『風に舞い上がるビニールシート』森絵都(作家)
発行:2006年5月 文春文庫
難易度:★★★★☆
感動度:★★★★☆
共感度:★★★★☆
個人的評価:★★★★★
ページ数:342ページ
【本の紹介】(裏表紙より抜粋)
才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、
犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、
難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり・・・・・・。
自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた
6編。あたたかくて力強い、第135回直木賞受賞作。
【目次】
器を探して
犬の散歩
守護神
鐘の音
ジェネレーションギャップX
風に舞い上がるビニールシート
解説: 藤田香織
【感想】
すごいよかった。
高校生の時に一度読んだことがあったけれど、
その時に何を感じたのかはもうすっかり忘れてて、
話の内容もかなり曖昧だったけど、
今読んでみると、また違う味わいがあってよかった。
良かったと思う点と、考えたことをそれぞれ書きます。
まず、良かったと思った点は、
それぞれの短編の世界観が違っているのが良い。
そして、それぞれの短編の「日常」がやけに細かく、詳しくて、
(たくさん参考文献を読まれたんでしょうね。)とてもリアルに感じられた。
そして、そんな中にそれぞれの人が悩みを抱えながらも奮闘する姿に感動を覚えた。
それぞれ別個の短編の中には、時間軸を移動した展開があったり、
過去の話も盛り込んでいたり、と、内容がとても濃く、それでいて引き込まれやすく、
読み始めると一気に読み終わってしまうような小説だった。
また、世界観だけではなく、文章の表現方法も変わっているのがよかった。
「守護神」では夜間大学に通う生徒たちのやりとり、ということで、
知的で論理的で、淡々と息継ぎをするまもなく畳み掛けるような会話のやりとりが、
リズミカルで快感だった。
「鐘の音」では、仏師が主人公で、関西弁(若干違和感を感じる関西弁でしたが)
メインのやり取りであり、古風な職人気質の雰囲気がよく出ていたと思う。
「風に舞い上がるビニールシート」では、難民のために働く国際公務員たちが主人公ということで、
会話がまるで洋画を字幕で見ているかのような、
そんな欧米チックなアメリカンなノリをうまく表現していた。
こんなにもコロコロ作風を変えられる作家はすごいと思う。
読んでいて飽きないからこういうジャンルがすごく好き。
そして、考えたこと。
この小説の表題ともなっている「風に舞いあがるビニールシート」、
これは、表題作の中の登場人物、国連機関職員のエドが、
紛争地域でいとも簡単に命が失われていく難民を例えた言葉でした。
強い風で簡単に飛んでいってしまうビニールシートのように失われていく命を、
エドは必死で捕まえて、飛んでいかないようにこの世界にとどめようとしている。
そういう感動的なエピソードでしたが、
もしこの小説が短編小説ではなく、この作品だけであったならば、
この例えも、お話もどこか綺麗事で現実味のない無味乾燥なものとなっていた気がする。
というのも、この話だけにスポットを当ててしまうと、
紛争地域ではなくても、物質的には豊かとされる日本においても、
人々は悩み、苦しみ、もがき、どうにかしようと努力している。
という事実が隠れてしまいがちだからである。
紛争地には不幸がたくさんあるというのは何となく想像できるけど、
紛争地じゃないからといって、必ずしも幸福なわけでもない。
風に舞い上がるビニールシートの表現を用いるのなら、
決して簡単に風で飛んではいかないけど、
いろんな人に踏まれて、汚されて、雨風にさらされて、
ボロボロになりながらも、それでも地面にとどまっているビニールシート、だってある。
どっちが幸せで不幸か、なんて簡単に、一概には言えない。
もちろん、簡単に命が失われていってしまうことは悲しくて、辛いことである。
けど、命が失われない世界でも、悲しいことや辛いことはたくさんある。
6編のちょっと変わった人たちの、「平和ボケした」(作中の言葉)日本で、
それでも苦しんだり悩んだりしている人たちの話の最後に、
この「風に舞い上がるビニールシート」という話があった。
その流れがすごく秀逸で、その流れがあったからこそ、
難民という少し身近ではない話も、すんなりと入ってきた。
もしも森絵都さんがそこまで意識してそういう構成にしていたのなら、
もうまさに、脱帽!なんて勝手に想像して興奮していました。
森絵都さんの「カラフル」を読んだ時は、「児童文学」というイメージだったのに、
この短編小説でイメージが変わりました。
ほかの作品も読んでみたいと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