『日の丸家電の命運~パナソニック、ソニー、シャープは再生するか~』真壁昭夫(信州大学教授)
発行:2013年2月
難易度:★★★★☆
発行:2013年2月
難易度:★★★★☆
個人的評価:★★★★★
理解度:★★★☆☆
ページ数:221ページ
【本のテーマ】
日本の家電大手メーカーが今、大きな危機に陥っている。それぞれの企業の特徴と、赤字の原因を考察し、今後の将来展開について考える。
日本の家電大手メーカーが今、大きな危機に陥っている。それぞれの企業の特徴と、赤字の原因を考察し、今後の将来展開について考える。
【キーワード】
パナソニック :共存共栄、家族主義、破壊と創造
ソニー :コングロマリット志向(多角的事業拡大)、夢を与えるモノづくり精神、AR(拡張現実)
シャープ :独自性、国内一貫生産
NEC:キャリア(通信業者向けネットワーク事業)
富士通:筋肉質の体質、成果主義
Apple:ファブレス経営、コンシューマー企業
サムスン:ハングリー精神
日立:インフラ、BtoB、情報処理システム
東芝:ゴーイング・コンサーン、原子力発電事業
NATO(日本式経営)、集中と選択、コモディティ化、合議制による意思決定
コアコンピタンス、レゾンデートル(存在意義)
【目次】
はじめに
第一章 松下幸之助の家族主義をも捨てたパナソニック
第二章 消えたソニースピリッツ
第三章 土壇場に追い込まれたシャープ
第四章 明暗を分けたNECと富士通
第五章 不振にあえぐ家電メーカーの共通項
第六章 アップル、サムスン電子ら海外勢が飛躍した理由
第七章 好対照に黒字確保した重電各社
第八章 日本の家電メーカーは生き残れる
【概要】
第一章では、Panasonicの現状と理由、今後の展望について述べていた。
2006年に一度目の経営危機に陥った時、中村邦夫氏による「破壊と創造」により、<破壊>聖域なき構造改革(松下幸之助の「家族主義」の改革など)<創造>プラズマテレビへの注力など、を行い、経営が回復した。そして、今回の経営危機は、結果論的に言うと、中村氏のプラズマテレビへの傾斜が過剰であり、彼の経営を引き継いだ大坪氏がそのことに気付かずプラズマテレビ事業を拡大したことが最大要因である。と述べていた。その他の要因としては、M&Aの「のれん代」(=企業買収の際、現在価値+将来の成長する価値を支払う)を松下通信工業(携帯電話事業)と三洋電機(太陽電池、リチウムイオン電池事業)の二社分支払わなくてはならない、「負の遺産」によるコストである。と述べていた。もう一つの要因として、繰延税金資金の取り崩しにより、税金の前払いができなくなった点を指摘していた。今後の展望として、まずM&Aの「負の遺産」を一掃し、その後で、「どの事業で何をして稼ぐか」に注目されている。と述べていた。
第二章では、SONYの現状と理由、将来の展望について述べていた。
ウォークマン発売により、株価が急上昇したが、2012年3月期で赤字転換。2013年には黒字経営に転換するが、その代償として1万人規模のリストラを行っている。
その要因として、創業時の精神が薄れ、コングロマリット志向(多角的事業拡大)が大きな要因であると述べていた。創業者の井深大氏の「自由豁達にして愉快なる理想工場」から、出井信之氏の保険、銀行などにわたる多角的事業拡大により、リスク分散効果がある反面、「モノづくり文化」が薄れた。と指摘していた。そして、ハワード・ストリンガー氏になってからは、外資系企業のようになり、コストカット、価格競争を徹底している。今後の展望として、ウォークマンやアイボのような、夢のある「モノ作り精神」を取り戻せるかが課題であると述べていた。
第三章では、SHARPの現状と理由、将来の展望について述べていた。
2001年にAQUOSを発売し、株価が上昇していたが、2012年3月期で赤字転換、2013年3月期にも赤字決算、さらに、2013年9月末には転換社債2000億円の償還期限が迫っている。その大きな要因として、「液晶一本足打法」、そして「日本製」にこたわりつづけた国内一貫生産を指摘していた。価格競争により破れてしまった。と述べていた。今後の展望として、財源の目途を立て、シャープの強みである「独自性」を活かすことが大切だと述べていた。
第四章では、情報通信系メーカーであるNECと富士通を比較し、現状と理由を述べていた。
NECが赤字決済に転じた主な原因として、①2011年のタイの洪水によるサーバーなどのプラットフォーム事業の業績低迷②ケータイ、スマホへの出遅れ③キャリア(通信業者向けネットワーク事業)の不振の3点を指摘していた。特に③に関しては、前社長と新社長との間の反発によりトップ毎に経営戦略が大きく変わってしまうという「人災」的側面が強い。と述べていた。パソコン事業の成功により、「パソコン一本足打法」になってしまい、舵切りが難しかったことも指摘していた。
対する富士通は、かつてから「筋肉質の体制」と言われ、1993年にはメーカー初「成果主義」を導入した。結果的にはうまく機能せず、問題が生じたが、NECのようにぶっちぎりのトップにならなかったことが功を成したと述べていた。
第五章では、四章まで見てきた日本のメーカーの共通する失敗について述べていた。
