2013年9月14日土曜日

読書マラソン 23/100 『イギリス型<豊かさ>の真実』 林信吾

読破っ!!
『イギリス型<豊かさ>の真実』林信吾(作家・ジャーナリスト)
発行:2009年1月
難易度:★★★★☆
ページ数:198ページ
 
 
 
【本のテーマ】
 イギリスでは医療を無料で受けることができる。「高福祉高負担社会」とはどのようなものか、その良い点、悪い点を考察し、日本と比較し日本が目指すべき理想の福祉社会について考える。

【キーワード】
ゆりかごから墓場まで、NHS(ナショナル・ヘルス・サービス)、GP(ジェネラル・プラクティッショナー)、労働党、保守党、新自由主義、英国病、痛みを伴う改革、NEET、クローズド・ショップ制度、ニューディール制度、国民皆保険、<アリとキリギリス>
 
【キーパーソン】
チャーチル、マーガレット・サッチャー、トニー・ブレア
 
【目次】
第一章 17.5パーセントの意味
第二章 ゆりかごから墓場まで
第三章 「低福祉・低負担ニッポン」
第四章 「クラウン・ジュエル」
第五章 ところで、若者は・・・?
第六章 長寿社会と福祉国家
あとがき
 
【概要】
第一章では、英国の高福祉高負担社会についての現状を述べていた。
イギリスでは医療費がほぼ無料である。厳密には薬代は定額性、歯科医療は一部有料であるが、
診察、手術などは無料で受けられる。その財源は、消費税(VAT=付加価値税)17.5%である。
その政策は「万事を自己責任で片づけず、医者にかかれない人をなくす社会」を目指すものである。アメリカは低福祉低負担、日本はアメリカ寄りの中間である。と述べていた。そして、実際に英国で生活をしていた日本人家族を例に、具体的な家計事情を述べていた。
 
第二章では、高福祉を実現するNHS(ナショナル・ヘルス・サービス)の歴史や特徴を述べていた。
戦後、元軍人がけがを治すのにお金をとならなかったことから始まり、1948年にNHSという医療無償制度として始まった。たびたび一部有料化の動きがあり議論が紛糾した。そこでは、統治の理論=「富める者は貧しき者に手を差し伸べる義務がある」という社会主義的考えと、「金持ちを貧乏にすることによって、貧乏人を金持ちにはできない」という新自由主義的考えがぶつかり合っている。
 
第三章では、日本の福祉の現状について述べていた。
1961年から国民皆保険制度が始まったが、医療がハイテク化することによるコスト増大、少子化による納税者の減少などにより、制度的に無理が出始めている。その対策として①受益者負担を徹底する②高福祉・高負担社会に切り替えていく、の二つの方法があると述べていた。
 
第四章では、サッチャー政権、ブレア政権での福祉政策の違いについて述べていた。
サッチャー政権では、NHSに市場原理を持ち込むことで効率化を目指そうとしたが、その結果医師・看護師の負担が増し、労働環境が悪化しさらには海外へ流出してしまい、人手不足に陥った。無償でサービスは受けられるが、その質が低い。という問題が生じた。
それに対して、ブレア政権では、NHSを「クラウン・ジュエル(王冠の宝石=手放せないもの)」であると述べ、新自由主義でもマルクス主義でもない第三の道を模索した。
またGP(ジェネラル・プラクティッショナー)というかかりつけ医制度があり、NHSとGPの二つを利用する。ということについても述べていた。
 
第五章では、若者の教育費などの金銭問題についてのべていた。
NEETはイギリス発祥の言葉であり、「国がなんとかしてくれる」という考えから生まれ、以前まで採用されていたクローズド・ショップ制(=リストラの際、後から入った社員から)が後押しをした。また、イギリスでは公立学校の授業料が無料である。しかし、私立学校は膨大なお金がいる。このことが階級社会を助長するとし、ブレア政権では教育機会の平等化を訴えている。と述べていた。
 
第六章では、英国の福祉制度の問題点と、目指すべき福祉国家の姿について述べていた。
英国の医療無償化は、第四章で述べたように、労働環境の悪化などの「制度疲労」を生み出しているが、あくまで「医療を受けられない人」を生み出さないように、他の制度と併用して存続していくであろう。と述べていた。日本の福祉政策に対して著者の主張として、①高齢者と若者の医療費を無料に②国立大学の学費を無料に、ということを主張していた。
 
【感想】
難しかったです。。。途中で何度寝たことか。しかし、授業と違って寝ると先に進まないのが、本の良いところでもあり、辛いところだと実感しました。イギリスの高福祉・高負担についての本でした。本の中でたびたび福祉のたとえとして「アリとキリギリス」の例えを出していました。物語の中のキリギリスは遊んでいたから最後に貧しくなっていますが、救済されるべき貧困とそうでない貧困を峻別し、救済されるべき貧困には国や社会が手を差し伸べるべきだ。という考えには共感しました。「アリとキリギリス」も、もしもキリギリスが病気や教育機会の不平等、家庭の経済的貧困により職を得ることができなかったと考えたら、とても残酷な社会のお話になるんだと思います。そして、その救済すべき・そうでないの峻別の境界線があいまいで、わかりにくくて、難しい。ということを述べていたのが。その通りだと思いました。
安倍政権でも、先日消費税をあげる。という発表をしていて。「この国はどこへ向かっているんだろう」と、うっすらと考えるようになりました。少子高齢化で年金制度が制度的に無理が出てきている。という話も、まだ先のことで他人事のようですが、もっと考えないといけないな。と思いました。
「いざというときは、国がなんとかしてくれる」社会というのは、ありがたいものであり、その反面、ソ連崩壊のような事態へつながる危険性もあるのかな。と考えました。この本には出てきませんでしたが、ソ連崩壊についても、もっときちんと知りたいと思っています。
 
【個人的理解度】
70% 具体的データ(家計状況など)が多くて、それが具体的すぎて分からなかったです。
 
【個人的評価】
80% 福祉国家、福祉社会について考えるいいきっかけになりました。
 
 
 

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