2013年10月26日土曜日

読書マラソン32/100『気の力~場の空気を読む・流れを変える~』 斎藤孝


読破っ!!
『気の力~場の空気を読む・流れを変える~』斎藤孝(明治大学文学部教授)


発行:2007年7月 文芸春秋社
難易度:★☆☆☆☆
資料収集度:★★★☆☆
理解度:★★★☆☆
個人的評価:★★★★☆
ページ数:222ページ
 


【本のテーマ】
日本では「気を配れる」人が「頭の良い人」として捉えられる。そして「気のセンス」がある人が、場の空気を読み、流れを変えることができる。そもそも「気」とはどのようなものであるのか?
身体論、空間論から述べ、「気のセンス」を養うにはどのような方法があるのか。について、
教育学的、身体学的な視点をもとに述べていた。
 
【キーワード】
気のセンス、場の空気を読む、空間認知力、文脈察知力、場の流れを変える、柔の精神、
風景の二重化、ポジション・チェンジ、気質、積極的受動態
 
【目次】
はじめに 
第1章 場の空気を読む・流れを変える
(Ⅰ)なぜ気のセンスなのか
(Ⅱ)場の空気を読む
(Ⅲ)場の流れを変える
第2章 「気」の理解を深める
(Ⅳ)気質を読み解く
(Ⅴ)からだの「気」を揺さぶる声
(Ⅵ)日本語と「気」の文化
終章 「気」と息の文化
 
【概要】
第一章 場の空気を読む、流れを変える
Ⅰ.なぜ気のセンスなのか
気を使えない人はそのことを教えてもらえないし、そのまま黙って排除されてしまうのが日本文化。
空気を読むとは、「兆し」をとらえる力であり、冷えたエリアに「目をかけ、声をかけ」ることで、暗い雰囲気が消え場が熱を持ってくる。行動は興味が起こって気が集まって始めて行動になる。自分の気の流れをつかみ、その時の気に合わせて行動を変えることで、効率性をより高めることができる。
「気」の定義とは、身体から発せられているエネルギーである。それが混じり合って「場の空気」というものが作り出される。自分の内側に流れているものだけではなく、外側の人との間を流れているものである。
「気のセンス」とは、①場の空気の感知力②場の流れを変える力、の二つの要素からなる。
受動と能動が混じり合うダイナミクスが気の文化の根底にある

Ⅱ.場の空気を読む
①空間感知力と②文脈力の二つの力が必要である。①については、身体的な気=気配として、
幼い頃から、かごめかごめ、ハンカチ落とし、だるまさんがころんだなど「背中」で「気」を感じることを「遊び」として「気のセンス」を試し合い遊んでいた。
「気のセンス」を高める遊び→手を繋いで円を作り回る。内側を向いてだと円は崩れないが、外側を向いてだとすぐ崩れる。→円の中心を意識しながらだとうまく行く。背中で気を感じる練習。
言葉を発する前の気を感じ取る「空間感知力」と、前後の文脈をくみとって、どう動くべきか勘を働かせる「文脈力」によって、場を的確に読んで行動することができる。
「呼吸」に「気」が顕著に現れている。相手の感情を逆撫でするような態度、言葉遣い、発言をしないことが大切であり、また、「気」の流れの出処と行き先を感じ取ることが大切である。例)原体験は何だろう?何を言いたいのか、何と戦いたいのか?

Ⅲ.場の流れを変える
場の流れを変える方法として①沿いつつずらす②次元を変えるの二つの方法がある。
①「沿いつつずらす」とは「柔」やわらの精神=相手の動きに同調し、流れに沿いつつ、相手の勢いを利用する。すると、最小限の力で相手を倒すことができる。相手の感情や文脈的な流れに沿いつつずらすと、展開がスムーズに行くことが多い。具体的には、1.相手のテンションに同調する、2.話がずれたら分岐点まで戻って整理する3.文脈を切り離して目的に飛ぶ4.場所を変えて場の流れを変えるなどの方法があげられる。
②「次元を変える」とは、風景の二重化、ホジションチェンジ=能動と受動を反転させ、立体的な意識を持つ。そのことにより、複数の視点から受容し合う中でアウフヘーベン(止揚)していく。
例)先生と生徒、観客とパフォーマー。それぞれ、どちらの視点も意識することで、より生産性を高められる。

第二章 気の理解を深める
Ⅳ.気質を読み解く
相手の気質を理解して、相手にあったコミュニケーションをとる。
四元素で人の気質を表現する→地水火風 日本人は水の要素が強い。
「気質」も周りの「気」が流れることで変化して行く。

