読破っ!!
『中国の心理と行動』園田茂人(東京大学教授)
発行:2001年2月
難易度:★★★★☆
資料収集度:★★★★☆
『中国の心理と行動』園田茂人(東京大学教授)
発行:2001年2月
難易度:★★★★☆
資料収集度:★★★★☆
理解度:★★★☆☆
個人的評価:★★★★★
ページ数:227ページ個人的評価:★★★★★
【本のテーマ】
自己中心的であるが同時に状況依存的であるという矛盾した性質を持つ中国人の行動文法を「面子」「関係」「人情」という3つのキーワードから考察する。
自己中心的であるが同時に状況依存的であるという矛盾した性質を持つ中国人の行動文法を「面子」「関係」「人情」という3つのキーワードから考察する。
【キーワード】
行動文法、面子、自尊心、自己主張、中間人、顔を立てる、関係、社会的交換、找关系、拉关系、相互依存ネットワーク、関係学、人情、回報、トンイズム(同イズム)
【目次】
はじめに
第一章 中国人の行動を理解する
第二章 面子
第三章 関係
第四章 人情
第五章 関係主義社会としての中国――過去、現在、そして未来
あとがき
【概要】
第一章では、日中お互いが理解しあえていないエピソードを述べたいた。
日本に十分な中国論がない理由として①情報の不足②日本の中国への関心が歴史などの「過去の遺産」もしくはビジネスなどの「現在の実利」に関するものの二極文化により、文化や社会が研究されない③中国研究が細分化したことにより、全体を論じる研究が少ない。という点を指摘していた。
中国人の行動を把握する方法として、①多くの資料から行動の原因を分析、推測する②中国人自身が中国人の行動をどのように意味付けているかに着目する。という方法をあげていた。
第二章では、「面子」について、多角的に述べていた。
アンケート調査の結果から中国人は日本人より自尊心、自己評価が高いと述べられており、そのことにより自信過剰な問題を引き起こしたり、自己主張の反面責任は引き受けない、などの側面もあるが、逆に他者の自尊心も尊重(顔を立てる)ことにとても敏感である。と述べられていた。トラブルを回避するためのキーワードとして、「中間人」という概念をあげていた。中間人が双方の自己主張に折り合いをつけることでトラブルを回避できると述べていた。また、日中の面子観の違いとして、①中国の面子は「個人の能力評価」と強く関連しているのに対し、②日本の面子は「社会的な立場に見合う処遇」と強く関連している③中国人は謝らず主張することで面子を保つが、日本人は謝ったり、利害を主張しないことで面子を保つ。の三点を指摘していた。
第三章では、「関係」について多角的に述べていた。
贈り物や好意、食事のやり取りにより個人的な結びつきや相互依存ネットワークを育みながら、持ちつ持たれつの関係を生み出すこと。=找关系
様々な場面でこの関係を利用したやりとりが行われている。それは中国に限らず、アジアに広く見られる関係重視の集団主義であり、西洋の個人主義と対置される。しかし、日中それぞれにも違いがあり、著者によると①関係を利用して流れる資源の量が日本に比べて圧倒的に多い②個人間の関係は物質的な基盤(食事や贈り物)によって支えられている③関係を持つ者の間に相対的に強い親密感が生じている。という点が日中で異なると指摘していた。これらの違いが生じる要因として、中国は昔から日本よりも流動性や異質性が強く、「関係」のない世界では、互いに騙されるかもしれないという不安を抱えている、という背景がある。と述べられていた。また、関係の拡がり(公私の意識)に着目しても日中に違いがある。と述べていた。日本では公と私が空間的に裁断され、私の公への関与は基本的に認められていない。これに対して中国では公は私の集合体であって、私による公への関与が認められている。と述べていた。つまり中国では、私と私は関係によってむすびつけられて公を形成するが、私はそれぞれに面子を重視している。そのため中国人の行動は、時に自己中心的に見え、時に他者指向的に見える。と述べていた。そして、中国人自身は関係について、①関係の利用に後ろめたさを感じており、できれば利用しない方がよいと感じている②自分が関係を利用することには寛大で、自分と関係をもたない人間が関係を利用するのを批判しがち③誰と関係を持つかによって、その資源動力は異なるため、人々は関係の拡がりに強い関心を抱いている。と述べていた。