①NATO=Not Action Talk Only(日本式経営を揶揄する言葉)=慎重⇔決断を先延ばしにする。
②顧客が本当に欲しいと感じる商品をつくれていない。
③自由と正反対の管理強化により、社員が新しい発想を生み出しにくくなる
④紋切型リストラにより、優秀な人材が会社に見切りをつけて流出してしまう。
⑤デジタル化の本質の見誤り(技術力<経営力への時代の変化)
以上の5つを大企業の衰退の要因の共通するところであると述べていた。
第六章では、アップル、サムスンなどの海外勢が躍進した現状と理由を述べていた。
アップルの成功要因として、エンジニア出身ではない創業者ジョブズが、1顧客からの視点で消費者が欲しいものを徹底要求した点、ファブレス経営(工場を持たず、外部委託)をするコンシューマー企業であった点、を指摘していた。また鴻海はEMS( Electronics Manufacturing Service)企業として、低価格でアップルなどからの受注を請け負った点を評価していた。そして、サムスンに関しては、韓国が経済危機に陥ってIMF資金支援を受けたことにより、国家破綻の憂き目を見たことと、北朝鮮との緊張した関係のなかから、自分たちが国力になりたい。というハングリー精神が強い。という背景の下で、日本の技術が普及し、また、家電製品がコモディティ化した(=作りやすくなった)点を指摘していた。
第七章では、黒字を出していた重電系のメーカー(日立・東芝・三菱)について分析し論述していた。
日立、東芝、三菱電機の三社は、金融危機以降の経済環境下において、家電事業をリストラし、新興国のインフラ(特にアジア)への投資を進めた。そのようなBtoBの社会インフラは、アフターサービスが安定した収入の基盤となる。日立は、2009年3月期には、7873億円の赤字を計上したが、河村氏と中西氏を中心とする経営改革により、BtoCからBtoBに切り替え、競争の激しい家電から撤退をし、情報処理システムや信頼性が求められる新興国での社会インフラ(火力発電事業など)に集中したため、業績回復につながった。東芝は、西田前社長により、不採算事業から早めに撤退し、原子力発電・米最大手のウエスティングハウスを買収した。原発反対の風潮があっても、新興国で求められる安全性の高い原子力発電に日本が選ばれる可能性は高かった。と述べており、ゴーイングコンサーン(企業が継続的に事業を続けていくことを前提とした考え方)
三菱電機は、「強いものをより強く」という経営方針を正しく行い弱いところ(携帯電話事業など)を畳み、強いところ(環境エネルギーとインフラ)に集中した。特にFA(産業用ロボット)事業は、高い技術力が求められ、参入障壁が高いため、世界規模で需要がある。
以上三社はコモディティ化による価格競争から逃れ、自社の強みを生かした分野に集中することで、業績を維持できた。と述べていた。また、「経営者」の質も重要であり、顧客の一歩先を予測する能力が求められる。と述べていた。
第八章では、家電メーカーが生き残るために重要なポイントを述べていた。
まず著者は前提として、生き残れると言い切っており、そのために必要な力として。
①経営力・・・過去の成功にとらわれずに、常にイノベーション(改革)を起こせる経営者だ大切。
②新しい市場を開拓し、需要を掘り起こす。・・・顧客が欲しいと思うものを作る。BtoCにおいて高性能に傾倒しすぎない。
という二点を述べていた。そして、各メーカーに関しての対策を述べていた。
SONYは、AR(拡張現実)などの、「夢のあるモノ作り」というレゾンデートル(存在意義)を持ち続けることが大切であり、多角化した経営は、ホールディングカンパニーとして、独立させるのがよい。SHARPは、財源を安定させるために、良いパートナー企業を見つけ、BtoBに切り替えていくのがよい。Panasonicは、過去の負の遺産を整理し、太陽電池事業を住宅事業と結び付けた、Panasonicにしかできない事業をするのがよい。と述べていた。
そして、筆者が「生き残れる」と言い切った根拠として、「日本ブランド」に「安心・安全・高品質」というブランドイメージがまだ存在しているからだ。と述べていた。
【感想】
就活中の面接で、「大手家電メーカーの経営悪化の原因は何だと思いますか?」と聞かれて、考えた末に、各企業の説明会で聞いたことも話しつつ、「大企業病になったから」と答えたのですが、その答えに自分で納得がいかなかったので、この本を読みました。読んでみて、各メーカーの強みや、過去の偉業を詳しく知ることができ、また、経営悪化のそれぞれの原因を知ることができました。しかし、それは企業の一側面でしかなく、企業の中にいろいろな側面があり、会社としての最終計上額を見て、結果論的に論じている。という印象も受けました。大企業を語る。というのは、本当に難しいな、と思いました。今は筆者のような経済の専門家の言葉を借りて、表面的に理解することしかできません。働き出して、何十年してやっと、もっと深くまで理解できるんだと思いました。
【評価・理解度】
各企業についてのイメージが深まったという点で、とても読む価値がありました!