2013年9月8日日曜日

読書マラソン 20/100 『日本の自殺』 グループ一九八四年

読破っ!!
『日本の自殺』グループ一九八四年(専門学者集団)
発行:2012年5月(初出)1984年5月
難易度:★★★☆☆
ページ数:197ページ
 
【本のテーマ】
かつて繁栄したローマ帝国がその豊かさにより内側から崩壊(=自殺)していった様子は、今の日本と通じる点が多々存在している。ローマ帝国の没落から、国家や文明の没落について考察し、そこから教訓を見出すとともに、日本の将来に警鐘を鳴らす。

【キーワード】
文明の没落、パンとサーカス、シビル・ミニマム、大衆社会化状況、豊かさの代償、便利さの代償、情報化の代償、幼稚化、野蛮化、疑似民主主義、悪平等主義
 
 
【目次】
はじめに
第一章 衰退のムード
第二章 巨大化した世界国家”日本”
第三章 カタストロフの可能性
第四章 豊かさの代償
第五章 幼稚化と野蛮化のメカニズム
第六章 情報汚染の拡大
第七章 自殺のイデオロギー
エピローグ 歴史の教訓
補論 ローマの没落に関する技術史的考察
 
(解説)
「グループ一九八四年」との出会い 田中健五(元『文芸春秋』編集長)
「グループ一九八四年」の執筆者 大野敏明(産経新聞編集委員)
「日本の自殺」その後 中野剛志(京都大学大学院准教授)
「自殺」か、「自然死」か 福田和也(文芸評論家)
二一世紀の「パンとサーカス」に抗して 山内昌之(明治大学特任教授)

【概要】
はじめに、ではこれまでに21の文明が発展し、一部が没落し消滅していったと述べ、そこから「国家や文明の没落」に焦点をあて、日本の現状に警鐘を鳴らしたい。と述べていた。
 
第一章では、ローマ帝国がいかに滅亡したかを述べていた。
文明が消滅するその特徴として、外的要因が決定的な原因ではなく、その前に社会の内部から崩壊し、「自己決定能力」を失っていることが大きな原因であると述べていた。
具体的な理由として①繁栄の謳歌による欲望の肥大化②人口の集中的流入による「大衆社会化状況」(無秩序な大衆の集積地)③無産者の救済と保障(シビル・ミニマム)の要求「パンとサーカス」④経済インフレーションからスタグフレーションへの変化⑤エゴの氾濫と悪平等主義、の5つをあげていた。
 
第二章では、日本が「世界国家」として繁栄をしてきており、その繁栄がストップしている現状を述べていた。
高度経済成長を経て、GDPや賃金水準などの観点からも世界的におおきな飛躍を遂げた。
しかし、1974年にゼロ成長状態に陥っており、そこから先はマイナス成長への危険性が潜んでいる。
 
第三章では、今後日本でおこると予想される大きな変化(カタストロフ)について述べていた。
①資源やエネルギーの厳しい制約②環境コストの急上昇③労働力需給のひっ迫と賃金コストの上昇(賃金と物価の悪循環)の3つの危機の本質的な性格は経済的なものであるというより、社会的、心理的、文化的、政治的な文明論的性格を帯びている。つまり、現代版「パンとサーカス」が大きな原因の一つである。と述べていた。
 
第四章では、ローマ崩壊のプロセスと日本の現状を重ねて述べていた。
世界国家の繁栄→豊かさの代償としての放縦と堕落→共同体の崩壊と大衆化社会状況の出現→「パンとサーカス」という「シビル・ミニマム」→増大する福祉コストとインフレとローマ市民の活力の喪失→エゴと悪平等主義の氾濫→社会解体、というローマ崩壊プロセスは、日本の社会過程と類似していると述べ、ローマのように崩壊することを避けるためには、日本人が「自己決定能力」を失わなないことが重要であると述べていた。
豊かさの代償とは、①資源の枯渇と環境破壊②使い捨て的大量生産、大量消費の生活様式の定着(新奇性を追い求める)③便利さの代償(体力の低下、無気力、無感動、無責任、伝統文化破壊による日本人のコア・パーソナリティの崩壊)
 