第四章では、人情について多角的に述べていた。
人情は、面子と関係を結びつける役割を果たす。人情の定義として①人間の基本的な感情②社会的交換が行われる際に用いられる一種の資源③個人と、その関係ネットワークの中にいる他者とが互いに遵守することが期待されている社会規範。の3つが述べられていた。著者による定義によると、自己からの距離(親疎の度合い)によって他者を位置づけ、その距離に応じてみずからの行為を決定しようとする心理的メカニズム。である。そこで、親と疎を分けるものとして、姓(血縁)・故郷(地縁)が、代表としてあげられる。
また、中国人は親疎の段階として、自己人、外人、熟人に分ける。自己人は自他の区別がはっきりしておらず、集合的な面子を共有している状態にある。结拜兄弟(義兄弟の契りを結ぶこと)により、自己人的関係となる。外人には、互いに強調しあおうとせず、したとしても、手段的・道具的で感情的な一体感はない。熟人は、自己人と外人の間の「知り合い」存在感であり、今後自己人になるのか、外人になるのか、找关系(社会的交換)にどう応えるか、その判断が人情のジレンマとなる。相手に与えた資源が後になって相手から返って来ること、あるいはそう期待することを回報というが、回報にみられる中国的の特徴として、①手段的・道具的な意志だけでなく、感情や倫理が大きく関与する②報復や報仇など、負の互恵性も含む広い概念である③相手によって具体的な行為が異なり、やり取りする主体が個人だけでなく集団も含まれる。と述べ、また、親疎の度合いは流動的なものである。とも述べていた。また、行動文法としての「関係主義」について、家人とは「情緒的」関係、熟人とは「中間的」関係、外人とは「道具的」関係になる。と述べていた。
関係主義の概念のまとめとして、まず、中国人は小さい頃から自尊心を強く持つように育てられ、自己肯定的な感情が強く、その結果、自己中心的であるが状況依存的である基本特性が生まれる。そして、面子を媒介に関係のネットワークを広げる。「関係」は、「親」の感情を抱きやすい親族などに対して強烈な相互扶助関係が前提とされ、そうでない人に対しては、道具的・手段的関係が生じやすい。また、親疎の感情は流動的であり、それによって関係も変化する。
第五章では、関係主義が定着したその背景について述べていた。
関係をもつ者同士が互いの面子を立て合うべきだとする人情によって成立する関係主義は、平等指向と差異化指向を同時に内包している。そこに見られるのは、強い支配―従属関係を持つ親子関係と、強い平等指向をもつ兄弟関係の併存という中国の家族・親族構造と同じ理論である。と述べられていた。また、血縁関係に限らず、同郷、同窓、同業など共通点から疑似血縁関係のような結びつきを強めることを「トンイズム(同イズム)」と呼び、中国社会で普遍的に見られる現象であると述べられていた。
【評価・理解度】
中国文化を理解するのに、必須の一冊だと思いました。
一回読んだだけではまだ理解しきれていないので、何度も読み返したいです。
「面子・関係・人情」の三つのキーワードは、僕の知り合いの中国人お墨付きのキーワードです。この本が書かれた年代は少し古いですが、十分今に通じるところが多いと思います。
中国の人間関係の構成・維持・発展を体系的に分析することができる本でした。
また、この本を読むと、日本の人間関係はどうなんだろう?と考えました。
中国は日本よりも土地が広く、流動的で文化の衝突の歴史も多く、そのような背景により生まれた人間関係学があると思いました。今後よりグローバル化して、流動化する社会で、中国の人間関係学は、日本人にとっても学ぶところが多いと思います。
面子が自己尊厳と深く関わっている点やお互いを尊重し合う点がある点などを考えると、悪い面だけではないと考えました。
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