている。
中国社会で何が起こっているのか、富裕層から低所得層まで広い視野をもとに考察する。
【キーワード】
先富論、「特色ある社会主義」へ、房奴、车奴、独生子女制度(一人っ子政策)、剩女、隐婚族、
二一一工程、家电下乡、江沢民「3つの代表」、胡錦濤「和谐社会」、「国富民弱」、
农村包围城市、 以诚带乡、以工促农、共富、未富先老、非转农
【目次】
まえがき
第一章 改革開放で何が変わったか
第二章 「向钱看」行進曲に合わせて踊っていたら
第三章 結婚できない「デキル女」たち
第四章 銭に向かって進んだ結果の就職難
第五章 「先富」から「共富」への苦闘
おわりに
【概要】
第一章 改革開放で何が変わったか
改革開放とは、1978年12月鄧小平が中国共産党第十一期中央委員会第三回全体会議において
「党の政策の重点を(政治闘争から)経済建設にうつす」という国内体制【改革】と、対外開放を見据えた【開放】政策を打ち出したところから始まる。それまで国家統制的な計画経済から、「先冨論」(富める者から先に富め)という号令を出した。それまで「個人の金儲けは悪」という考えがあり、政府の号令も信用しきれず、最初はためらいながらも自由経済に向けて進みだした。1977年には「高考(全国高等学校統一考試)」を再開させる。大学生の急増→就職難の問題が顕著化。大学が法人化し、「校弁企業(学校から生まれた企業)」が増えた。経済の自由化により貧富の差が生まれ、家や家電製品を買い始める人が増えた。
第二章 「向钱看」行進曲に合わせて踊っていたら
1994年の「国発四三号(住房制度改革)」により、国家の土地の所有権は残るが、家やマンションを個人が公式に買えるようになった。車に関しても「東北大振興」とう国家プロジェクトで予算を投じ、2009年には世界一の自動車市場になった。房奴・车奴(家や車のローンを返すので必死な人々のこと)が現れ始める。
1979年「独生子女制度(一人っ子政策)」を実施。始めのうちは、病院で女の子の堕胎や孤児院に送られる女の子が増えたり、黑孩子(戸籍のない子供)が問題になった。一人っ子政策実施後に生まれた「80后」は、親と両祖父母の計6人から可愛がられ、「小皇帝(女の子なら小皇后)」と揶揄される。白领(ホワイトカラー)、金领(ゴールドカラー・出世株)、蓝领(ブルーカラー)、无领(解雇された者)などに分類されるようになる。月光族(給料を使い切ってしまう人々)、啃老族(親のすねをかじる人々)などの言葉も広まる。
CNNIC(中国互联网情报中心)によると、2009年には网民(ネット民)が3.38億人おり、そのうち、90后が33.0%、80后が29.8%、つまり合計62.8%が一人っ子世代のネット民である。五毛党(五毛の金で政府に有利な意見を書かせる)が世論形成しようとし始める一方で、「超级女声(勝ち抜き歌合戦)」や、日本のアニメなどが流行り、民衆の力が強くなり始める。(そのため「超级女声」は打ち切りとなる。)
第三章 結婚できない「デキル女」たち
毛沢東時代は恋愛は禁止で、国に許可を貰えないと結婚できなかったが、改革開放後は自由恋愛となった。そして、「剩女」(=大龄白领未婚女士、そこそこの年齢だけれども結婚していない女性)が問題化する。男性は自分より学歴を始めとする総合的能力が自分より劣る女性と結婚したがるため、「デキル女性(A女)」が残るようになる。それを心配した親が、公園で子供の情報を書いた段ボール製の看板を持ち、親同士でお見合いをする現象が広まる。もともとは、中国では老人たちが公園で太極拳やダンスをする習慣があり、その活動後の雑談から生まれた。そこに目をつけ、仲介業者をするもの(詐欺も含め)が見られるようになる。また、ネットで見合いサイトが立ち上げられ、合同お見合い会が開催される。それでも結婚できない人がいるため、全国人民代表大会の代表(日本の国会議員に相当)「姐弟恋」を推奨した。と話題になった。一方で、結婚していることが仕事に不利になるとして、結婚していることを隠す「隐婚族」も登場し始める。その二つの現象に加え、「婚外情=浮気」などの性のモラルの低下などは、自由経済を進めたことによる「性が商品化」されている現象である。と述べていた。また、一人っ子政策により生まれた女の子の孤児は、1992年「中华人民共和外国收养法」の実施により、人に養子として引き取られるようになる。2005年までに累計5万人が養子として引き取られている。(引き取り先は8割方アメリカ)
第四章 銭に向かって進んだ結果の就職難
2009年卒業総数611万人。68%が就職(前年73%)就職できなかった人が195万人いた。
原因①市場のニーズがおいついていない②「二一一工程(国家予算を投入する大学の絞り込み)」による大学規模拡大ラッシュでさらに学生が増えた。③国際分業的に中国は「世界の工場」であり、ホワイトカラーの求人が少ない。