Ⅴ.身体の気を揺さぶる声
声は自分と相手の「あいだ」にあって、気の流れにダイレクトに作用する。臍下丹田を意識し、背筋を伸ばす、上半身は柔らかく、下半身はしっかり安定させる。身体の経験知の絶対量を増やして行くことが豊かな気のセンスの土台になる。

Ⅵ.日本語と気の文化
日本語の言葉の音による印象、気に与える影響について述べていた。
「お風呂が入りました」など、主語と目的語を隠すことで相手に負担を感じさせないようにしている。
気のセンスとは、関係性(立場など)の理解力でもある。気はもともと中国から伝来したものであるが、「人と人のあいだの感情の機微」を表現するようになったのは江戸時代である。
気は目に見えないが、身体ではっきり感じることができる。気をめぐる感性の細やかさこそ文化性であり、微妙な違いを感じわけられることは、文化の高さのバロメーターだ。

終章 気と息の文化
東洋では身体は閉じられた個別のものではなく、外の世界と繋がって互いに影響し合う開放系として認識されている。西洋では身体は確固たる個体として閉じているという捉え方が主流である。
積極的受動態・・・「自ら〜している。」のではなく、「〜させられている。という感覚。」
自意識から開放され、内と外が混じり合うような感覚になってくる。

受動と能動が反転し、ダイナミックにポジションチェンジしていく。それが気の文化の根底にある運動性。流れ続け、相反するものが混じり合い、交代する中で躍動感が生まれる。
太極図(陰陽図)はそれを絵で現している。

【感想】
NHK「にほんごであそぼ」の監修、「声に出して読みたい日本語」シリーズの著者でもある、斎藤先生の本ということで読みました。先生が身体を用いた子供教育をテーマにされているだけあって、
「気」を身体と絡めて理解されているのが伝わってきました。「気」を理解する際に、「神秘的に語ったり、非科学的に語ってはならない。そうでないと、カルト宗教のようなものになってしまいがちである。」と自身でもおっしゃられていましたが、やはり「気とは人のエネルギーである。」と書いてあると、非科学的だなぁ。と少し思ってしまいました。

より科学的に、先生の意見をまとめると、「気」とは、①他者の細かな息遣いや声のトーンなどの音声情報から読み取られる他者の感情②他者の細かな表情の変化や所作・仕草などの視覚的情報から読み取られる感情③「気質」=それまでに共有した時間内で理解した、その人の性格や周りの人との関係性などの情報をもとに、特定の状況において想像されるその人の感情。の3つに分けられると思います。つまり、相手の①音声②視覚③経験から得られる細かな情報から、相手が実際に言葉を発したり、行動に移す前に相手の気持ちや要求を理解する。それが「気を遣える」人なのだと思いました。そして、「気」とはそのように、言葉になる前の個人の感情が無意識的に表情や声によって外界に向けて表れるものであり、それが集積されたものが「場の空気」になるのだと思います。なので、「場の空気を読む」とは、複数の各人の「気」=微妙な変化に気を配り、全体としての感情を理解すること。であると理解しました。「空気」が「気」の集合体であるならば、「空気を読む」ためにはまず「気を読む」ことが大切であるとも理解しました。
場の流れを変える方法の二つも、とても納得できましたし、今後も意識してやっていきたいです。

昔から日本人は「背中」で「気」を感じる遊びをしていた。という論説は大変衝撃的で、説得力がありました。また、「積極的受動態」という言葉に関しても、「いま わたしを生かされている」みたいなスローガンをお寺で見たことがあって、その時は意味がわからなかったのですが、著者の話を読んで、行動を意識すると、自意識が強くなり、不自然になったり、他者とぶつかってしまうことがあるため、あえて「行動」を意識せずに、向かうべき方向だけ意識し、あとは自分と他者がうまく融合できる場所を探し、積極的に受動的に行動できるところを探すことにより、意識せずに無我の状態で自然に相手の要求を満たした状態で行動できるのかな。という風に理解しました。

柔の精神も大変勉強になりました。相手の力にたいして、こちらも力でぶつかるのではなく、
相手の力を利用して、うまく相手を倒す。「柔能く剛を制す」という「三略」の言葉も深いと思い、
自分の目指す生き方だと思いました。

あと、「気質」という言葉は、「キャラ」という風にも置き換えられると感じ、「気」と「キャラ」も繋がっているのか。と再認識させられました。

【評価・理解度】
身体論のところでは、やや神秘的な論説があるように感じました。しかし、「気」の概念を理解するにはとても分かりやすく、「空気」についても触れられていて、大変勉強になる本でした。

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