第五章では、便利さの代償であり、情報化の代償である現象として、幼稚化について述べていた。
代表的な現象として「押しボタンの世界」について述べ、インプットとアウトプットのみ理解し、間の過程は「ブラックボックス」のまま理解せず、それでいて、アウトプットの質を上げることを要求する。という現状を指摘していた。
 
第六章では、情報化の持つ自壊作用について述べていた。
「情報化の代償」として、
①マス・コミュニケーションの提供する情報などの「間接経験」の比重が飛躍的に増大し、濃い内容の「直接経験」の比率が次第に低下。→情報が断片化、表面化、希薄化する。②情報過多に伴う各種の不適応症状問題③情報の同時性、一時性→刹那主義的な生き方の助長④情報受信と発信との極端なアンバランス→双方交流による思考ができず、オリジナリティのない借り物の知識となる。⑤マス・メディアによる異常情報、粗悪情報の過度拡散、の5つをあげ、それらが思考力、判断力を衰弱させ情緒性を喪失させ、幼稚化と野蛮化の病理を深めさせている。と述べていた。
 
第七章では、自殺のイデオロギーとしての「疑似民主主義」(悪平等主義)について述べていた。
疑似民主主義の特徴として、①非経験科学的性格「信じれば救われる」②画一的、一元的、全体主義的性格③権利の一面的強調(義務と責任を果たさない権利の主張)④批判と反対のみで建設的な提案能力に欠ける⑤エリート否定による大衆迎合的性格⑥コスト的観点の欠如、の6つをあげ、疑似民主主義は放縦とエゴ、画一化と抑圧を通して、社会を内部から自壊させる。と述べていた。
 
エピローグでは、これまでの諸文明の没落から、教訓を導き出していた。
①国民が利己的になり、みずからのエゴを自制することを忘れるとき、経済社会は自壊していく。②国民が自立の精神と気概を失う時、国家社会は滅亡する。③エリートが精神の貴族主義を失い大衆迎合主義に走るとき、その国は滅ぶ。④若い者にいたずらにこびへつらったり、甘やかしてはならない。⑤人間の幸福や不幸お金や物の豊かさだけで測れるものではない。
 
補論では、ローマ没落に関して詳細な論述をしていた。
117年の領土拡大停止から衰退が始まった。当時は奴隷が生産、エネルギーなど社会の根底を支えており、奴隷の技術に頼ったことにより、技術革新が停滞していた。技術者は停滞した中心にいるより、周囲へ行ってしまい、空洞化が進んだ。食品も輸入品にたより、輸入に見合う輸出品がないため、領土に課した税金で国家が成り立っていた。
 
解説では、各論者がこの本についてやグループ一九八四年について述べていた。
「日本の自殺」その後では、本の中の未来予想との相違点を述べつつも、「文明が内部から崩壊していく」という論点が的確であると述べていた。
 
【感想】
タイトルから見ると「日本の自殺」なので、「人」について述べられている(自殺率など)のかと思ったのですが、まさかの「国」の崩壊についてでした。しかし、ローマ帝国崩壊の状況と日本の現状を重ねる、というのが新しい観点で新鮮で衝撃的でした。特に「パンとサーカス」という表現が印象的でした。今、日本でも(世界でも?)「フリーミアム」という無償化が広まり、「無料でよこせ!」という国民の感情が高まっている現れだと思いました。また、豊かさや便利さや情報化、それぞれにその代償があるということをしっかりと理解するべきだと思いました。それぞれのプラス面、マイナス面どちらも理解していないと、文明崩壊の方向に流されてしまう、という危機感を感じました。
 
【個人的理解】
70% ローマ帝国の歴史がおおまかにしかわかりませんでした。。。
【個人的評価】
90点 1984年に出された本とは思えないほど、今の現状を言い当てていると感じました。
しかも、1984年当時はまだ右肩上がりの時代だったのに、そんな時代にこの本を書いたということも、先を見据えていてすごいと思いました。

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