就職難の影響を受け、大学や大学院を卒業しても農村から出稼ぎに来た人たち向けの仕事をしたり、大学受験をせず、海外に留学する人が増えてきている。また、農村の公務員になったり、軍隊に入ったりする大学生が増え、「蟻族(一定区間に集まって群居する低収入層の大卒生)」という言葉がうまれる。
第五章 「先富」から「共富」への苦闘
「共産主義」とは、「生”産”手段」を「”共”有」する。という意味であったのに、「先富論」の号令で自由経済が広まったことにより、「特色のある」社会主義国家となった。1980年代に地区組織である「人民公社」を解体し私営企業が生まれたことで、搾取階級が生まれた。政府も「党政分離」「政企分離」を推奨していた。しかし、1989年の天安門事件以降は、党の権力を強化するために、政府の方針を再び「党政一体化、政企一体化」へと戻した。
江沢民は「三つの代表」として:共産党は、①中国の先進的な生産力のニーズ、②中国の先進的文化が前進する方向および、③中国の最も幅広い人民の根本的利益、を常に代表する。と述べ、この宣言により、資本家を共産党に取り入れている、ということをアピールした。それに対して胡錦濤は「和谐社会」 を提唱し、格差是正を目指していた。
世界銀行の2006年の調査によると、中国の全人口の0.4%が中国の富の70%を保有している。(アメリカでも5%が60%を保有)この現状を「国富民弱」と指摘する人が現れる。「农村包围城市」という歌が昔流行ったように、都市と農村の間の格差が激しい。その現状を受け、「先富」の人たちが「以诚带乡」「以工促农」といった概念で農村に恩返しをする。という動きがある。しかし、豊かになる前に老いてしまった人「未富先老」豊かになる前に諦めてしまった人「未富先懒」という言葉も生まれる。
具体的に「家电下乡」(家電製品を農民戸籍の人に対して割引して売る)という政策を行い、農村における電化製品保有率を上昇させた。その他にも農民戸籍の者に対していくつかの優遇策を行った。そのため、非農民戸籍(都市戸籍)から農民戸籍へと逆流する現象がおこっている。(農民戸籍から都市戸籍にうつる方法は、都市の大学に入るしか方法はない)
【感想】
内容が濃い本でした。僕が留学に行っていた2011年に中国人の友達から聞いた話がいくつか乗っていたので、2010年時点での中国社会が詳しく描かれているんだと感じました。
全体を読んだ印象として、「先冨論」の号令で一見、資本主義体制になったかのように見えるけれど、
「家電下乡」政策とかで、取り残されている農村に対して対策をとっているところは、「社会主義」的役割を果たそうとしているんだな。と思いました。
結局は、社会主義とか、資本主義とかよりも、そこに住む国民が幸せに暮らせるかどうかが大切だ。
と著者が言っていたのは、本当にその通りだと思いました。結局資本主義でも、恵まれない国民を救う政策をとろうとするし、社会主義でも、ネット上では民主主義が広まっていたりするし。お互いがお互いの性質をいくらか持っていて、
完全なる「社会主義」「資本主義」っていうものではないのだと思いました。
特に中国は人が多いから、日本と同じ感覚で政治を語るのも違うんじゃないかな。と思います。
今後、どうなっていくのか気になります。
【評価・理解度】
改革開放に焦点を当てた本でしたので、文化大革命のことや、国民党と共産党の対立についての話がまだあまり分からなかったので、今後少しずつ理解を深めたいと思います。
このコメントは投稿者によって削除されました。
返信削除面白そうな本やなぁ!!!^^
返信削除確かに、自分たちの価値観でモノを言ってしまうことが多い気がする。
たとえば、経済的に貧しい国で過ごしている人に対して、日本人の感覚で「かわいそう」って思いがちかもしれない。
でも、本当は家族と一緒に協力して農業して、充実してたら、彼らだって幸せと感じていると思う。
その逆も、また然りで、おれらはおれらの環境で精いっぱい自信を持ってやればいいと思うんやけどな!
今の中国の政治について、関学のとある講義で、先生が、今の中国の政治制度は、清朝以前の歴代王朝制度を基本的に踏襲してると言っていた。単純に資本主義・社会主義等といった字面だけの浅い面で観てはいけへんよな。
人の人生と同じように、国も様々な変遷をへて今の形になってる。
国は一つずつ、確実に違う歴史を持っているけども、その中でお互いに被る面や、似ている側面もかならずある。
つまり、それぞれの国がいかにして今の形に行きついたのか、そこを勉強すれば、日本の歴史との交差点を見出すことだってできる。
だから、いろいろな国の様々な背景を知ることは大事やし、それに関しては、本当に無限の世界が広がっていると思います!!!
書き込みに今気づきました!!(遅っ!)
削除ありがとうございます!!
その通りで、歴史とか現地の人の視野を通さずに、語ってしまうのは良くないと思う!
かといって、「違う」と割り切ってしまうのではなく、
似てる面と違う面の両方を意識しながら理解していくことが大切やと思う!